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ウェイン・ルーニー(2)横浜で見せた3得点と、守備力、パスの巧みさと協調力


 アジアカップ予選A組、対イエメン(6日、サヌア)での若手主体の日本代表の3−2の逆転勝利は2011年の本大会(カタール)への出場を決めただけでなく、平山相太のハットトリックという「特別ポイント」があって、近来の朗報だった。日本中が注目している190センチの大型ストライカーは国見高校を出てからの成長が必ずしも期待どおりではなかったから、Aマッチ初出場での3得点は今年6月に満25歳になる彼にも、日本サッカーにも大きなステップとなるだろう。
 昨年11月、40年前の大型ストライカーだった釜本邦茂元JFA副会長と伸び悩みの相太について話したとき、このメキシコ・オリンピック得点王は「どしどし試合に出せばいいんですよ」と言っていた。

 さて、連載2回目のウェイン・ルーニー。平山と同年代で、4ヶ月遅れの1985年10月24日生まれだが、こちらは17歳ですでにイングランド代表に入り、EURO04、ワールドカップ06年にも出場、今年の南アフリカ大会でも注目のスターFW。また天下のマンチェスター・ユナイテッドで今年6シーズン目、チームのプレミアリーグ優勝3回、UEFAチャンピオンズリーグ優勝1回に貢献してきた。09−10シーズンはただいまチェルシーに次いで2位。超大物クリスチアーノ・ロナウドがレアル・マドリードへ去ったあとの攻撃の大黒柱でもある。

 前回で、彼とマンチェスター・Uが一昨年のトヨタ・プレゼンツ・FIFAクラブワールドカップで優勝したとき、準決勝でガンバ大阪と5−3のゴール応酬戦を演じたとき、後半の途中から出場したルーニーのゴールにふれた。
 ガンバがようやく1ゴールして1−2と追い上げようとした直後のキックオフからダレン・フレッチャーが出した高いボールを受けて、ガンバのDFをかわして左足シュートを決めた彼の1点目(3−1)は、山崎雅人のゴールで湧き上がった場内の歓声を打ち消し、驚きのどよめきに変えたのだが、今そのビデオを見直してみると、落下点で胸に軽く当ててボールを前に落とし、コースへ入ろうとする中澤聡太と入れ替わるようにしてボールをモノにし、左へ流れてゆく動作がまことに自然で、それでいて早く、かつ盤石の強さが不思議でもあった。
 このルーニーの3点目で再びマンチェスター・Uの攻撃に火が付き、左からのクロスをフレッチャーがヘディングで決めて4点目。さらにルーニーがライアン・ギッグスのパスをシュートして5−1としてしまった。

 それからガンバがPKを含む2ゴールを加えて、私たちを喜ばせてくれたのだが、この夜の6万7,000の大観衆とテレビ観戦の多くのファンは、ガンバ特有の攻守に拍手を送りつつ、ここというときのマンチェスター・Uの早さと激しさと上手さに、改めて世界の頂点にあるチーム力を知った。
 と同時にルーニーという、23歳のそれほど大柄ではないが、ずんぐりとした体つきの、このストライカーのボールタッチの柔らかさや一つひとつのプレーの正確さと力強さに感嘆したのだった。

 同じ横浜で12月2日に行なわれた対リーガ・デ・キト(エクアドル)との決勝は、キトの多数防御とGKホセ・セバージョスの頑張りで、後半の半ばまで無得点で過ぎた。アルゼンチン人のクラウディオ・ビエレルとの絡みでセルビア人、ネマニャ・ビディッチがレッドカードで70分に退場、マンチェスター・U側は数的不利となる。チャンスとばかりに攻めに出て後方の厚みがなくなったときに、ペナルティエリア内でロナウドが相手を2人引き付けて左のルーニーにパスを送り、ルーニーが決めた。
 パスが出たときにノーマークの位置に当然のように現れたルーニーの動きに、疾風のような走り込みとは別の面――私流にいえば、古くは1936年の川本泰三的、あるいは今の遠藤保仁的なプレーを見せる23歳に、私は舌を巻く思いがした。
 そして、さらに10人の劣勢を補うための彼の運動量と守備への取り組みに多くのファンとともに感嘆した。

 対ガンバ2得点と合わせてルーニーは3ゴールで、2008クラブ・ワールドカップ得点王という、新しい勲章を得た。この08−09シーズンは、チャンピオンズリーグの優勝は逃した(決勝でバルセロナFCに0−2)ものの、プレミアリーグで3連覇、リーグカップも優勝、彼自身はリーグでの12ゴールに、チャンピオンズリーグ4得点などを加えて20ゴールを挙げて、クラブの通算ゴールを積み上げ、09−10シーズンの8月22日、ウィガン戦の2ゴールで「レッズ」での100ゴール、101ゴールを記録している。
 ゴール量産だけでなく、この頃から彼のパスはますます上手になり、仲間との協調、協力プレーにどんどん磨きがかかってきた。
 万能ともいえる彼の成長の跡を、次号から眺めることに――。


(週刊サッカーマガジン 2010年2月2日号)

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