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パラグアイ0−0(PK5−3)日本 PK戦の日本敗退を惜しみ、監督、選手一体のチーム成果を喜ぶ


 PK戦はパラグアイが先に蹴ることになった。一番手は後半30分(75分)に投入されたエドガル・バレット。右足で左下へ決める。
 GK川島永嗣は方向を読んだが防げない。日本の先頭を切るのは遠藤保仁、右足で右上へずばりと蹴り込む。相手のGKフスト・ビジャルは逆方向に飛んだ。
 2人目はFWのルーカス・バリオス。187センチの長身FWは右足で右へ決める。川島はこれも読んで手に当てたが、止められなかった。
 日本の長谷部は右足で左上へ決めて2−2。
 相手の3人目はクリスチャン・リベロス。長い助走で中央右寄りへ。川島は先に動いて読みは外れた。
 日本の3人目は駒野友一。性急に狙って蹴ったボールはバーに当たって上を越える。3−2でパラグアイがリード。
 息詰まる緊迫感の中でパラグアイの4人目、ネルソン・アエド・バルデスも強いシュートを蹴り込む。日本の4人目、本田圭佑は落ち着いて左足でコントロールシュートを決めた。GKは逆方向へ動いていた。
 彼の3点目で、相手の5人目のキッカーに重圧がかかるのか――オスカル・カルドソは左足で左へ。川島の予感は外れたが、当たっていても防ぐのは難しい。そう思わせる、的確なシュートだった。

 ワールドカップにPK戦が導入されたのは1982年のスペイン大会から。ノックアウトラウンドに入って90分間、さらに延長(15分ハーフ)が終わっても同点の時に、次に進むチームを決めるために設けられた。
 普通に考えればゴール正面11メートルの地点からフリーで蹴るのだから、キッカーが有利といえるはずなのだが、厳しい長時間の試合の疲労と、精神的な重荷で一流選手たちも、ときにシュートを失敗することをこの大会の準決勝、西ドイツとフランスのPK戦で知った。彼らのシュート力ならたとえGKの読みが当たったとしても、サイドネットへ蹴っておけば、GKのセービングジャンプは間に合わないはずとされていたのに、双方のキッカーの中でサイドネットへ正確に蹴り込んだのはフランスのミシェル・プラティニと西ドイツのカールハインツ・ルムメニゲだけだった。
 日本側は不幸にして敗れ、代表のワールドカップはここで終わることになった。

 この試合の2日前に、灘高等学校サッカー部OB会に招かれて出席した。東大や京大へ多くを送り込み、進学校として有名なところだが、この学校のサッカー部は、旧制の灘中学の昔からレベルが高く、私の母校、旧制神戸一中(現・神戸高校)にとっても手ごわいライバルだった。この会の副会長さんが今をときめく「ガンバ大阪」をバックアップするパナソニックの松下正幸さんであるところから、対デンマーク戦の遠藤の見事なFKの得点シーンも話題になっていた。

 パラグアイ戦は勝てるかという私への質問に「日本代表は大会間際になって、アジア予選のときの大事な柱でった中村俊輔が下降し、本番までに回復が難しいという非常事態になったけれど、それに対応する岡田監督の方針が選手たちに浸透し、一丸となって戦った。もともと、日本代表の歴史の上で、185センチ以上の2人のCBをそろえ、またサイドのDF(攻撃も含め)に適任のプレーヤーを置いたことで、この代表の骨格はしっかりしたものとなっていた。
 そこに本田圭佑という体の強い素材が新しく加わることで、攻撃にも芯ができたこともあり、遠藤−松井−本田で決めたカメルーン戦のゴールで、一気に選手たちの士気が高まった。オランダ戦、デンマーク戦は0−1、3−1ではあったが、チームのすべてが狙っている通りになった。
 といって、ノックアウトラウンドに入って対戦するパラグアイにも、この勢いが通じるかどうかは疑問です。非常にやりにくい相手です」と答えていた。
 再度「勝てますか」の問いには、日本の勢いに期待したいが、かなり難しい――と答えた。その理由は、私がいつもこのページでも語っているシュート力、ゴールを奪う力が弱いという問題が残っているからだった。これについてはまたの機会にしたい。

 日本と韓国が去って、8チームは南米4、ヨーロッパ3、アフリカが1となった。
 ブラジル対チリの試合では膝を打つ思いのカカーのプレーもあった。アルゼンチンやドイツ、そしてスペイン、オランダも調子を上げてきて、南アフリカのワールドカップは、いよいよこれから正念場となる。


(週刊サッカーマガジン 2010年7月20日号)

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