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ラウル・ゴンサレス(11)第23回トヨタカップ。ロナウドの特色を引き出し、ジダン、フィーゴとともに“銀河系”100周年の栄光を担う


 2002年12月3日、横浜での第23回トヨタカップで、私たちは夢のような現実を見た。
 ジネディーヌ・ジダンがいた。ロナウドがいた。ルイス・フィーゴがいた。そして、ラウル・ゴンサレスも、ロベルト・カルロスもいた。
 半年前のワールドカップKOREA JAPANの決勝でブラジルを優勝に導いたヒーローのロナウドをこの年に加えた“銀河系”レアル・マドリードが、欧州チャンピオンズリーグの勝者として南米のコパ・リベルタドーレス覇者、パラグアイのオリンピアを相手に、ヨーロッパ・サウスアメリカ・カップを争ったのだった。

 レアル・マドリードは単に強いだけでなく、多くのファンに夢のような楽しさを味わってもらえるチームでなければならない――というフロレンティーノ・ペレス会長の願いそのままの顔ぶれの登場に、スタジアムは7万2,370人で埋まった。
 レアルに比べれば“無名”に等しいオリンピアではあったが、南米のナンバーワンらしく、しっかりした個々の技術と体の強さ、そして強い挑戦の意欲を持ち続けて戦い、何度もレアルのゴールを脅かした。そしてまた、衰えることのないタフな動きによる多数防御で、レアルの再三の攻め込みを阻んだから、ゲームは最後まで緊張感があった。

 その「頑張る」オリンピアを相手に、手を変え、品を変え――次々に繰り出すレアルの攻めは、パスの一つひとつ、トラッピングの一つひとつに見る者が思わず声を上げてしまう見事さがあった。
 当代きってのドリブラー、フィーゴを右に、ディフェンダーでありながら深く侵入して強シュートとクロスに威力を発揮するロベカル(ロベルト・カルロス)を左に置いたこのチームは、ピッチの幅いっぱいにプレーするサッカー独特のスケールを持ちつつ、局所局所でみせる巧緻なテクニック、そしてそれを駆使してのフェイクのアイディアの多彩さを見せる。さらにはスーパースターたちのテクニックや身のこなしだけでなく、クロード・マケレレやエステバン・カンビアッソといった脇役たちの危険域をカバーし、それを攻めに結びつける能力に、あらためて感服させられるのだった。

 前半10分までにロベカルの左からのクロスシュートがあり、フィーゴのドリブルとともに、7万人を沸かせたあと、13分にレアルの先制ゴールが生まれた。
 レアルの右サイドのタッチラインで、相手側のスローインがあって、
(1)これをミチェル・サルガドが足に当てて前方へ、
(2)右に開いていたラウルがヘッドで、すぐ後方のフィーゴへ落とし、
(3)フィーゴもすぐ左のカンビアッソへ。
(4)カンビアッソが左へドリブルして前方やや左寄りのジダンへ送った。
(5)ジダンがマーク相手を背に、右足アウトで左のスペースへ軽く流すと、
(6)ロベカルが走り上がってノーマークでキックの構えを見せつつ前進して30m付近から中へ速いパスを右斜め前方へ――
(7)中央、やや左寄りへ入っていたラウルが、ペナルティエリアの3m手前で、このボールを受けると見せてノータッチで通す。
(8)ゴール正面、ペナルティエリアのライン上でボールを受けたロナウドはワントラップで前へ出て、右足シュートしてGKリカルド・タバレルの右を抜いた。

 ゆっくりとした中盤でのパス交換とドリブルから(5)のジダンのダイレクトパスのあと、一気にスピードが上がり、右外にいたラウルが中央に動いて、そこへ出された強いパスの線上に後方からロナウドが現れてこのボールを受けたところが、大スター競演ゴールのミソといえるだろう。
 ロナウドは必ずしもベストの状態ではなかったようだが、この位置は彼の角度でもあり、独特の速さで前へ出て来て余裕たっぷり(GKの構えと位置を見ておいて、右下スミを破った)のシュートはまさに、ロナウドのプレーだった。

 ビデオで見直すと、右に開いて、最初の攻めへの転向のボールを受けたラウルが、左サイドへボールが移動してゆく間に、ポジションを右から中へ移して(内にいたロナウドの前を通って左へ動く)ロナウドの前方を開け、ロベカルからの早いパスを意表を突くノータッチプレーを演じて(中央をマークしたCBがロナウドへ向かうボールのインターセプトに失敗したのも、このフェイクのためだろう)ロナウドのシュートに結び付けていた。
 この先制ゴールでラウルは新しいスーパースター、ロナウドの最も得意な形を生かすための攻撃形成で大事な役柄を果たし、その適応能力の高さを示したといえる。
 この試合は、このあとも多くの楽しいシーンとサッカー特有の激しさと緊迫感を受けつつ、レアルが後半にロナウドに代わったグティのヘディング(フィーゴからのクロス)で、2−0で勝った。25歳のラウルはクラブ100周年に「世界クラブ・ナンバーワン」の祝祭でスーパースターたちとともに名を残すことになった。


(週刊サッカーマガジン 2009年12月1日号)

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