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【番外編】FIFAクラブW杯決勝 2つのヘディングゴールとメッシの胸ゴールに思う


 アラブ首長国連邦(UAE)アブダビでのFIFAクラブワールドカップは、予想どおり欧州チャンピオンズリーグの覇者、FCバルセロナが優勝したが、決勝の対エストゥディアンテスは前半に先制され、後半終了近くに同点として延長に持ち込み、その後半にリオネル・メッシが勝ち越しゴールを決めるという際どい勝利だった。

 面白かったのはバルサの同点ゴールが、彼らの得意な短いパスとドリブルの組み合わせでの崩しからではなく、ロビング攻撃からだったこと。相手を押し込んだあとシャビのロブのパスがファン・セバスチャン・ベロンの頭に当たって高く上がったのをペナルティエリア内にいた長身のピケがヘディングして、その落下点へペドロが走り込んでヘディングでGKダミアン・アルビルを破ったもの。ズラタン・イブラヒモビッチという超大型FWへの警戒もあり、ピケへの対応は身長の低いクリスチャン・セジャイだった。

 前半にはボールのつながらなかったバルサが後半にパスが回ってチャンスをつくったために、防戦に追われたエストゥディアンテス側に疲れが重なった。動きが鈍り、守備網に隙間が広がっていたから、バルサのボールポゼッションからの攻撃がボクシングでいうボディ攻撃のように効いてきたとも言えるが、ハイボールの空中戦で同点ゴールをもぎ取ったところに、FCバルセロナのチーム力の厚みがあるのだろう。
 決勝ゴールは、中盤でメッシがシャビに渡し、シャビが右に振ってダニエウ・アウベスが右からクロスをエリア内へ送り込んで、メッシが走り込んだもの。いったん左外へ開いておいて、危険地帯に戻ろうとするベロンよりも一呼吸スタートを遅らせ、その背後から落下地点へ入っていったメッシのコース取りのうまさと速さに、改めてストライカーの資質を見ることになったが、同時にボールの高さと走り込んだ勢いからヘディングでなく、「胸」を選んだところもフィニッシュへの気持ちが表れていた。

 ヘディングといえば、エストゥディアンテスの先制点もヘディング。長身のマウロ・ボセッリが左からのクロスをプジョルの背後、アビダルのニアサイドで叩いたのだった。
 日本でもこのところ代表チームのFKやCKの武器である中澤佑二や闘莉王たちのヘディングが注目されるようになった。彼らは185センチ以上の長身だが、中型サイズの岡崎慎司の登場で、ヘディングゴールへの関心が一段と高まってきたのは、まことに嬉しいことだ。
 日本のFWでヘディングの名手といえば、まず釜本邦茂(68年メキシコ・オリンピック得点王)だろう。ボールの高さの見極めのうまさ、落下点への入り方、ヘディングそのものの技術の確かさ、額でとらえるインパクトは、足のインパクト同様、確かなものだった。マンチェスター・ユナイテッドからレアル・マドリードへ移ったクリスチアーノ・ロナウドのヘディングの上手さにはテレビで見るたびに感嘆する。

 釜本やC.ロナウドたちは長身のヘッダーだが、不世出の王様、ペレは170センチの小柄ながらヘディングの強さで知られていた。前述のメッシも今や世界のトッププレーヤーだが、ヘディングもまた巧みで、バルサの試合でイブラヒモビッチからのロブのクロスをメッシがヘディングで決める――というシーンも見せている。
 ヘディングを習熟すれば、高いボールに対する感覚が良くなり、胸のトラップをはじめ空中のボールの処理が上達するはず。クラブワールドカップ決勝のメッシの「胸ゴール」も、彼のヘディングの上手さと不離のものだろう。

 守備戦術が発達し、ときにはペナルティエリアに6、7人を配して守ることもある今のサッカーでは、ヘディングは攻守いずれにとっても重要な技術である。足のシュートで、スイングを小さくする工夫は古くからあるが、ヘディングシュートは足のシュートよりも狭いスペースで可能ということもあり、またクロスパスのヘディングの折り返しのパスやニアに入っての「そらし」、あるいはバックワードヘディングのパスは、いずれもダイレクトで行なうプレーであるだけに、相手GKにも防ぎにくいものとなる。
 日本代表のヘディングの技術は昔に比べると格段に進歩しているように見えるが、ヘディングパスの精度、ヘディングシュートの正確さは、さてどうだろう。
 小柄なヘディングの名手で、70年代の大スター、ケビン・キーガン(イングランド)は若い頃、スタンドの壁を相手にピッチの端から端までヘディングしつつ、移動する練習を繰り返したという。彼は私に言った。「ヘディングの上達は回数に比例します」と。


(週刊サッカーマガジン 2010年1月19日号)

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