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【番外編】岡崎慎司 最終予選6月シリーズから、粘っこさと長走と修羅場への取り組み。岡崎慎司と2つのゴール

 開始後2分に日本が先制した。
 オウンゴールだったが、見事なカウンターアタックだった。6月10日、横浜国際総合競技場、相手の右サイドのドリブルを防ごうとした日本の反則で、右タッチライン寄り35mでのFKがあって、ファビオ・モンテジンが左足で蹴った。そのライナーを阿部勇樹がダイビングヘッドでクリアした。このボールの奪い合いから岡崎慎司が競り合って中村憲剛に渡した。ハーフウェーライン手前5m、左タッチラインの内側10mくらいのところだった。

 憲剛は内へドリブルして、ハーフウェーライン中央の中村俊輔にパス。俊輔は自分の後方に来たボールを左足で引き寄せながら、奪いに来る一人をかわして前を向いて、右オープンスペースへ左足でパスを送った。
 右後方から内田篤人が疾走。懸命に戻るマジディ・シディクのスライディングタックルよりも内田の方が早く、一気にペナルティエリアの右角を走り抜け、ゴールラインから8mあたりでクロスを送った。

 そのとき、岡崎は(最初の憲剛へパスを送った位置から長走して)ハーフウェーライン手前から左前へ出てペナルティエリアを斜めに走り、内田のクロスに合わせようとしていた。そうさせまいと、岡崎と併走してきたアフメド・アルビナリがニアサイドでこのクロスを防ごうとしたが、体に当たったボールがGKラジャブ・カシムの右を抜いてゴールに飛び込んだ。
 横浜の私の記者席は、カタール側のゴールラインに近い位置だったから、俊輔が見事なステップとターンで相手をかわしつつ、右サイドのスペースへためらうことなくパスを出すところ、内田のクロスからゴールまでの一部始終がよく見えた。

 ビデオを見直すと、ペナルティエリアにかかるところで、ニアに入ろうとする岡崎とアルビナリの「コースの取り合い」があって、アルビナリがニアを取るのだが、翌日の朝日新聞関西版に掲載された写真は、16番をつけた彼が、岡崎の右腕のユニフォームを左手で握りながらボールを処理しようとしているのを見事にとらえている。岡崎の動きをシャツホールディングで封じようとしたために、体の動きが制限されてボールの処理がうまくいかなかったのかもしれない。
「天網恢恢(てんもうかいかい)、疎にして漏らさず」と言えば、アルビナリにはちょっと気の毒かもしれないが、俊輔のテクニックと内田の速さと岡崎の意欲的な長いランと、それぞれの長所の組み合わせによる「オウンゴール」だった。

 岡崎はタシケントの対ウズベキスタンのアウェーゲームで、唯一のゴールを決め、日本の南アフリカ大会への一番乗りの道を切り開いている。すでにこのゴールについて多くが語られているが、私には彼が滝川二高の出身で、黒田和生監督の教え子の一人、ちょうど黒田さんがチーム練習としてシュート力強化を重視し、成果が上がるようになり始めるころの選手と聞いているだけに嬉しい。
 ダイビングヘッドが得意だそうだが、ゴール前の、いわば修羅場へズカズカと入り込んでいく、ストライカーの資質の一つを備えているらしい。そしてまた、ボールから目を離さないところと粘っこい体は魅力でもある。

 タシケントのゴールは、彼と中村憲剛を、最終予選シリーズで、初めて試合の初めから起用した一つの成果だったが、これも、岡崎がディフェンスに回っていて、相手の右からのクロスをヘディングでカットし、憲剛に渡したところからの攻撃だった。
 憲剛がドリブルで攻め上がった第一波が2人に挟まれて奪われたあと、相手DFのキックが長谷部誠に渡ってから第二派の攻めとなった。長谷部が取ったときに、すでに岡崎は右外側へ走り上がろうとしていたが、長谷部は短いパスをすぐ前の憲剛に送った。
 憲剛はこのボールを受けると右へターンしつつ、右足で小さく浮かせて前方へ送り、相手ディフェンスラインの裏へ、右から入ってくる岡崎に合わせた。悪いピッチに影響されないライナーのパスだった。岡崎はこのボールを右足インサイドで止め、相手DFの追走より早く左足でシュートし、GKネステロフに当たったリバウンドをダイビングするような形でヘディングで決めたのだった。

 この試合はピッチの悪さとレフェリーの不思議な判定という二重のマイナスがあって、後半は押し込まれる形になったが、GK楢崎正剛と2人のCBを中心とする守りで防ぎ切った。イレブンの戦う姿勢が素晴らしかったが、やはりサッカーは点を取れるときに取るべきものという感じを強くした。
 追加点を取れない不満や改良点はまだまだ多いはずだが、南アフリカで良い成績を挙げるためには、これからの努力が大切になる。
 今から40年前にメキシコ・オリンピックで得点王となった釜本邦茂が、アジア予選の後に実力アップしたことを、改めて思い起こす。


(週刊サッカーマガジン 2009年6月30日号)

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