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ラウル・ゴンサレス(14)2009「エル・クラシコ」。イブラヒモビッチの“異質効果”と30回目、ベテランの戦う姿勢


 今季のスペインリーグ12節、注目の「エル・クラシコ」、FCバルセロナ対レアル・マドリードは、1−0でバルセロナの勝ちとなった。
 唯一のゴールは、右サイドのダニエウ・アウベスが、ペナルティエリアの右後方からレアルの守備陣の背後へ送った高いボールを、落下点でズラタン・イブラヒモビッチがとらえ、右足ボレーで決めたもの。
 ペナルティエリア内で、彼ら特有の短いパス回しからの得点ではなかったところが、私には面白く、長めのパスを裏へ走り込んで決めたイブラヒモビッチは「良いチームには、そのチームの主流とは異質のプレーヤーが存在する」という持論に当てはまる例と言えた。
 アンドレス・イニエスタやシャビ、さらにはリオネル・メッシといった、小兵選手たちの細かい足技とターンを生かした短いパス基調のこのチームから、サムエル・エトオが去ったあと、この190センチの大型FWを加えたことで、昨年来の強さを保持するだけでなく、足技も巧みな彼の「大きさ」がチームのアクセントとなり、効果的な働きをしている。

 この得点シーンも、左サイドでイブラヒモビッチが、後方からのボールを相手センターバックを背にしながら受けてバックパスで戻し、そこから短いパスを2本つないで右サイドへまわして、D.アウベスが長めのクロスを裏のスペースへ送り、そこへイブラヒモビッチが走り込んだのだった。短いパスをつないだあとの長いパス、横パスを相手ラインの前で動かしてDFたちを立ち止まらせておいてから、背後への長いスクエアのスルーパスというバルサ的と、非バルサ的なパスの締めくくりが、非バルサ的巨漢であったことになり、それがつまり、今のバルサということになる。

 バルサのように、上質の選手がそろっているところでも、なおスウェーデン人の長身FWを加入させたのを見れば、このポジションにおける上背や、体の大きさの重要性は明らかだろう。
 必要な選手、必要なタイプのプレーヤーを国内外から(資金力があれば)集められるクラブと、同じ国籍のプレーヤーでチームをつくるナショナルチームとは条件が違う。
 外国人選手に比べれば、体の小さな選手の多い日本では、代表チームは、自らの特徴を生かすことになるが、その中に異質の大きさのプレーヤーを加えることも、また良いチームをつくる要件でもある。

 エル・クラシコで敗れたレアル・マドリードでは、久しぶりに登場したクリスチアーノ・ロナウドがまずまずの働き――。鋭いカカーとともにやはり非凡な力を持つことを見せたが、後半にこの連載の主人公であるラウル・ゴンサレスがピッチに立ったのも、私には嬉しかった。
 32歳の彼は17歳で一軍にデビュー以来、レアル一筋に、今年16シーズン目、エル・クラシコは30回目の出場という。
 テレビ画面でメッシとボールを奪い合い、シュートチャンスにゴール前に現れる姿があった。右CKのときにシャビ・アロンソのキックを、ニアサイドでヘディングしてゴール正面のカリム・ベンゼマへ送り込み、チャンスを演出した。相手に絡まれてベンゼマはシュートできなかったが、こうしたプレーを通じて、彼の淡々と戦う姿が印象的だった。

 今回はラウルのストーリーよりもバルサとレアルの「ダービーマッチ」に行数を使うことになったが、前号までの話を受けて、2003−04年シーズンを補足すると――。
 リーグもカップも、そして欧州チャンピオンズリーグでもタイトルを逃したラウルには、この年6月12日からの欧州選手権(EURO04、ポルトガル)というビッグイベントが待っていた。
 優勝候補の呼び声高い開催国ポルトガルを押しのけて欧州の王座に就いたのは、なんとギリシャ。スペインは期待を集めながらグループステージで開催国と、このギリシャと、ロシアと同じ組で戦い、3位にとどまり敗退した。
 グループステージの最初の試合で、ポルトガルがギリシャの厚い守りとカウンターに屈して1−2で敗れる波乱があったあと、スペインはまずロシアに1−0で勝ち、ギリシャと1−1で分け、ポルトガルに0−1で負けて1勝1分け1敗(得点2、失点2)。ギリシャ(1勝1分け1敗、得点4、失点4)と同勝敗、得失点差も同じだったが、得点数で及ばず3位となった。
 ロシア戦でも追加点のチャンスがありながら、ラウルやフェルナンド・トーレスたちが決められず、ギリシャ戦もラウルはイージーゴールを失敗した。
 代表チームではタイトルの取れないラウルにとっては、27歳の充実期で迎えた大会だが、調子は上がらずに終わった。イニャキ・サエス監督は選手起用や戦術に問題ありと責められた。


(週刊サッカーマガジン 2009年12月22日号)

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