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日本リーグ、PK戦採用と攻撃的サッカー


 日本リーグが、今季から、引き分けのときはPK戦で決着をつけようと「PK方式」を採用することを決定した。そして、同時に、順位決定の方法も、その中の「ゴールアベレージ」を「総得点数」で決めることに変えた。これで、日本リーグの試合内容が、どのように変わるのか、といった疑問も出てきたが、今回は、この「PK方式」にスポットを当ててみた。


90分の試合はほぼ同じに

――日本リーグで、今季から「PK方式」が採用されることになりましたが、まずこれについてどのように思われますか。

大谷 これだけ考えると、日本リーグを面白くしようということ、人気をもう少し回復しようということから考えついたものではないかと思う。それはそれでいいことで、できればその方法を、もっと早く考えてほしかったということはあるが、放っておくよりも何かを考えることはいいことだと思う。

――これで従来の「勝ち2、引き分け1、負け0」という勝点制から、「勝ち4、PKによる勝ち2、同負け1、負け0」と改められた。引き分けても、PK戦に負けると、同じ勝点1でも従来の引き分けで得た勝点の勝ちの半分にしかならない。

大谷 しかし、PK方式が果たして本番の90分の試合を面白くさせるかどうかということは、ちょっと断言できない。

――リーグの説明では、「試合内容の向上。引き分けより、勝つためにもっと攻撃的なサッカーをやらせる」ということでしたが。

大谷 それなら、もっと攻撃的なサッカーをやらせるために効果のある方法は考えられたと思う。攻撃の多いサッカーをやらすということは、結局、もっと得点を狙わせたい、もっと得点を取らせたいということでしょう。とすれば、得点に対する評価を高くする、得点そのものに価値を認めればいいわけです。PK戦というような回りくどい方法を取らずに……。これまでは、またPK方式になっても、3−0で勝とうと1−0で勝とうと同じことになる。それより、1−0はなく3−0で勝った方がいい、あるいは0−3で負けるより1−3で負けた方が最後には得をするのだと、そういうものを考えた方が、もっといいのではないかということです。

――PK方式だと問題が多いという点について、そこのところをもう少し説明いてほしい。

大谷 つまりこれだと90分の試合そのものは従来どおりでもいいわけです。引き分けても、PK戦で負けなければ、前と同じ勝点をもらえる。そうすれば、PKを練習すればいいわけです。従来の引き分けを好んだチームに、どういう変化がくるかといえば、PKを練習することで、その“引き分け戦法”は従来どおりの有効さで残っていくことになる。なにも得点をしなくてもよい。

――ただ、技術的な問題で、PKをやることが、キックの正確性とか緊張したところで蹴ったりすることで精神力をつけるなど、何か技術向上にもプラスになるのだという意見があった。

大谷 そんなものはほとんど期待できない。それはPKの技術についてだけであって、動いているボールとか、もっと変化のある中での技術というのは、PKをやっていても上手くなるものではない。ゴール正面11メートルから静止したボールを1対1で蹴るのと、もっとたくさんいる中で、動いているボールを蹴り込むのとでは非常な違いだ。
 だから、このPK方式だと90分の試合中に1点でも取ってやろう、負けても入れるんだといったことは起こらない。勝っている方にしたら、やっぱり負けてはいかん。2−0で勝っていて、あと10分しかないとなれば、確実に守って逃げた方が得だ、ということになる。90分に関しては、以前と同じことだ。

――PK戦をうまくやればいいと言っても、やはりそれを避けたいという気持ちはある。だから、例えば同点で終わりごろまできたというような場合には、勝負を意識した攻撃的なサッカーが期待できる。

大谷 それはあるでしょう。しかし、ごく少ないケースで、リーグ全体からみて、そう大きな効果は考えられない。試合全体、リーグ全体を活気あるものにするためには、勝っても負けても、点を取ることにもっと高い評価を与えないといかんわけです。一つひとつのケースを考えて、活気が出てくる出てこないとかいうのでは仕方がない。


問題は得点への評価

――そうすると、このPK方式については、90分の試合を面白くさせるということでは、かなり悲観的な感じになる。

大谷 ここでも分かるように、試合の内容というものは、運営方式と絡んでくるもので、それと無関係には存在できないということなのです。それは技術の問題についても同じことで、一見技術は技術で存在するように見えるが実際はそうじゃない。あらゆる技術の問題のうち、技術だけで解消できるものも、もちろんあるが、そうでないものが多い。つまり環境ということ、協会の組織とか競技会の在り方、運営などと無関係ではありえない。今度のPK方式だったら、競技会の中で順位のつけ方ということになるわけだ。

