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なぜパスが不正確なのか


――ゴールキーパーが出たから、次はフルバックかと思った読者もおられたらしいのですが……。

大谷 普通ならそうなりますね。教科書のようで……。サッカーの試合がどう展開してゆくか分からないように、この話も自由に展開させて下さい。サッカーは生きていますから……ハッハッハッハ。いいですか。

――と、どうなりますかね。

大谷 前回は壁パスの場合のタイミングのずれなどをやりましたが、そのパスについて少しやりましょう。

――結構ですね。


基本のインサイド・キックが不正確だ

――パスといえば、外国のチームとの試合でいつも目立つのは、日本のパスにはミスが多いことです。

大谷 その通りです。パスのミスにも、受け手の動きやトラッピングのミスもありますが、渡す方のミスも非常に多い。その中には前回述べたタイミングの悪さもありますが、パスのキックそのものの狂い、不正確さによるものがひどく多い。代表チームでもこうした至極単純なミスが目につくのですから、一般にはいかに多いことか。グラウンドが悪いことの影響も幾分あるが、技術そのものの原因も思いのほかありますね。

――どんな技術ですか。

大谷 先般もある大学1部リーグ校の対抗試合で、あまりにも慌ただしい、ボールは取りつ取られつ一進一退ですがさっぱり面白くない。そこで約15分間のパスを勘定してみたら、両軍を通じてのパスで最高4本つながったのが1回、3本が2回、2本が5回、もちろん途中にキープがあるのも含めてですよ。あとは1本で終わりか、最初の1本目が成功しなかったパスが無数でした。ごく最近に天皇杯の地域大会で調べた例では、一方は日本リーグ2部、片方は学生リーグ1部下位で前半まだ元気なときの15分。日本リーグ2部側が7分の優勢なキープで、はっきり意図したパスが計65回。うち3本以上つながったのが12回、2本が11回、1本が13回、まったくの不成功0本が29回。この本数の中には、攻撃の準備段階でごく近くの味方をちょっと楽に使うとか、バックス同士で横につなぐ楽なパスも含めてですよ。それでこの数字だから、相当に雑なパスだと分かるでしょう。

――20mにもならないパスで、途中に邪魔が入らないのに味方が受け切れないで、あっさり献上のパスになるとがっかりします。

大谷 昔と違って今はボール扱いがうまくなっているはずなのに、なぜこうもキックが不正確なのかと不思議なくらいです。だがよく観察すると原因はあります。だがよく観察すると原因はあります。一口にいうと、一見さまになっているが、高校生以上でもまだキックのポイントを掴んでいない人が意外に多いことです。
 立ち足が蹴ろうとする方向へ向いてボールの横に踏み込まれているか、立ち足は突っ張らないでヒザが軽く曲がって柔軟さを持っているか、シリが後ろに落ちないで重心がきちんと立ち足に乗っているか、蹴り足のバックスイングは大きくなりすぎないで適当か、足の面の使い分けがはっきりしているか、足首はしっかり固定しているか、ボールの蹴るべきところを正確に蹴っているか、蹴り足の振りはフォロースルーしているか、目はボールをしっかり見ているか、といくつかポイントがあるわけです。

――しかし、さほど長くないパス、こんなものと思うような易しそうなパスが狂うので驚くのですが。

大谷 以上のポイントにはキックの目的によってバリエーションがありますが、一般にキックの種類としてあげるのに、使用する足の面(部分)によるものがあるのは周知のことです。ところがその使い分けがはっきりしない。これが短いパスでも狂いが起こりやすい大きな原因の一つです。なかでもインサイドキックがしっかりやれない選手が案外に多いことです。種類には、インサイド、アウトサイド、インフロント(インステップのインサイド)アウトフロント(インステップのアウトサイド)ヒール(かかと)――さらにニー(ひざ)を加える人もいますが、こんなものがあって、その中で基本というか肝心なもの、これがしっかりやれれば大部分の場面は一応こなせるというのがインステップとインサイドのキックです。ことにインサイドは足の最も広い面を使うので、最も狂いの少ない安全正確なキックと認められているものなのに、それが不正確だから、不正確なパスが極めて多くなるわけです。


