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ラウル・ゴンサレス(16)ケガと不調の04〜06シーズンを脱し、新しい銀河系でのその協調力発揮に期待


 スペインの――というより、世界的ビッグクラブ、レアル・マドリードで1994年から16シーズンの長い間、FWとしてプレーを続けているラウル・ゴンサレス。その長いキャリアを追うこの連載は、前号でスター軍団のレアルと彼自身の低迷期、2005−06シーズンにふれた。
 若いころから非凡なゴール奪取の才を認められ、クラブの得点記録を書き換え、通算ゴール数でクラブとスペイン代表のトップの座を維持してきたラウルだったが、04−05シーズンから3年間はリーグの得点数も1ケタにとどまった。
 77年6月生まれの彼にとっては27〜30歳の普通なら最も充実する年齢のハズだが、若いうちからレアルのキャプテンになって多くの外国人スターとともにチームをまとめてゆく心労の疲れとケガが重なっての停滞期だったかもしれない。

 スペイン代表でも、欧州選手権(EURO)やワールドカップで戦い続けてきた。サッカー大国でありながら代表チームは長い間不振という不思議なスペインだが、82年のワールドカップ自国開催以来、代表への関心も高まり、リーガエスパニョーラ全体のレベルアップを背景に、メディアやファンの代表への期待も高くなっていた。
 06年ドイツ大会で、グループステージH組で3勝して首位突破のあと、ノックアウトラウンド1回戦でフランスに当たり、この大会で引退するジネディーヌ・ジダンの働きの前に屈してしまった。
 期待が大きかっただけに責任追及の声も高まった。キャプテンのラウルの働きにも及んだ。ヒザの故障で長く休み、復帰してからも調子の上がらなかった彼の起用が間違っていたという声もあった。これまでの数字を持ち出してスペイン代表でのラウルのゴールが多いのはランクの低い相手からの得点稼ぎが多かった――など、これまでの代表の不振も彼に原因ありと言わんばかりの指摘もあった。
 シャビやシャビ・アロンソをはじめとした優秀なメンバーを抱えながら、早いうちにチーム戦術を打ち出さなかったルイス・アラゴネス監督への批判ももちろんあったのだが、そのアラゴネス監督は、ドイツ大会のあと、ラウルを代表から外してしまった。

 超大物の一人、ジダンは去ったが、デビッド・ベッカム、ロナウド、ロベルト・カルロスといった年長の大物スターを抱えたレアルはこの新シーズンにファビオ・カペッロを監督に迎え、新たにイタリア代表の守りの要、ファビオ・カンナバーロやブラジルのエメルソン、ママドゥ・ディアラといった中盤の守備役を加入させ、攻撃陣にルート・ファンニステルローイを獲得した。
 このオランダの長身選手は、マンチェスター・ユナイテッドでの働きに比べれば06年は今一息だったが、これまでとは違ったタイプの大型ストライカーによって、レアル・マドリードの勝利は増え、06−07シーズンはリーグタイトルを獲得した。
 チャンピオンズリーグはノックアウトラウンドの1回戦でバイエルン・ミュンヘンと1勝1敗(3−2、1−2)ながらアウェーゴールで勝ち抜きを阻まれたが、調子を戻し始めたラウルは、この強敵との試合にファンニステルローイとのコンビで活躍し、自らも2得点した。リーガエスパニョーラの得点も1ケタながら7ゴールとなった。

 大きくてヘディングが絶対的というわけでなく、ロナウドのように速さで群れを抜いているわけでもない。ただし、そのシュート技術、ドリブルをはじめ、あらゆる才を仲間との協調の中で生かすことの巧みさは真似のできぬもの――と、誰もが認めるラウルの協調力がコンディション回復とともに、ファンニステルローイという大きくてリーチのあるオランダ人FWと組むことで発揮されるようになった。ラウルはチームの攻撃をつくるとともに自らのゴール数もまた伸ばした。

 07−08シーズン、レアルは27勝4分け7敗で31回目のリーグ優勝を遂げる。調子を崩して19勝10分け9敗で3位に終わったバルセロナに勝点で20、2位ビジャレアルにも10ポイントの差をつけた。チームの得点は84、失点は36、ラウルは18ゴールを挙げてリーグの得点ランクで3位に名を連ねた。
 ファンニステルローイだけでなく、ウェスレイ・スナイダーやラファエル・ファンデルファールトといったオランダ勢も加わり、ラウルともども低迷期脱出のレアルにはまた新しい動きが出た。
 世界一のプレーヤーをチーム内に持つこと、そしてバルサとともにスペインリーグが世界一であるための推進力となること――、このクラブの古くからの哲学はクリスチアーノ・ロナウドやカカーを獲得する“新銀河系”となる。

 09年8月25日号からはじめ、新銀河系でのラウルを確かめつつ、そのキャリアを眺めてきた。彼の話はここでひとまず終わることにし、引退までテレビ画面に現れる彼のプレーを見守り、楽しみたいと思っている。


(週刊サッカーマガジン 2009年12月29日号)

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