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ラウル・ゴンサレス(9)2009年新銀河系のレアル・マドリード、不満の声の中で評価を高めるベテラン


 キリンチャレンジカップとアジアカップ対香港計3試合の日本代表10月シリーズのゴールラッシュや、岡崎慎司、森本貴幸たちストライカーについて2度の番外編で取り上げました。今回から再びレアル・マドリードのラウル・ゴンサレスの続きに入ります。

 2009−10年スペインリーグは、10月26日で第8節を終わった。首位はバルセロナ(7勝1分け0敗。得点23、失点4)。昨シーズンの3冠(欧州チャンピオンズリーグ、国内リーグ、カップ)のメンバーから第一級ストライカー、サミュエル・エトオが抜けたが、新しく加わったセンターフォワード型のズラタン・イブラヒモビッチが働き、ジュゼップ・グアルディオラ監督のもとで昨年と変わらぬ見事な試合ぶりを見せている。
 それに比べるとクリスチアーノ・ロナウド、カカーといったスーパースター、さらにはカリム・ベンゼマ、シャビ・アロンソ、ラウル・アルビオル、アルバロ・アルベロアなどを加えて2002年以来の欧州王座奪回を目指すレアル・マドリードは、その「新銀河系」と言われる豪華な顔ぶれの評判もいま一息。

 8戦6勝1分け1敗、得点21、失点6で2位につけてはいるが、3位のセビリアに敗れ、7位ヒホンに引き分け、6勝した相手のうち4チームは下位。C.ロナウドの個人的な強さが目立ちはするが、その彼もここしばらく故障で戦列を離れている。
 カカーはときに目の覚めるような速さを見せるが、チーム全体の動きとなるとバルサの機能的な美しさ、強さはなく、サンティアゴ・ベルナベウのサポーターも、テレビ観戦の日本のファンもやや不満というところだろう。
 そうしたチームの中で32歳のラウルが評価を高めているのは不思議でもあり、嬉しくもあるのだが……。

 開幕以来8試合に出場して、すでに3ゴールを決め、チャンピオンズリーグでも3試合で2ゴールを決めた。10月21日の対ACミラン(2−3)での19分のゴールで彼は通算68点、チャンピオンズリーグの最多得点者となっている。
 このゴールは仲間のエステバン・グラネロのシュートを相手GKジーダがファンブルしたのを奪って決めたもの。自分の正面にきたボールをキャッチしたジーダがそのボールを落として足に当てて前にこぼしたのを見逃さなかった。
 普通なら、GKがキャッチしたところで諦めやすいのだが、そのときにも接近の動きを止めることが無かったところにラウルの目の鋭さ、あるいは独特の勘があるように見えた。

 リーグでは、開幕戦の対デポルティボ・ラコルーニャ(3−2)で先制ゴールを決めたことは連載の5(9月22日号)でお伝えした。このときにもベンゼマのシュートのリバウンドを決めている。
 こういうシュートのリバウンドを決めるのは、日本では第8代会長の長沼健さんの選手時代の特徴でもあった。メキシコ・オリンピック銅メダルチームの監督でもあったが、古河電工の選手時代にリバウンドボールのそばに「また健さんがいる」という感じで得点した。
 ラウルは、こうしたスモールゴールだけでなく、自らのドリブルシュート、左右からのクロスに合わせての飛び込み、あるいは相手ラインの裏へのタイミングの良いダッシュと、それに続くゴール、といった自分の持ち芸とも言える足のシュート、ヘディングで得意な方に入れての得点を重ねてきた。

 10月17日、第7節の対バリャドリッド(ホーム)は4−2の勝利で、うち先制点と2点目がラウルだった。この日はC.ロナウドの姿はなく、カカーも、イグアインもベンチスタート。1点目は右からのグラウンダーのクロス、2点目も左からのそれだったが、右からのクロスは走り込んだ足元に送られ鋭いボールを左足のアウトサイドのかかとのあたりで捉えたもの。2点目は右足インサイドで正確に流し込んだ。
 ディフェンスに隙間の多い相手ではあったが、チーム全体に調子の上がっていないとき、ベテランの先制2ゴールでレアルは取りこぼしをしないで勝ち点を挙げたのだった。

 第8節のヒホンは相手の堅い守りにてこずりノーゴールに終わったが、ラウルはゴール正面での抜け目ないシュートやオープンスペースへの巧みな動きをして相手の脅威となっていた。
 若いスターとの共演や、多くの新加入選手とともにプレーするラウルを画面で見ていると、彼が自分の芸や特色を仲間に伝え理解させる力、そしてまた仲間の特色を見て、それを引き出し自分との適応を図る能力の高さを思うことになる。
 彼が25歳の時に経験したルイス・フィーゴやジネディーヌ・ジダン、ロナウドたちとの第一期銀河系を次号でもう一度振り返ってみたい。


(週刊サッカーマガジン 2009年11月17日号)

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