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ウェイン・ルーニー(10)リーグ得点王首位の今シーズンの大爆発。20〜21歳の成長期のシュートの正確さがその基盤


 Jリーグが開幕した。各地の会場も賑やかで18年目のシーズンスタートはまずまずのようだ。今シーズンもたくさんの楽しみを期待しているのだが、そのうち、まず2つ挙げると、中村俊輔が横浜F・マリノスで本領を発揮してくれること。もう一つは21歳の香川真司(セレッソ大阪)のステップアップを見ることだ。
 中村のパスの精度の高さ、特にゴール前のターゲットへ送り込むクロスの「ボールを上げて、落とす」キックは、早速マリノスの得点に結びついたが、彼が欧州で成功した原因の大きな部分である“蹴る”ことの確かさを日本のピッチの上で演じて、若い選手やコーチたちにも示してほしい。
 俊輔のように、ぼつぼつ峠ともいえる年齢にさしかかったプレーヤー、香川のような、これからの選手に比べると、ただいま連載中のウェイン・ルーニーは24歳、まさにいまが春という感じだ。

 09−10シーズンのプレミアリーグのトップに立っているマンチェスター・ユナイテッドは、チャンピオンズリーグでもミランに2勝してベスト8に進んだ。FAカップでは負けたが、カーリングカップ(リーグカップ)はすでに優勝していて、3冠の望みもある。  ルーニーはそのマンチェスター・Uにあって、目下25得点でリーグ得点王争いのトップに立っている。
 この連載で彼の成長過程を追って06−07年までの歩みをたどってきたが、少年期からすでにゴールを奪う能力で注目されていたリバプール出身の彼が、一家でファンであったエバートンの少年チームに入り、レギュラーとなり、04−05シーズンにマンチェスター・Uに移り、2シーズンを経てワールドカップ・ドイツ大会にイングランド代表として出場、香川真司と同じ年頃での大舞台は、いささか不本意に終わったことは紹介した。以来4年を経て、今年は南アフリカに乗り込むのだが、ここで07−08年以降の、今に至る近年の歩みを見る前に、05−06、06−07、20〜21歳の伸び盛りの頃のプレーから彼のストライカーの基盤を眺めてみよう。

 178センチのがっしりした体格、素晴らしいスピード、少々絡まれてもバランスの崩れない、あるいは崩れてもすぐ立て直す復元力――彼のプレーを見ると、私たちはまず最初に、その体の強さ、粘っこさなどの資質に目がゆく。アングロサクソンやゲルマンの、いわゆる北欧系の人たちに比べると、骨格が小さく、体の力という点では劣る日本の我々だから致し方ないのだろうが、ルーニー自体は英国人としては大きい方ではない。ルーニーの名前の由来は、アイルランド系といわれるから、アングロサクソンというより、ケルト系で、大きさはそれほどでもないのだろうか……。
 私にとっての驚きは、ルーニーのボールテクニックの巧妙さと、キックのうまさである。彼がエバートンの8歳以下の少年チームにいたとき、マンチェスター・Uの少年チームとの試合で6ゴールを決めたという話は“伝説化”しているが、その中で少年ルーニーはシザースのオーバーヘッドキックで1点取っている。トップクラブのコーチたちは、この年齢でこうしたオーバーヘッドシュートができるのがすごいことだ――と言うのである。
 足でボールを捉えるうまさ、そして、そのときのバランスの良さが、少年期のシザースのオーバーヘッドになったのだろうか――。

 利き足は右で、05−06、06−07シーズンのリーグ戦での合計30ゴールを見ても、左足で決めたのは3点だった。ただし、左のキックも正確で、左を使うべきときは左でしっかり蹴っている。利き足でない方は、一般的には得意な角度は一つだけの選手が多いが、彼は左のインステップで真っ直ぐに飛ばすシュートもでき、深い角度のシュートも決めている。得点は少なくても、左でもどしどしシュートする。それが、また得意の右を生かすことにもなるし、相手には脅威の右でゆくと見せて左で決めることもできる。両足でシュートできるところに、ゴール量産の基礎も、相手と競り合うときのバランスの良さもあるのだと思う。
 利き足の右足でのシュートは多彩で、インステップ、アウトサイド、インサイド、どれも的確にインパクトする。
 ペナルティエリアの左角、あるいはそれより少し内に入っての位置からはファーポスト(右)内側を狙うのと、ニアポスト側へ蹴る2方向が普通だが、ルーニーはこの蹴り分けができるだけでなく、ニアポスト側へ蹴るときにはシュートのタイミングの“遅速”があり、相手ゴールキーパーはDFの密集のために、ボールの出どころが見えないこともあるようだ。
 ニアを狙う回数が多いのは、あるいは得点とシュートのタイミングを持っていると自覚しているのかもしれない。


(週刊サッカーマガジン 2010年4月6日号)

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