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ドリブルの“つぼ”


3つの方法について

 ドリブルには主な方法としてインステップとそのインサイドおよびアウトサイドを使う3つがあるのを前回にもほんのちょっとふれたが、もう少しその技術や長所短所を書いておく必要があろう。

(1)インステップのインサイドを使う方法
 ストップの場合のように、厳格にインステップのインサイド(インフロント)だけではなくインサイド全面と考えてもよい。これを使ったドリブルは、これを使ったストップの延長と思えば、さらに技術的に説明するには及ばないと思う。3つの方法のうちこの方法はキープという観点からはもっとも安全だ。コントロールが狂いにくい。方向を変えやすい。敵に対してすぐ体を入れてボールを守るにも容易だ。その代わりに、走る方向に対して横へ足を開くためにスピードを出しにくいという短所がある。

(2)インステップのアウトサイドを使う方法
 この方法のときには、ストップやキックのように、踝(くるぶし)辺りまでアウトサイド全面を使うことはほとんどないから、インステップのアウトサイドに限ると考えてもらってよい。足首を内側へ柔らかく十分に曲げる。すると実際にはインステップ(甲)の外側だけでなくインステップそのもの(甲の前面)の大部分と親指の先までを含めて広い面が前方(走る方向)へ向かってできる。その面をべったりくっつけてボールを捉える。抱きかかえるように、あるいはすっぽり覆い包むような感じだ。そうしてその広い面にボールをくっつけたまま足首の柔らかい動きで滑らかに押し出していく。最後は足先をボールの下に少し滑り込ませる。それでボールに逆回転を軽く与えて転がり出ないようにする。
 足首を十分に内側に曲げないと、ボールにふれる面が外へ向くので、ボールの中心線をそれて内側を押すことになって、スライスされてボールは外側へ逃げてゆく。
 この方法は、足首さえ柔らかく十分に曲げれば、広い面を使うのでインサイドの次に安全な方法であり、しかもインサイドよりスピードを上げて走っても使える方法である。

(3)インステップを使う方法(キックやストップでも同じだが、インステップのインサイドとアウトサイドと明確に区別するために単にインステップといわずフル・インステップと呼んでもよい)
 十分に下へ伸ばしたインステップ(足の甲)の前面でボールを押し出す。これも最後に足先をボールの下に滑り込ませる。だが甲の前面は堅いからボール・タッチも堅いし、ボールに当たる面が狭いこともあってこの方法はどうしても他の2つよりコントロールが狂いやすい。しかし半面、走る動作をほぼそのまま使えるから一番スピードの必要なドリブルには向いている。例えば広いフリー・スペースを突っ走るなどによい。
 なおスピード本位といえば、トウ(足先)を使うドリブルもある。これもボールの少し下部をついて逆回転を与えて大きく飛び出さないようにするが、それでもやはりコントロールは最も狂いやすい。特に教えなくても、土の凹凸グラウンドでは、トウとインステップはほとんど区別できないぐらい混じり合って実際には使われているようだ。


蹴るな、押すのだ

 日本のサッカーの最大の弱点はドリブルが下手なことだといえる。その下手にも色々あるが、一言でいえばドリブルの最も大切な条件でボールのコントロールが一般的にいって非常に粗いことだ。つまりいつでもすぐボールに触れる範囲(プレーイング・ディスタンス)内にボールをキープできなくて、その範囲からすぐ飛び出してしまうことである。
 それは、蹴って追っかけるドリブルがいまもなお広く残っているからだ。ドリブルは決して蹴るものではなく、押すのだ。
 すでに述べた昔からの「持つな、蹴れ」のサッカーがドリブルに出ると「蹴って追っかけろ」となるのである。近ごろは少年サッカーの普及でボールに慣れてドリブルがうまくなったが、まだまだである。「蹴って追っかけろ」では広いスペースを速い走力で突っ走るときには使えても、目の前に敵を置いた狭いスペースの中盤や後陣からの押し上げなどでは、すぐ敵に献上して、極めて危険である。それが心配で一層ドリブルしなくなるとドリブルはますます上手にならないという悪循環も起こりかねない。
 とにかく足首関節の柔らかい動きで、ボールに柔らかくタッチして、いつもボールをプレーイング・ディスタンスのうちにキープして、いつでも必要があればすぐボールにさわれるのがよい。あるスピードで一定の距離を行く間に、ボールにさわれる回数が多ければ多いほどよいといってもよいだろう。それはボールをコントロールしてからできることである。そうしたドリブルを身につけるには、最初からスピードを要求しないで、スロー・スピードで十分にコントロールできてから次第にスピードをつける。「蹴って追っかけろ」主義はスピードを要求しすぎるときにも起こる。もちろん両足を同じように使えるほど強みだ。それには少年の頃から両足を使うように仕向けることだ。


