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GKのキャッチングとキック


 今回は日本リーグのヤンマー−日立戦を見てから行なった。試合は、釜本が2得点を挙げる活躍などで、ヤンマーが3−1で日立を下した。この日は、もちろん釜本の素晴らしい得点力が印象的だったが、それとは別に、ゴールキーパーの不安定なプレーも何回か目についた。そこで、今回はゴールキーパーのプレーについて、その技術的な問題点をいろいろ考えてみた。


基礎的なプレーの欠点

――この日のゲームを見ていて、ゴールキーパーのプレーが非常に不安定に映った。とくにキャッチングや前に出ていくプレーで、自信がないように感じられた。

大谷 キーパーは、日本の弱点の一つだと言われている。その中で、外国の選手と比べるまでもなく、キャッチングとかキックなど、そして、それに絡む判断というのが、非常に不安定であり、そういった基礎をもっともっとやる必要があることは確かだ。この日の試合に限らず、そういったことは良くみることだが、ヤンマーの垣内君にしても、何回かボールを落としていた。日本リーグのあのクラスでは、簡単に落とすようでは困る。また、前へ出ていくのにしても、あれだけ上背がありながら、確信に満ちた出ていき方というのは見られなかった。

――そうでしたね。

大谷 「取るゾ」といって出ていく、気迫というかそういうものは、ハタから見れば、安心感につながっていくものなんだが、それがなく、なんか危なっかしかった。日立の瀬田君は不調のように思われた。これまでの彼は、日本のキーパーとしては行動範囲の広い方だったと思う。

――そうすると、もとに戻って、練習からやっていくということになりますね。

大谷 一般的にいって、日本のキーパーの条件は、いろいろあるが、キャッチングにしても手の大きさや握力との関係もあるけれど、外国の選手なら両手でつかめるところがつかめない。また、前へ出ていく力の差というか、迫力なんかの点でも、すいぶん違う。それはウェイトの問題もあろうが、今は体の大きい人も出てきている。とくに瀬田君や垣内君なんかは、身長は十分ある。だから、気構えというか、技術的にいえば、もっと守備範囲を広めてもらいたいという気がする。
 この日の試合で気付いたが、垣内君は185センチもあるのだし、飛び出してパンチするときに、もっと高いところに届くはずなのに、低いところでパンチしているから、相手が来てしまう。それから、一般に、パンチングを、両手ではできるが、片手ではできないというキーパーが多い。片手でも、どういう当て方をすれば飛ぶのかという工夫があればやれる。ボールに対して、半身の形になってパンチをしなければならない場合は非常に多いわけで、それがやれないのは大きなマイナスになってくる。

――キャッチングとかパンチングなど基礎プレーの欠点ですね。

大谷 それから、高いボールを逆サイドへ流すというときに、手のひらや指先を使うよりもこぶしでパンチングした方がよい場合が非常に多い。手のひらや指先で流すと、ボールのスピードが弱くなることがあるし、ボールの流れる角度も大きく変わらないが、パンチングだと、手首の早い振りで、ボールのスピードが一層強くなることもあるし、コースの角度を鋭く変えることもできるので、相手は拾いにくくなる。実際やっている選手はいても、うまくやる選手は少ない。もちろん、全体的な体の力とかが影響してくるわけだが、そういうものを、もっと丹念に練習していく必要がある。

――そうですね。そういったプレーの欠点もなんとか克服してもらいたい。

大谷 それともう一つ、古いルールと違って、今のキーパーは非常に保護されているということがある。だから正確につかみさえすれば、恐れることは何もない。だいたいゴールエリア内でつかめば、完全に勝ちだし、そこを出ても、チャージされたり、蹴られたりすることはほとんどない。要するに、つかめば安心であり、昔よりずいぶん楽になっている。
 戦前のことを考えると、キーパーが持っている限りはチャージしてもよかった。また高いボールを送って空中で競り合う場合には先に体当たりを食らった。甚だしいときには、つかんでいても、そのボールを蹴られた。つかんでボンヤリしていると、体全体で突き飛ばしてもよいという時期があった。
 今は、キーパーはルール的にはやりやすくなっているわけで、しっかりつかめば勝ちなんです。だから、とにかくもっとつかむことを練習する必要がある。そして、つかめないときには、パンチングするわけだ。

