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ブラジル3−1コートジボワール これぞブラジル、伝統個人技とチームワーク


 ブラジルがコートジボワールに3−1で勝って2勝目を挙げた。生き生きと攻めに出るカナリヤ軍団に、これこそレベルの高い“本物”のナショナルチーム(国の代表チーム)だと、ちょっとウキウキした。そして、そう、これがワールドカップだ――とも思った。

 第1戦の対北朝鮮では前半に得点できなかったが、後半の2得点でブラジルらしさを示した。右サイドのDFマイコンがゴールライン近く、角度の狭いところから決めた右足のスライス気味のシュートは、70年代以来のこの国の名手たちが生み出した“強い変化球”だった。
 2点目となった、ロビーニョの見事なスルーパスに合わせて走り込んで決めたエラーノのダイレクトシュートは、このチームの持つ得点コースの一つと、その「阿吽(あうん)」の呼吸の見事さを示した。

 第2戦の対コートジボワールは、開始後しばらくは相手側に勢いがあったが、ブラジルは左、右へ大きく振る展開から徐々に攻勢に移り、25分に先制した。
(1)ハーフウェーラインから10m手前の右寄りのFKを左へ送り、
(2)左タッチライン際から中央にボールが戻ってきたときに、ロビーニョがいた。
(3)彼は前方のルイス・ファビアーノにボールを送り、
(4)そのリターンパスを、カカーがペナルティエリアの7m外で取って、前方へ走るルイス・ファビアーノへ送った。
(5)ノーマークとなったルイス・ファビアーノはゴールエリア近くまで持ち込み、右足でニアポスト側の上部へ強く蹴り込んだ。

 カカーが相手DFにボールを取られない。パスを送って妨害を受けることなくルイス・ファビアーノに届けたのは、彼の高いレベルの技術によるものだが、ルイス・ファビアーノがGKブバカル・バリーの頭上(古くは天井といった)を抜くシュートを決めたのも、練達のストライカーの力だった。
 ルイス・ファビアーノは50分に2点目を決めた。自陣からのロングボールを競り合い、落下して高くバウンドしたボールを追って右足で高く浮かせ、胸で止めて前へ落として、左足シュートを右ポスト際へ送り込んだ。胸でのトラッピングのときに、右腕を使ったハンドの反則があったようでもあったがレフェリーの笛は鳴らなかった。

 52年前の6月28日、スウェーデン大会決勝でペレが演じた、ボールを浮かせてDFを2人かわしてのシュートによるゴールが、北欧からはるか遠い南半球のヨハネスブルグで再現された。186cmの長身のルイス・ファビアーノのプレーは、小柄なペレとはまた異なった形だが、伝統の技は生きている。
 その一連のプレーのなかでルイス・ファビアーノにハンドの反則があったという見方もあるが、12分後にカカーが左サイドを突破してゴール前のスペースへ送り、エラーノが決めた3点目にはコートジボワールも脱帽することになる。調子はまだまだ100%ではないというカカーだが、速さと、その速さを活かすための“間(ま)”の取り方のうまさ――小柄で運動量の多いエラーノの、ゴール前のスペースへ走り込んでくるタイミング――の結合によるゴールは、ブラジル代表が優れたスターたちの機能を組み合わせた“チーム”になっている証といえた。

 ルッシオ主将を中心とするチーム全体の守りの感覚もいい。ルッシオ自身3回目のワールドカップで32歳、ボール奪取やポジショニングに加えて攻撃に出るうまさがあり、まさに働き盛り。
 カカーが相手のファウルに憤慨して、手を出したとみられて退場処分になるという付録もついたが、ヨーロッパのサッカー大国の代表たちの調子が上がらないグループステージにおいて、ブラジルの良さを見ることができたのは、世界のお祭りでもあるとともに、ナンバーワンのナショナルチームを決めるという、ワールドカップの権威を思い起こすことになった。

 それがドゥンガという、日本にもなじみのある、かつてのセレソンのキャプテンであった監督の力によると見られているのも嬉しいが、もう一つの南米のサッカー大国、アルゼンチンが、リオネル・メッシとともに強さと技巧を見せ始めたことも、今大会をより面白くしている。
 ブラジルのドゥンガとはまったく別のキャラクター、天才肌のディエゴ・マラドーナ監督の下で――という点を危ぶむ人も少なくないが、今のところマラドーナの“らしさ”がいい方向に働いているようにも見える。2強だけでなく、チリもパラグアイもウルグアイもと、南米勢優位に見える大会がグループステージ終了のときに、どのように進んでいるか――ヨーロッパ勢は持ち直すのか――ワールドカップはやはり面白い。


(週刊サッカーマガジン 2010年7月13日号)

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