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【番外編】日本代表欧州遠征、第2戦ガーナ戦から


中村憲剛たちのゴールへのひたむきな意欲が生んだ逆転劇

 対ガーナの逆転勝利、おめでとう。
 90分の試合で0−2から1点を返して1−2とした後、3点目を奪われ(1−3)たのが66分、普通なら「勝負あり」と言っても良いところだが、そこから追いついて、4−3で勝った。最後まで勝とうとする意欲を持ち続けた、監督、コーチ、選手たちに敬意を表したい。  ガーナは特に、ワールドカップの予選を戦い本大会出場を決めた直後という条件もあって、試合終盤に急激に動きが落ちたことが、当方に幸いしたとも言えるが、だからと言って、この逆転劇の値打ちを低く見ることはない。

 第1戦の対オランダでは、失点してから戦意が衰えた感じだっただけに、そうした空気を立て直したのもチームの進歩といえた。
 何より良かったのは、中村憲剛が日本の1点目を奪って反撃の口火を切ったこと。
 6月のキリンカップ、アジア最終予選からMF陣のレギュラーとして起用され、彼は自分の第2の特色“飛び出し”を徐々に見せながら、ゴールを奪うという点では満足とはいかなかった。オランダ戦でもそうだったし、この試合の前半でも決定的チャンスを逃していた。だが、後半に入っての53分に岡崎慎司の右からのパスが左へ流れるのを、後方から走り上がってペナルティエリア左角付近でとらえ、左足シュートを決めた。ランの勢いを乗せて叩いたシュートをGKキングソンは手に当てたが防げなかった。

 この10月の誕生日で29歳――。充実期にある中村憲剛にとって、このゴールはステップアップへつながる得点であり、代表チームにとっても大きなプラスの一つとなるはずだ。
 玉田圭司(70分に前田遼一と交代)が彼の一番得意な形で左足シュートをズバリと決めて2点目を奪った。このチャンスを生んだ左サイドバック長友佑都の突っかけと、粘りのボール奪取は素晴らしい。彼はこの後も相手の動きが鈍ったとみて積極的に仕掛けを繰り返し、稲本潤一(63分に長谷部誠と交代)のゴール(4点目)につながるパスを送っている。その稲本は78分に、相手ディフェンスラインの裏を狙った岡崎の頭上に、ピタリと合わせるロビングボールを送って3点目を演出した。彼自身の持ち味を出したといえる。
 動きの早さと、その量の多さを看板にする今の代表にとって、選手交代は重要ポイントで、第2戦はそれをテストし、成功したことになるのだろう。

 私自身には、9月10日のJFA(日本サッカー協会)の創立記念日に行なう大切なセレモニー「日本サッカー殿堂掲額式典」前日の、対ガーナが逆転劇であったことが、とても嬉しかった。2004年に始まった功労者の表彰は今年で第6回となるが、代表の勝利のおかげで式、レセプションとも晴れやかなものとなった。
 今回の掲額者は、
▽日本代表監督であった高橋英辰(たかはし・ひでとき)=故人
▽ジャーナリスト、大谷四郎=故人
▽70年ワールドカップで初の日本人審判員となった、丸山義行
▽68年メキシコ・オリンピックの銅メダリスト、松本育夫(サガン鳥栖GM)
 以上4氏(本誌9月29日号参照)。

 ロクさんこと高橋さんや大谷さんは、私よりも7、8歳年輩で、ともに長いつきあい。ロクさんは1959年の第1回アジアユース大会の日本代表チーム監督のとき、私が報道担当兼マネジャーで参加した。私には大切な“辞典”であった。
 大谷四郎さんは朝日新聞に入社したときに「将来の編集長が入ってきた」と言われたというエピソードを持つ。人柄も学歴も能力も、嘱目された逸材だったが、「生涯一記者」を通し、私たち関西のサッカー仲間にとっては精神的支柱だった。

 故人のご遺族、ロクさんの長女、井上真由美さん、大谷さんの長男の亮介氏、そして今もサッカー界で活躍している丸山義行、松本育夫のご本人が犬飼基昭JFA会長から表彰を受けるのを眺め、また、JFA名誉総裁の高円宮憲仁親王妃久子殿下の心のこもった挨拶を聞きながら、つくづく代表チームの頑張りを喜ぶのだった。
 そして、その一方で、日本が1930年の第9回極東大会の対中華民国戦(3−3)で引き分け、初のアジア1位になって以来、相手の個人能力で守りを破られるという、アマチュア時代の流れが今も続いていること、ワールドカップでも98年の対ジャマイカ(1−2)2006年の対オーストラリア(1−3)の例は、今度の代表にも当てはまることを再認識したこと、そして、その克服法は36年ベルリン(3−2スウェーデン)68年メキシコ(3位決定戦2−0メキシコ)の成功例のとおり、組織力と得点力アップにあることを、改めて思うのだった。


(週刊サッカーマガジン 2009年10月6日号)

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