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インステップキックが基本だ


 前号までは対談で私はしゃべってきたが、新年号の今号からは対談をやめることにした。だから当然に私自身が書くのだが、そのテーマと順序は前号にも述べたようにやはり自由に展開させてもらう。
 さて前号の「コーチはポイントのポイントをつかめ」という中見出しは、少し分かりにくい不適当な表現だったので、「コーチはコーチング(教え方)のポイントをつかめ」という意味に理解願いたい。文中に「今いった膝、かかとの押し出しなどはコーチのポイントで……」とあるのを受けたものだ。もう少し付け足すと、インサイド・キックで蹴り足を直角に開くことは、このインサイド・キックという技術の一つのポイント(要点)ではあるが、少年たちに対してはただ“直角に開いて蹴れ”だけでは難しく、どうしたら直角に開きやすいか、どうしたらボールを飛ばす力が出るかというコツ、つまり立ち足の膝を曲げれば足は開きやすく、かかとを押し出すようにすると力が加わること、さらにそれには立ち足の上に完全に重心が安定して乗っている姿勢(立ち足の上に腰が乗っている姿勢)になっているかといった点に注意を向けることが肝心だという意味なのである。
 それをコーチング(教え方)のポイントといったのだけれども、いろいろな技術を体得させようとするとき、その技術の直接的なポイントを真正面から強調するばかりでは成功しないことが多い。そうした場合には、そのポイントをさらに支配する前提条件というかコツというか、そんなものから入っていった方が効果的なことはよくあるのである。


キックの基本法則を理解しやすい蹴り方

 ところで、本論に戻ろう。先にキックの基本的なのはインステップ・キックとインサイド・キックだといい、前号でそのうちのインサイド・キックにふれたが、キック一般を理解するのに基本となるのは、何といってもインサイド・キックであろう。
 多目的に使える効用からすれば、インフロント(インステップの内側)キックが第一かもしれない。そうしてインステップ・キックの用途は、ただ、シュート、ロング・パスまたはクリアに強くて長いキックを必要とする場合に使われると書いてある本もある。
 しかし、キックとは、棒状のもの(足)で球(ボール)を打つ(力を加える)場合の球(ボール)が起こす運動だと考えると、棒によって加えられた力と、球との関係法則を知ればよいので、それはごく常識的な物理の場合だから簡単だ。そうすると、その法則を理解することはキック一般を理解することになり、インステップ・キックはそれを最も理解しやすい形なのである。そういう意味から、インステップ・キックはあらゆるキックの基本だといったのであり、また実際に、いろいろなキックを習得するための出発点でもあると考える。

 そのインステップ・キックのなかでも基本型は、ボールに向かって真っ直ぐに助走してその方向の延長上に真っ直ぐに低くボールが飛ぶように蹴るときだ。図1は上から見たところだ。蹴り足がAから真っ直ぐのスイングが始まってボールの中心Cを通る直線を進みB点でボールを打つと、ボールは真っ直ぐDEの直線方向へ飛ぶはずだ。横から見ると図2になる。以上の2つの図はボールに対する力の加わり方と飛ぶ方向を示したものだが、足はどうなればよいのか。
 そのときの足を前方から見たのが図3であり、横から見たのが図4となる。図3のように蹴り足の線はボールの中心を通る縦の軸線と重なる。そうして図4のように立ち足はボールの真横に踏み、膝は軽く曲げられてはいるが、腰(重心)はその立ち足の真上に乗る。そうして振られる蹴り足の運動は図5のような振り子運動と考えればいっそう分かりやすい。XYの支柱は立ち足に相当する。Xは腰でYは立ち足の位置だ。
 蹴り足は腰(X)を支点とした振り子と考えると、バックスイングしたA点から振り下ろしが始まった足は、ボールを低く蹴ろうと思えばインステップの面が垂直になるB点でボールに当たる。またXYの立ち足の線を過ぎて振り子(足)が上向き始めたところのC点でボールに当たればボールは少し上方へ向いて飛ぶ理屈となる。力の加わる方向が少し上向くからだ。
 すると、真っ直ぐ走ってきた場合のインステップ・キックでもボールを上げようと思えばできることになる。図6のように立ち足の位置をボールの真横から少し後方へずらせばよいのだ、とすぐ分かるはずだ。蹴り足は図5のC点にある振り子に相当する。このとき腰は依然として立ち足の上に乗っているが、その腰を支点として状態はごく少し後傾し、蹴り足は膝を伸ばし、爪先も伸ばして図4のときより遠いところにあるボールの下へ爪先が入る形となる。しかし、ボールは甲には乗らないで爪先に近い部分に当たるのは当然だ。ただし、ボールが地面から浮いていたら、そんな細かい工夫もなく、ただの振り子動作だけでボールを高く蹴ることができる。

