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ウェイン・ルーニー(11)3月21日の対リバプール。11試合無得点の難敵を克服し、ゴールデンシューズへ一歩前進


 プレミアリーグ第31節のマンチェスター・ユナイテッド対リバプールの試合は、BS1のテレビ画面から両チームの対抗意識がこちらにも伝わり、白熱した90分間だった。
 リーグ首位を走るマンチェスター・Uにとっては、難敵を2−1で退けたことで未踏の4連覇へのステップを一つ上がったことになるだろう。もちろん、強敵チェルシーとの対決も控えていて、タイトル争いはまだまだ厳しいはずだが、そのマンチェスター・Uにあって、ウェイン・ルーニーがこの試合で同点となるPKからの得点を決め、後半のパク・チソンの決勝ゴールの組み立てにも加わった他、随所に攻撃をリードし、ゴールを脅かし、守りにも貢献して存在感を見せたのは、これまでの5年間この対リバプール戦は、今季のアウェー戦を含めてリーグ11試合無得点であっただけに、一歩前進といえるだろう。

 マンチェスター・Uは、31節現在(3月21日)31試合22勝3分け6敗、得点72、失点25、得失点差47、勝点61で、2位アーセナルとは2勝点差。ルーニーはリーグの得点合計26でランキングの首位で、2位ディディエ・ドログバ(チェルシー、22得点)に4ゴール差をつけている。
 04−05シーズンにエバートンから移籍して今が6シーズン目、これまでリーグでのゴール数は1シーズン16得点が最高で、5シーズンで65ゴール、平均すると3試合で1ゴールの割合だったが、今シーズンは3試合で2.5得点のハイペース、この調子でゆけば欧州各国リーグの得点王の中での最多ゴール(ゴールデンシューズ賞)の可能性ありとも言われている。
 ゴールを奪う才能はもちろん、フットボールのすべての資質を備えていると10代の頃から言われているルーニーは、これまでルート・ファンニステルローイやクリスチアーノ・ロナウドといった華やかなストライカーの陰で、いささか地味に見えていた。
 今季はC.ロナウドが去った後、チームの中心ストライカーとなったことで、一気にそのゴールを奪う力が発揮され始めているように見える。もちろん、チームそのものの構成もこれまでと異なっている。サイドの攻撃力アップは、ルーニーのように「消えて、出てくる」ストライカーには大きなプラス。そのことは今シーズンのヘディング・ゴールの増加にも表れている。チャンピオンズリーグでACミランを破った二度のヘディングシュートもその表れだが、彼が若い頃から培ってきた技術と体の強さ、速さ、さらには労をいとわぬ勤勉さが、現在のマンチェスター・Uの目指す試合展開と見事に適合しているように見える。

 対リバプール(ホーム)戦は、5分にフェルナンド・トーレスの打点の高いヘディングで先制されたが、チームは焦ることなく、強い抵抗を受けながらボールを動かす。サイドからの突破でPKを得て同点とした場面は、エクアドル人で、今季ウィガンから移籍したドリブルの巧みな右サイドのアントニオ・バレンシアが、エリア内でハビエル・マスケラーノのホールディングで倒されてPKとなり、ルーニーが右足でシュート、GKペペ・レイナはコースを読んでセービングしたが、そのリバウンドをルーニーが決めた。リピートで見るリバウンドのボールに対する落ち着いた様子に、24歳のストライカーの天性と経験を見る思いがした。

 パク・チソンのヘディングによるチームの2点目は、それまで走り回り、ゴール前へ入り込み、惜しいヘディングシュートの場面もあったパクにとっては、うれしいゴールであるだけではなく、東アジアの仲間として、小柄な彼の働きとゴールは、私たちに何よりの励みでもある。
 このゴールに至る経緯は、(1)まずパクが後方第3列からのパスを受けて、右サイドのバレンシアにパスするところから始まる。(2)バレンシアが中へドリブルして、ゴール正面や左寄り25メートルにいるルーニーに渡す。(3)ルーニーはこれを右サイドへパスして、今度はダレン・フレッチャーが受け、(4)余裕を持ってゴール前へクロスを送る。(5)このボールをパクが飛び込むようにヘディングしてゴールを決めた。
(3)のプレーをした後、ルーニーがゴール前、ニアサイドに走ったことで、相手の警戒がルーニーに集まり、正面へ入ってきたパクへの対応が遅れたこともあり、このあたりが今のチームの動きの良さだろう。
 ルーニーは、ゴール正面25〜30メートルあたりで、相手ディフェンスラインの前でボールを受けたとき、サイドへボールを動かすのがうまいが、このときも、彼の右足キックの強さと正確さが生きている。
 難敵を克服し、チャンピオンズリーグとプレミアリーグの王座と、自身のゴールデンシューズに向かうルーニーの実力と成長の歩みの解析は今しばらく続けよう。


(週刊サッカーマガジン 2010年4月13日号)

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