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日本1−0カメルーン 嬉しい全テレビ局のゴールシーンの繰り返し


「まるで掌を返すという感じですね」。テレビのニュース番組で、こうした言葉も出た。  日本代表が6月14日の対カメルーンに勝って国中を喜ばせてから、3日経った。ゴールを決めた本田圭佑に話題が集中した後、今度は彼を起用した岡田武史監督の用兵に話が移り、開幕直前の不評が称賛に変わっている。
 毀誉褒貶は世の習い――ということだろうが、カメルーン戦は私にももちろんうれしい結果だった。贅沢をいえば、先制したのだから、相手が攻めに出てくるところで2点目を取っておきたかった。
 同じ日にオランダがデンマークの堅守に手こずり、そのカウンターにヒヤリとさせられながら、相手のオウンゴールでリードすると、挽回をはかろうとするデンマークから2点目を奪っている。オランダはそういうチームに出来上がっているといわれれば、それまでだが……。
 それでも、勝ったことは何よりだし、しかもそれが、岡田監督と代表全員が狙ったやり方の結果であったことが嬉しい。

 フランスにいる友人から、フランスのテレビでもこの試合を放送したが、コメンテーターが「退屈」を連発していたとのこと。一緒にテレビの前にいた複数の日本人も同感だったらしい。
 カメルーンが元フランスの植民地で、フランスリーグには同国出身の選手が多いのだが、「不屈のライオン」がこの日は「退屈のライオン」だったらしい。日本側の守りが彼らの動きを小さくし、退屈にしたのだから、フランス流の見方、退屈も間違ってはいない。

 私にとって嬉しいもう一つは――日本全国でこれだけ注目された試合で、当日に現地から生放送したNHKだけでなく、その他の各テレビ局で得点シーンが繰り返し画面に映し出されたこと。
 松井大輔が右に開いて、遠藤保仁からのパスを受けたあたりからのリピート(繰り返し)映像が多いのだが、その得点シーンを振り返ってみよう。
(1)松井が相手DFを大きなキックフェイントの切り返しで左へかわして、
(2)ペナルティエリアに少し近づき、左足でクロスパスを送る。
(3)彼が切り返しからキックに入る間に、ゴール前にいた本田が左へ移動、
(4)松井が左足で送ったボールに対して、大久保がジャンプ・ヘディングで合わせようとする。
(5)その動きに応じて2人のカメルーンDFがボールへジャンプ・ヘディングで競る。
(6)しかしボールは3人の上を越え、彼らより外にいる本田の足元に落ちる。
(7)本田は左足で止め、左足のインサイドキックでゴールキーパーの左側(GKの右手側)を抜くシュートをゴールへ送り込んだ。

 こうしたゴールの場面が繰り返し画面に映し出され、それぞれの局の解説者が、本田がボールの落下点を予測して移動したことや、止めてからのシュートに移る間の落ち着いた動作などを説明していた。
 日本の多くのテレビ局がゴールの場面をこのように克明に映し出し、説明したこと、それぞれの番組の視聴者の多さを考えると、日本のサッカー史上で、これほど多くの人たちがゴールシーンの映像を解説付きで見たのは初めてのことなのではないだろうか。
 今度のカメルーン戦は、この点からも日本のサッカー普及や解説の面で、これまでより一歩進んだものになると考えている。なにしろ、サッカーで一番楽しい「自分たちのチームが勝つこと」、一番面白い「自分たちのチームが得点すること」を多くの人が味わい、経験し、その面白いゴールシーンを繰り返し見たはずだからである。

 本田圭佑という個性的な選手が注目を集め、彼がゴールしたことで、私は日本のサッカーに、「人」のプレー、つまり、誰が、どこで、どのようなプレーをするかというところに視点が移る助けになるかもしれないと期待している。
 最近の日本では試合を見る際、システムや戦術という図面上に表しやすい話が多くなっているのだが、大切なのはその場で誰がどうしたかである。
 今度の得点シーンでも、右からのクロスに成功した松井のプレーに注目し、ゴール左ポスト近くでクロスのボールが落下するのを足で止めた本田のプレーについて解説があったことで、そこで、その選手が、どのプレーをしたか、あるいはできるかが話題になるのではないかと思っている。

 第2戦の対オランダ、レベルの高い、強いチームを相手に、日本が試合をする。声援を送るとともに、どうしてゴールを奪ったのか、どうして相手の攻めを防いだのかを、何度もテレビ画面で見られることを願っている。


(週刊サッカーマガジン 2010年7月6日号)

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