――これについては、その問題点などについてまた聞きたいと思います。それで、PK方式についてはあまり期待できないということなのですが。

大谷 要するにもっと直接得点に対して価値を与えるという方法をとれば、いいわけだ。それは何かというと、得点に“ボーナス・ポイント(勝点)”を与えるということです。これまでにも、リーグに提案したことはあるが、3点につき1ポイント(勝点)とする。これは、1試合に限らず2試合にまたがってもいいと、複数の試合で、何試合にまたがっても3点“貯金”できれば1ポイントにする、といったものです。そうすると、0−2で負けているというとき、負ける方からすれば、1点でも取って負けた方が、結局その1点があとで生きてくる。逆に勝っているチームも、もう1点取って勝てば、ということで、セーフティファーストで逃げるなどということはしなくなる。勝点の与え方は、他にも違った考え方があるだろうが、得点のより多いことが生きてくるようにしないと、得点を競い合うようにはならない。

――そうすると、先にいったPK戦は、何が面白いサッカーなのかという点について、商店がはっきりしていないことになる。

大谷 もっと積極的な攻撃的サッカーが面白いのだということから見ると、PK戦の場合は、一部の試合を除いて、逃げるか諦めるかについては、影響がないということになる。だから、どの試合でも面白くさせるとなれば、3得点1ポイント制のように少しでも点を取ったら得だということにする必要がある。


面白い試合の要素

――それから、得点の多く入るかどうかが、面白いゲームになるかどうかの大きな要素であるということについて、もう少し詳しく聞かせて下さい。

大谷 面白いゲームというのには、技術的な問題もパーセンテージを占めているが、それだけじゃない。日本の場合は、技術が低いということでつまらなくさせている場面もあるが、さらにプラス、守備的なゲーム運びや戦法をとっていることが、面白くなくさせている。もちろん、先にいったように勝点の与え方を変えたからといって、全てが、面白くなるとはいえないが、積極的なゲームの方が得をするんだということになれば、点を多く取ろうという、その部分だけでも面白くなってくる。  ふつう一般的には技術も、点の取り合いというのが、面白さの重要な要素になるんです。たとえば、2部の試合があって、それは300人か400人しか見ていなかったけれど、5−4の試合で、みんな非常に喜んで、一人も途中で帰ろうとはしなかった。そして、その翌日に、1部の試合があり、0−0で、もっとお客は来ていたが、試合半ばで帰る人が出ていた。もちろん試合が緊迫していなかったこともあったが。結局、技術から見ると、2部の方が低いのだけれど、4、5点取る試合は、最後まで見たいと思わせたことは確かだった。実際に神戸であったことです。

――それと、得点が入らなくても、ゴール前の攻防が多いことも、面白い試合の一つの要素ですね。

大谷 それは、得点が目の前にぶら下がっているから面白いのだ。入るか入らないかと思って見ているから面白いのであって、中盤でどっちが取るかどうかを見ているのより、こっちの方がずっと面白いのは当然だ。
 それから、今度の日本リーグの要綱改正として、順位決定の方法で、勝点と得失点差が同じ場合は、ゴールアベレージ(総得点を総失点で割る)で決めていたのを、総得点数の多い方が上になるように変わった。得点数で生きてくるのは、いわばそこだけなんです。しかし、そこまでいくというケースは非常に少ないので、これまでは、だいたい得失点差までで決まっていて、そのシーズンで一つあるかどうかだった。だから、それが生きてくることはあまりないだろうと思われる。

――そうでしょうね。

大谷 ひっくるめていえば、現在は、負けないための守備的なサッカーが主流となっている。これは日本だけでなく、世界でも同じ傾向だということがある。そこで、「もっと面白くしよう」ということがいろいろなところで考えられているわけです。今度の改正についても同じことで、面白くするために攻撃的なサッカーをやろうというならば、攻撃的なということは得点の多いサッカーといいかえられる。すると、得点の評価を上げてやらないかん。それがいちばん効果のある方法なのだから、単純にそこへ行けばいいのに、PK戦という直接関係のないものを持ってきた。ということは、結局、間接的な影響しかないということになってくるわけです。


written by 大谷四郎
(サッカーマガジン 1977年10月10日号)

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