 要するに、キックを理解するには、蹴り足は振り子だということから出発すればよい。あとはボールのどこを蹴るかという問題だけである。
 ボールの中心を通る地面と水平の横軸と垂直の縦軸を想定し、その両軸線上を蹴ればボールは上下左右に振れないで真っ直ぐ飛び、横軸線より下を蹴れば上へ飛び、上を蹴れば下へ飛び(ゴロ)縦軸線より右を蹴れば左へ飛び、左を蹴れば右へ飛ぶという、これまた簡単な法則通りの球の運動法則を考えればよいだけだ。
 以上のことを理解するのに、インステップ・キックは非常に分かりやすく、それでまた、今いった振り子と球の運動法則さえ分かれば、インステップ・キックだけでも、ボールに色んな変化を与えることができるし、また、他のいろいろな種類のキックを理解するのも極めて容易になる。


指まで使って用途を広げよう

 こうした理屈を理解したら、あとはただ数かけて練習するのみだが、実際には少年たちに真っ直ぐ走って真っ直ぐ飛ばせというインステップ・キックは非常に難しい。筋力的にも真っ直ぐ振るのは難しいだけでなく、初心者には爪先で地面を蹴る心配が非常に大きい。
 初心者には、静止球は特に難しいが土を少し積んでその上にボールを乗せて蹴らせるとか、手に持ったボールを落としてそれが地面に着く少し前とか、跳ね上がりばな(少し浮いた状態)をショート・バウンドで蹴らせるとかする工夫も必要だ。または図7のように、立ち足を踏み込むときに体をボールの反対側へ少し倒して蹴り足の線を傾斜させる。もちろんその線はボールの中心を通る。すると点線と地面との間だけ蹴り足を触れる空間がのびるから、蹴り足の爪先は地面に当たらない。
 それでも、筋力の弱い小学生年齢では無理かもしれない。そのときは助走をやや斜めからにして蹴らせてもよい。すると真っ直ぐ走ると蹴り足を振れなかった者も振れるようになる。また、そうすると、ボールに当たる面はフル・インステップでなくややインフロント気味になりがちだが、初歩の段階はそれでもよい。とにかく蹴り足を大きく振れるようにしておけばよい。
 しかし、できれば筋力の幾分ついてきた中学生年齢のうちにインステップ・キックを基本型で蹴れるようにしておいた方がよいと私は思う。なぜならば、現在斜めから助走してややインフロント気味のキックのままで育ってしまった選手、つまり変型のままで固まっている選手が意外に多いのを見るからである。基本のキックから次第にバリエーションに移るのが結局はより多様のバリエーションをこなせるようになるやり方だと私は思う。

 次はインステップ・キックの用途だが、これからは強いキックのためだけでなく、機敏性を必要とする短いショートパスにも用途を広げる必要がある。それにはモーションを小さくする、つまり小さいバック・スイングで蹴らねばならないから、筋力が強くなってからのことだけれども、太ももからの振りではなくて、膝下の振りと足首のスナップをうまく関連させること、それに腰も大切だ。正確性さえつけば、インサイド・キックより動作が自然でしかも速くできるから非常に有効だ。

 ところで最後のその正確性だが、それは足のどこに当てるかの問題である。そんなこと分かり切っているじゃないか、インステップだから足の甲じゃないか、といわれるだろう。しかし、その甲のどこかが問題で、まず山形に硬くなっている部分が考えられる。事実そこで蹴っている人が多いが、反発力は強いという利点はあっても不正確なのだ。少し下げて、指の付け根、さらに指も含めてできる平たく広い面を使うと正確性が出る。もちろん指に近い部分だけでは蹴れないから、甲寄りの部分が主になるが、指ないしは指に近い部分でボールを受けて乗せるような感触を覚えると、硬い甲でポンと叩くキックよりも、ボールとの接触時間が長くなって正確になるだけでなくずっと微妙な細工もできるようになる。
 もちろん、柔らかいようで最後はきゅっと締まる足首のスナップとの関係も大切だが、この部分にボールを乗せると、指の力も利用できるようになって、単なる反発だけのキックとは違った味が出てくる。昔の靴は硬くてしなわなかったから靴が蹴っていたようなものだ。今は靴が指先まで軟らかく底もしなう。ということはボールを乗せやすくなったし、足首のスナップも生きるし、さらに指まで使えといっているようなものである。指のところはあまり締まりすぎず、少し指を動かせる程度のゆとりのある靴がよい。


written by 大谷四郎
(サッカーマガジン 1978年1月10日号)

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