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ドゥンガ、マラドーナの南米2強敗退。遠藤保仁のJ再開


 テレビや新聞、雑誌によって大いに盛り上がった南アフリカでのワールドカップが終わり、日本代表も帰国したと思ったら、Jリーグが再開された。
 関西空港でチームの帰国を出迎え、公式記者会見やミックスゾーンでの何人かの選手インタビューなどをのぞいたが、嬉しかったのは遠藤保仁や中澤佑二たちベテランが、今大会での経験を足場に、さらに上のプレーを目指したいと言っていたこと。30歳を超える彼らが意欲をかきたてているのを見て、とても頼もしく思った。

 そのJの試合で田中マルクス闘莉王が名古屋グランパスの決勝ゴールにつながるパスを出して、対大宮アルディージャ、アウェーでの勝利をもぎ取るのを見た。また、ガンバ大阪対浦和レッズで、2−2で迎えたロスタイムに、遠藤が見事なシュートで3−2とした。
 速さの強調ばかりが目立つ日本サッカーにあって、遠藤は「速いこと」ばかりでなく、「遅らせること」もできる数少ないプレーヤーで、この点においても、戦前から戦後にかけての名人FW川本泰三(故人・1936年ベルリンオリンピック代表CF)に似たところがある。
 面白いのは、ストライカー川本がベルリンでの貴重な経験(対スウェーデン逆転勝ち)の後、その得点能力の上にプレーメーク能力を高め、ストライカーであってゲームメーカーとなったのだが、遠藤はこの関西が生んだ偉大な先輩とは違って、プレーメーカーとしての実績の上に、パスを出した後のシュートレンジへの走り込みを加えて、得点能力を増してきた。それも音を立ててダッシュするのではなく、サラリと出てくるところも川本流で、南アフリカの体験を経た今後は、得点力の面でも伸びるだろう。

 さて、南アフリカの大会では、ブラジル代表がオランダ代表に敗れてベスト4に進めなかったし、アルゼンチンはドイツに完敗してベスト8にとどまった。
 今度のブラジル代表は、それぞれのポジションに良いタレントがいるように見え、北朝鮮やコートジボワールを相手に2−1、3−1の勝ちを収め、ポルトガルとは0−0で引き分けて16強に入り、チリを3−0で破って準々決勝へと順当に勝ち進んだ。調子が良くないと見られていたカカーも、ときに彼らしい見事なパスや突破を見せた。ロビーニョは高い位置から相手ボールを追って、ドゥンガ監督の意図が浸透しているところを見せ、ルイス・ファビアーノのストライカーぶりも期待どおりだったのだが……。
 対オランダで、相手の右からの長いクロスをGKジュリオ・セザールが叩こうとしてフェリペ・メロと衝突してバランスを崩したために同点とされ、ここから守りが乱れて停止球から2点目を奪われた。リードしていてDFが軽率なプレーで失点するのはペレ時代以来あったことだが、今度のオランダ戦では、その失点でチーム全体が立ち直れなくなってしまった。

 ワールドカップのたびにブラジルでは「見て楽しく、ブラジル的なチームを」という声と「楽しくなくても強いチームを」という声が沸き起こる。
 ドゥンガ監督は自分がキャプテンだった94年大会優勝チームのように、タフな戦いを勝ち抜けるタフな守備的チーム、守りを重視し、少数の選手による攻撃で点を取れるチームでの優勝を目指したのだろう。グループステージでは良さそうに見え、対チリもそうだったが、準々決勝でつまずいてしまった。色々な見方はできるが、オランダに同点とされてから、チーム全体の乱れを見ると、監督ドゥンガとは別に、ピッチ上にドゥンガがいなかった――ということになるのだろうか。

 ドゥンガの厳しさとは対照的に見えた、天衣無縫のディエゴ・マラドーナ監督のアルゼンチンも、ドイツ代表に完敗した。
 人の心をつかむことが巧みなディエゴは、自身の後継者ともいえるリオネル・メッシに「好きにやればいい」と全権を任せたとのことらしい。メッシは素晴らしいプレーも見せたが、86年大会のマラドーナのようにはいかなかった。
 86年メキシコでのアルゼンチン代表は、守りをしっかり構築して、攻めはマラドーナの才覚に任せる形だった。当時のカルロス・ビラルド監督がこのために入念な準備をしたことは、彼が後に発表した「未来のサッカー」でも明らかだが、今度のアルゼンチン代表はメッシを生かすためにどのような準備をしたのか知りたいものだ――。
 2006年のドイツ大会で私たちは、アルゼンチン代表のカルロス・テベスとメッシを見た。そのとき22歳のテベスにディエゴの強さ、19歳のメッシの左足にマラドーナのボールタッチを感じたものだ。
 173センチと170センチの2人の小柄な若者が、4年の間にヨーロッパのトップリーグのスターとなって、再び“セレステ・イ・ブランカ”のユニフォームで戦うのを見ると、大会での成績はともかく、アルゼンチン・サッカーの底力に感嘆の他はない。


(週刊サッカーマガジン 2010年8月10日号)

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