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試合場と練習場


 サッカー好きが集まると、グラウンド不足問題を語り合うことが多い。プロ野球の球団でさえ、ちゃんとした自前のホームグラウンドや練習場を持たない日本の現状からみて、アマチュア競技団体である日本蹴球協会が専用球技場を持たないのも別に不思議はないし、さらに京都、大阪、兵庫などの地方協会が自由になるグラウンドがないのも、当然といえば当然である。
 と、いって、じっとしていてよいとは言えまい。

 東京のサッカーの爆発的な人気上昇は、もちろん多くの要素があるが、オリンピックのおかげでつくってもらった駒沢競技場という立派なグラウンドが一役買っていることは疑問の余地はあるまい。釜本(邦茂)や杉山(隆一)がいくらうまくても東大御殿下のグラウンドでの試合にたくさん人が集まるハズはなかろう。とみると関西地区でも見やすいグラウンドを手に入れることはサッカー愛好者をさらに増やすことになろうと思う。サッカーと同じフットボール系の兄弟である日本ラグビー協会がオリンピック種目でもないのに戦後、長くアマチュア競技団体のトップとしての地位を保ってきたのは東に秩父宮ラグビー場、西に花園ラグビー場というメッカを持っていたことが大きい。
 協会の指導的立場にいる人たちは早くからこの点に留意して、府や県や市などに競技場設立、あるいは改装などを働きかけ、プレーしやすい、プレーを見やすいサッカー・グラウンドの獲得に協力しておられるようだが、サッカーファンを動員して募金運動などで協力を願うということもやってみたらどうだろう。

 サッカーの試合用グラウンド(スタジアム)をつくるについて、フィールドが芝であることはもちろんだが、スタンドの全部でなくてもせめてメインスタンドには覆い(屋根)をつけてほしいもの。雨の多い日本の国情を考えるとこれは当然なのにこれまでどこも実施していない。それでいてメインスタンドの方が入場料が高いのはおかしな話である。ファンだけでなく、報道関係者も雨が降ると仕事上、大きな被害を受ける。
 そのスポーツが発展するかどうかは、報道関係者対策が大きいことは言うまでもないが、横浜の三ツ沢サッカー場などは完全に、この点が無視されている。何もご馳走したりするのが報道対策ではない、気持ちよく仕事のできる場所――屋根の下の席を確保すること――が一番はじめで、一番確かな報道対策なのである。
 屋根の話がいささか脱線したが、これとともに忘れられないのが照明設備。ナイターとは決してプロ野球だけのものではない。むしろ昼間仕事を持つアマチュアにこそ、夜間試合の必要も多くなる。サッカーのシーズンは冬であっても暖かい時期の国際ゲームも少ない。それにグラウンドの利用時間を長くするためにも照明設備は必要だ。

 試合場はつくるのに莫大な金がかかるが、練習場はそれほどでもない。ただし広場の少ない我が国では広い練習用グラウンドを持つことは大変な贅沢だろう。クラマー氏が常駐している西ドイツのデュイスブルクのスポルツ・シューレは数面のグラウンドがあるというが、地所の高い日本では、都会の近くではとても考えられない。
 都会地につくる練習場としてはまず、スペースに応じたものを考えるのが第一だ。
 バレーボール・コートくらいの広さでも使いようによっては、十分やれる。
 必要なのは、
(1)フィールドが平坦であること(土質がどうであれ水ハケがよく、凹凸の少ないことが第一条件。芝生なら言うことはないが……)
(2)利用できる塀をつくること(シュート用のボード=板塀=でもよし、レンガの塀でもよい。コンクリートはボールの皮を傷めるから、上に板を当てればよいが……)
の2点である。

 狭い場所での練習は、やたらに球を強く蹴らさないこと、球を止めることや、球を持って相手をかわすこと、相手の球を奪うこと――などを主にした方が効果が多い。日本ではサッカーは、まず遠くへ蹴る――というふうに考えがちだが、欧州や南米あるいはアジアの子どもたちが空き地で遊んでいるのは、もっぱら、球と相手と戯れているという感じで、ここから自然に対敵動作と球扱い、体のこなしを身につけてきているようだ。

 学校などのグラウンドでも、試合できる広さも大切だが、シューティング・ボードのような、板塀または石塀をこしらえることは上達にずいぶん関係がある。シューティング・ボードはゴールの大きさだけでなく、大きければ大きいほどよく、またゴールを描くほか、ゴールの四隅や、高さ1メートル、1メートル50などにもラインを引くとよい。

 壁やボードは初歩のプレーヤーにとって、忠実なパートナーであり、イングランドの名手トム・フィニーもスタンレー・マシューズも、みな少年期には壁を相手にキックのコントロールをつけ、トラッピングを覚え、ヘディングを習熟したのである。長い壁をつくることができるのなら一部は凹凸のあるものにしたい。いろんな、跳ね返り方をする球を受けるよいトレーニングになる。
 ペンデルは相当に普及しているが、これはうまく使えば効果を上げることができる。香港などではフィールドのサイドラインの横にずらりとペンデルが立っているところもある。
 学校や、会場のグラウンドでも、ゴールポストの他に、ペンデルとシューティング・ボードはほしい。


(京都・大阪・兵庫 サッカー友の会会報「サッカーの友」8号 グラウンド特集号 1966年7月)

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