コーチはコーチング(教え方)のポイントを掴め

――そのどこが悪いのですか。

大谷 先にいったポイントの他に、このキックでは、図1のように蹴り足が蹴る方向に向かってしっかり直角に開いていることが最も重要なポイントとして加わるのですが、直角に開かないので(図2)インフロントに近い面が、ボールの中心線を外れて当たることとなり、ボールに横の回転が加わってまっすぐ飛ばない場面が多いですね。途中に邪魔が入る場合はそうしてカーブをかける必要もあるのですが、邪魔が入らない場合は最も素直なストレートのボールを蹴るのが到達点での狂いも少なく、受け手も受けやすいのです。またときには、相手を左足の方向へ誘って逆の右の外側に向かって蹴るというフェイントの場合には、図3のように直角以上に開かねばならない。こうしたことがしっかりやれない。

――なぜでしょうか。

大谷 この場合、体は左足方向へ正対していないといけないのです。ひざを伸ばした直立不動の姿勢で立って、両足先を外へ開くとせいぜい90度の角度(片足は45度)ぐらいしか開かないでしょう。だから図1または図3の場合は、実際には右足は180度またはそれ以上開いていることになります。それにはひざを伸ばして硬くしていてはだめで、つまり立ち足のひざを柔らかく曲げること。いわば開く角度はひざ次第なのです。
 次にバックスイングが短いのにボールを飛ばす力をどうしてつけるか。体重の軽い少年たちには大きな問題です。この場合、足を振るだけでは大した力になりませんから、腰で蹴るというか、腰を入れるというか、足のかかとから押し出すような気持ちで、少年は特にその押し出しを長くして一歩その右足が前に出るぐらいのフォロー・スルーにすれば力が加わります。このときも、立ち足のひざが大切で、軽く曲げていないと腰が出てこない。立ち足に重心が十分に乗っていることですね。
 これを体で覚えて、無意識にそうなるには、中学生の年齢でしっかり掴むことです。そのためには、蹴り足を直角にしろというキックのポイントだけではなかなか分かりにくい。今いったひざ、かかとの押し出しなどはコーチング(教え方)のポイントで、教えるにはこれをコーチがしっかり掴んでおくと教えやすいですよ。

――どうすれば、キックのポイントを分からせるかという問題ですね。

大谷 要するに以上の点からして正確さは失われている。だから教える方も厳しくそうした原因を観察することですね。今のキックが不正確でパスの不成功が多いということは、以上のようなキックのポイントが崩れている場合が多いし、それをしっかり掴めるように、中学生時代のコーチにもっと正確な教え方をやってほしいと思います。単にしっかり蹴れではなく。

――しかし、この頃はインサイドキックはタイミングが遅れやすいというか、アウトサイドをもっと使えとかいうのを聞きますが。

大谷 もちろん、今のトップレベルのサッカーをやるにはキック一つにもいろんな種類を要求されますが、形だけ真似ても駄目です。キックのポイントを掴まないとね。一般に少年たちは、一流選手の曲芸的なものですぐ真似る。それも大切で意外にこなす者もいますが、全部がそうはいかない。そのときにもその曲芸技のポイントを掴むかどうかです。そうした意味から、キックの基本の一つのインサイドキック、ことに“センチメーターパス”などとカッコいいことうぃうからには、最も狂いの少ないはずのインサイドキックの狂いがもっと指摘されていいのではないですかな。

――教え方だけでなく、日本ではネルソン吉村大志郎がカーブを初めてはっきり見せて人気が出たし、ペレのバナナ・シュートなどがもてはやされたことも響いてはいませんか。

大谷 そのカッコよさが何%かは確かに影響していますが、それだけしか残らなくて、ストレートに蹴れない選手がいるのでは困ります。外国チームが来ていろんなキックを見せますね。しかし、フェイントもかけないで、ただ素直に渡せばいい場合は、これが数は多いですし、そのときはやはりインサイドで確実に渡していますよ。ことに欧州のチームはそうです。そういったパスでも日本チームはミスが出るが、彼らはまずミスはない。この差を埋めるだけでもすごく効果の大きいことだと思います。難しい技術の差を埋めようとするより、まず基本の易しい技からレベルを上げるべきです。しかもキックなどという基本技の問題は、せいぜい中学生時代に軌道に乗せておくべきものではないでしょうか。


written by 大谷四郎
(サッカーマガジン 1977年12月25日号)

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