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【番外編】日本代表親善試合スコットランド戦


探しものが見つかった。岡田監督は運がいい? 横浜で見た若いストライカー

 初めてナマの森本貴幸というプレーヤーを見た。キリンチャレンジカップの対スコットランド、56分(後半11分)からの交代出場だったから、ロスタイムを含めて37分間ということになるが、良い時間に良いプレーヤーを見せてもらったという感じがした。
 この原稿を書いている14日の夜に、俊輔、遠藤をはじめとする、これまでのレギュラー組と、トーゴ戦に出場するのだろうし、その試合を見た後、もっと詳しく書けるかもしれないが、良いものを見せてもらった後はどうしても字にしたくなるもの。そこで森本貴幸初見参記。
 その40分足らずの印象はまず、「岡田武史監督は運がいい」だった。
 今の日本代表、それも岡田監督が入念に俊輔たちとともにつくり上げてきたチームの中で、最も必要とするパーツが、どうやら手に入りそうになったからだ。
 ある点では、初めてナマの中田英寿を大阪・長居で見たときの鮮烈にも似ていた。97年のキリンカップ、対トルコ戦での中田は、体がしっかり叩くキックもその頃の日本では数少ない正確さと強さを持っていた。「日本はこれで98年ワールドカップへ行けるだろう」と、私は思ったものだ。

 イタリアのセリエAで、実戦を積んでいるのだから当然といえば当然だが、森本はストライカーとして必要な技術を持っていた。
 本格的なシュート場面は少なかったが、チームの2点目に彼が絡んだ反転してのシュートを見る限り、きちんとボールを叩けるのだろうと思う。
 丸刈りの風貌からブラジルの大ストライカー、ロナウド(・ルイス・ナザリオ・リマ)を思い起こす。ダッシュの速さや、小さなステップの軽やかさは似ている感じもする。長い距離はロナウドほどではないようだが、ロナウドはその爆発的な速さのために自ら何度も右ひざを痛めたから、今の森本の体とスピードのバランスでいいのかもしれない。

 スコットランド代表は、レギュラーが大幅に欠けていたそうだが、選手たちは真剣に、接戦を厭わず(それでいて、まずまずフェア)に当たりの強さを見せたが、森本はそれに負けることなく、瞬間の速さでボールを奪うプレーも見せた。
 代表のFWでは、期待の大型・平山相太が伸び悩んでいて、いわゆるCF(センターフォワード)タイプが少ないが、走り回り、スペースに飛びだし、飛び込む岡崎慎司が急速に自信をつけた。速いドリブル突破とシュートで自らステップアップした石川直宏もいる。前田遼一という183センチのFWも伸びてきた。大久保嘉人や佐藤寿人などもいるが、特色は俊敏さ。そうした中で、森本はまず180センチと大きくはないが、そこそこの上背があり、骨組みがしっかりしていて、欧州、南米の強い体のDFとの接触プレーにも負けないように見えること、ボールを受けるときの体の使い方の上手なこと、そしてスタートダッシュの早いこと、何より常にゴールを狙う、ストライカーらしく、良いシュート位置、良いチャンスのポジションへ入ることができることだ。

 スコットランド戦で日本は2ゴールを挙げた。その2得点はともに、左から駒野友一の早いクロスから生まれ、1点目は相手DFのオウンゴール、2点目は本田圭佑がリバウンドボールを決めたのだが、この2得点とも森本が絡んでいた。
 1点目は左サイドで相手ボールを松井大輔と森本で奪った後、森本がドリブルして、ゴール正面の本田に渡し、本田がシュートの構えを見せつつ左へ流れてボールを散らし、これを駒野がダイレクトでライナーのクロスを送った。ディフェンスラインとGKの間へ飛んだのをクリストフ・ベラが足を出して防ごうとしてゴールへ入れてしまった。そのベラの右外には森本が詰めていた。彼は左からドリブルで入ってきて本田にボールを渡した後、本田が左へ流れる間に、右のファーポスト寄りにポジションを移してした。その気配でベラが何とか止めようとした末のオウンゴールだった。
 2点目は森本が中央部でボールを取り、中村憲剛に渡し、中村から今野泰幸経由でパスを受けた駒野が左サイドからクロスを送り、それを森本が今度はニアサイドに入って、ゴールを背にしてボールを受け、左足で止めて右足で反転シュート。それが相手DFの足に当たったリバウンドを本田が決めたのだった。
 この若さで、良い位置へ入ってくるうまさは、やはり出色ものだった。  大会の8ヶ月前といえば、古い話ながら68年メキシコ・オリンピックの年の3月、釜本邦茂が西ドイツ留学で一段ステップアップし、日本代表に新しい力が加わったことを思い出す。


(週刊サッカーマガジン 2009年11月3日号)

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