――たしかに、今は日本リーグを見ていても、キーパーのプレーに対してよく反則が取られている。


同時プレーの笛

大谷 まあ、キーパーが蹴られる場面は少なくなっている。ところが、それでもまだ、キーパーの不安につながることで、審判に対する願いがある。下部の試合で特に多いことだが、五分と五分の競り合いで、例えば、キーパーとセンターフォワードのちょうど中間にボールが出て、どちらが先に届くかという微妙なときに、わずかにキーパーが先んじて、ボールを押えたけれども、相手に蹴られる場面がよくある。善意ならば許されている場合が多いが、結果として危険なプレーであれば、笛を吹いてキーパーを保護するようにしてほしい。その場合、ケガをする方は、だいたいキーパーで、若い年齢層では、そういう目にあうと、弱気なキーパーはいっそう消極的になる。外国のプレーをテレビなんかで見ていると、こういうときに、選手自身も、キーパーにケガさせないように、蹴ったりしない。ということは、そういう面での笛が厳しく吹かれているわけで、その点、日本の審判の取り方は、ややルーズというか、昔風に同時ならいいという考えが残っている。蹴るつもりがなかったからいいのではなく、結果として危ないプレーが出れば笛を吹くべきだ。
 向こうの場合は、それが徹底しているからキーパーも思い切って出ていける。こういった微妙なプレーの笛を、下の段階からもう少しキーパーを守るという精神で、厳正にやっていけば、日本もキャッチングをすることに、そう怖がらないようになるのではないかと思う。そういったことが、下部ではルーズなために、キーパーが弱くなっていることと関係がないことではないと思う。日本リーグ・クラスではそうでなくても、キチンとやらないかんのだけれども、前へ行く、守備範囲とかの問題は、育ってくる過程において、笛がルーズだということで積極的なプレーができなくなってくるおそれがある。


キックにもっと工夫を

――日本リーグでの話から始まったが、だんだん一般的なキーパーの技術に進み、もっと下の段階の話、そして審判の笛との関係にまでいったわけですが、まずキーパーの守りという話で、一つ区切ることにして、次はキーパーの攻撃ということになる。

大谷 ボールをつかんだら、今度は、そのボールをどう生かすかということがある。キーパーの攻撃プレーだが、守ったボールを、次に攻撃の第一歩として、どのように生かすか、これがキーパーの第二の仕事になる。全員攻撃−全員守備とよく言うが、キーパーの攻撃も当然、その中に入ってくる。いつ、どこへ、どういうボールを蹴って(投げて)やるか、これが次の攻撃の重要な課題になる。その点で一般的に甘いといえる。そして、その条件を満たすために重要なことは、キック力とかスローイング、そして判断の二つの条件、つまり技術と判断力で、この二つがうまく合わさって初めてキーパーからのよい攻撃が始まるわけだ。
 キックについていえば、ただ大きく蹴ればいいというわけではない。キックはまず味方に渡らなければならないわけで、そのためには、味方が受けやすいボールを蹴ってやる。大きく蹴るということについても、例えば、釜本のようにヘッドの強い選手が前線にいれば、高いボールを釜本の頭に合わせ、それを落として味方のボールにすることは可能だ。しかし、ヘッドの強い者がいない場合は、自分たちのボールにならない。
 そういった場合には、どういうボールを蹴ればいいのか、味方の受けやすいボールということで、キックをもっと工夫する必要がある。例えば、ヘッドの弱い選手だったら、足元に落ちるボールを工夫してやる。それから、高く上げなくても、ライナーで低いボールを、また間に敵がいるのだったら、そこを越えてから落ちるボールをというように、工夫できないといけない。
 昔の名キーパーで、ベルリン五輪へ行った佐野理平さん(当時・早大)なんかは、川本泰三さん(当時・早大)に聞いた話では、面白いのがある。当時川本さんはセンターフォワードだったが、ヘッドがあまり好きでなかったから、佐野さんに、足元へ落ちるボールを要求した。すると佐野さんは、実際ライナーで飛んできて、フィッと落ちるボールを蹴るようになったという話がある。佐野さんも、そういうボールを蹴るために相当苦心されたのだと思う。

――今は、キーパーにそういう要求を出す者がいないのかもしれない。

大谷 お互いにどうすれば味方が楽になるのか、またどんなプレーをしなければならないのかを考えてやる。そんなところから工夫が出てくる。要求を出す前から、やれないと諦めているのでは話にもならない。
 それでまた戻るが、キックが難しいということで、確実に味方に渡すために投げるということが出てきて、盛んに使われている。しかし、これは距離が出ないとか、速さの点で問題がある。外国のキーパーなんかだと、相当速いボールを投げられるということもあるだろうが……。まあそれはともかく、キーパーの処理として、大きく蹴るよりも、味方にしっかり渡すことが先決だ。もちろん、例外的に、大きなボールを蹴り返しておかねばならないこともある。しかし、それは、押されっぱなしで味方がひと息ついたり時間を稼ぎたいと思うときだけのことで、攻撃につなげていこうとすれば無意味なことだ。


written by 大谷四郎
(サッカーマガジン 1977年11月10日号)

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