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【番外編】日本代表欧州遠征、オランダ遠征を見て


得点すれば守りも助かる。日本代表・憲剛たちの決定力向上に期待しよう

「どんどん攻めて、チャンスらしきものをつくってくれるだろうが、そのときにゴールを決めることができずに、終わってみれば負けている――」。試合前に考えた通りのオランダ戦だった。

 試合の流れを一気に変えた69分のオランダの最初のゴールは、ロビン・ファンペルシーが決めたのだが、このチャンスはまずウェスレイ・スナイダーのCKを日本側がヘディングで防ぎ、これをペナルティエリア外で拾ったナイジェル・デヨングが左サイドへ送った後、エレイオ・エリア(アリエン・ロッベンに代わって後半出場)が戻ってきてダイレクトで丁寧に、ファンペルシーのボディへパス、エリア内左ポスト近く(約10メートル)で受けた彼は胸というより腹のあたりでトラップし、振り向きざまに左足ボレーシュートを決めた。  ファンペルシーは左利きで、これは得意の形の一つ。2006年のワールドカップ第1戦、ライプチヒでの対セルビア・モンテネグロで、ハーフウェーラインあたりでボールを受けた直後に体の向きを変えつつ、左足のパスを守備ラインの背後へ送り、ロッベンの突破で唯一のゴールを挙げたプレーはいまも覚えている。
 そのファンペルシーが、日本のゴール前で彼の良い形でボールを受けたときに、日本の守備陣で彼に密着している者はいなかった。いちばん近い長友佑都がチャレンジしたが、効果はなかった。

 数的優位で守っていて、一つの局面(このときはCKのヘディングの競り合い)の後にマークが緩むのは、これまでも指摘されてきたところ。こういう場面での失点の反省は、パスミスを奪われたとか、前からの守備がほころびたということになり、それも修正が必要だろう。ただし、90分間の試合で、どこで守りがほころび、どこかの時間帯で動きが落ちるのは不思議ではない。
 大切なのは、そのときに選手一人ひとりがなぜマークが緩んだのか、自分がなぜ良いタイミングで防ぎにいけなかったのかを考え、ビデオを見直し、単にポジショニングだけではなく、自分のそのときの構えや姿勢についても検討することだろう。

 2点目のスナイダーのシュートも、人数をかけて囲んでいる格好になってはいても、相手が一呼吸置いたために、そのシュートを見つめるだけという感じだった。ああいうときに、世界のトップクラスのディフェンダーはどうしていたかについて、当事者たるプレーヤーが自ら見つめ直すことだ。
 こうしたディフェンダー個々の能力(フィジカルを含めて)のアップは、本番までの課題の一つだが、私には今の日本代表にとって、冒頭の「無得点」の解消の方が手近なように見える。

 この試合でも、こちらのプレッシングが効いている時期に、もし2ゴールしておけば、当方の動きが落ちても、持ちこたえる時間は長くなっただろう――と誰しも思うはず。そしてまた、ディフェンスの向上には、優れたアタッカーとの対応が大きい部分を占めるけれど、得点力のうちの大きなパーツは、ボールを扱う(シュートを含めて)ことにあって、これは自分一人でも、あるいは日本にいてもできることである。

 岡崎慎司が前半に相手の裏で俊輔からの“フワリ”パスを受けたときに、左足のトラップが、もしシュートにつながるものであったなら――このプレーは、この連載で登場したデニス・ベルカンプ(オランダ代表、アーセナル)の得意の形の一つ。岡崎が飛び込みのヘディングという武器に、速いダッシュの後の落下ボールの処理力を高めれば、彼にも代表にも大きなプラスとなる。
 40分過ぎに中村憲剛が内田篤人からパスを受けてペナルティエリア左角やや内寄りから蹴ったシュートは、腰が引けて勢いがなかったが、この位置は世界の右利きのトップクラスの点取り屋の多くが十八番としているところ。

 憲剛は前半に中村俊輔の右サイドからのファーへのクロスに、ゴール左ポスト外へ走り込んでいる。合わせ損ねて、得点にならなかったが、オランダという大敵を相手に、彼はその痛いところへ入っていく能力を見せたのだった。その能力を結実させるためにも、シュートとその関連プレーの向上が何よりだろう。
 もちろん、攻撃の過程でスピーディであっても、“急”ばかりの一本調子が多くて、相手を惑わせて、崩すといった場面は少なかったことも考えなくてはなるまい。同時にまた、それは当事者たちのシュートに入る体勢に関わることでもあるのだが……。

 一本調子といえば、せっかくのプレッシングで比較的楽に攻めを起こしたとき、シュートレンジに近づきながら、また次のパスコースを探すという、従来からの習慣が多かったのは、まことにもったいなかった。
 シュート能力のアップについて多くの人は、「それが一番難しい」というらしいが、いくつかの実例を見てきた私は、オランダとの差を縮めるのはこのことが一番だと思っている。


(週刊サッカーマガジン 2009年9月29日号)

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