体の幅の中でキープせよ

 ドリブルでは敵が来たら取られないようにすぐボールを守り、そうして必要に応じてパスもシュートもすぐにできるというボールの持ち方が一番よいのだが、それに適した持ち方は体の中央正面(体の中心線)にボールを置くことである。そこに置くと、敵が正面から来れば左右どちらへもかわせる。敵が左から来れば左足をそのまま踏み出せばボールをカバーできるし、右から来れば右足をそのまま踏み出せば同じことだ。またパスやシュートをするにも、左右どちらの足も同じようにすぐ踏み込めるからすぐ蹴れる。
 このように厳格にいえば、中央正面が一番よいのだけれど、試合では敵はいつも正面からとは限らない。むしろ左右どちらかに敵を置く場合の方が多いぐらいだから、どうしてもボールを敵とは反対側のどちらかに置いてドリブルすることが多い。しかしそのときでも、ボールを体の幅から外へ出すな、と強調したい。ひとたび体の幅から外れたボールはコントロールしにくくなるし、敵との競り合いにも弱くなる。またパスやシュートに素早く移れない。


姿勢に気をつけろ

 サッカーでは、姿勢がボール扱いに必ず響いてくるが、ドリブルの場合は特に姿勢の良い悪いはボール扱いのテクニックの効果を大きく左右する。それなのにドリブルといえばボール扱いにばかり気を奪われて、それができればドリブルはできたと思うのか、姿勢に関しては意外に無関心な指導者が多いのに驚くのである。
 良いドリブル姿勢は良いランニング姿勢につながるから、ドリブル姿勢に無関心ということは、ボールを持つ以前のランニングそのものの段階ですでに姿勢がおろそかに取り扱われていることだといえるだろう。サッカーでは昔から「走れ、走れ」といわれ、外国チームと試合をするとすぐ走る量が足らないといわれてきた。確かにボールはなくても収支動いていなければならない競技だけれども、ランニングは量の面からだけ観察されていたように思われる。
 またサッカーはボールを扱うから走る姿勢は特殊で、陸上競技のような姿勢は通用しないとの論もあったが、走るということでの基本の姿勢はどんなスポーツでも同じだと思う。良い走る姿勢とは上体の揺れがなくてバランスがよく、力を効率よく使ってスピードが出しやすい姿勢だから、当然にボール扱いが入ってきても不都合は起こらない。
 とにかく足技がいくら上手でも姿勢が悪いとその足技の効果も上がらないほどに、ドリブルでは姿勢が非常に大切なポイントで、悪い姿勢は少年のうちに矯正しておかないと大人になるとなかなか直らない。

▽上体を立てよう
 実際には上体はほんの少し前傾気味になるのが自然でよい。だがボールの上に覆いかぶさるような前かがみの姿勢が非常に多いので、あえて「立てよう」といいたいのである。だから立てても反り返ってはいけない。
 上体を立てないと周囲がすぐ見えない。前かがみはボールはよく見えても、周囲が見えないから、当面の敵に対しては足技次第でかわせても、次にさらにドリブルを続けるかパスをするかシュートをするかを決めるための状況判断にいちいち顔を上げて周囲を見直さなければならない。
 前かがみがひどいほど顔を大げさに上げねばならないから、その間にドリブルはお留守になりがちになるし、次のプレーへ移るタイミングが遅れる。状況判断のために中休みが入って、次のプレーへスムーズにつながらない。その中休みの間に相手は帰陣し、パスのタイミングを逸する例は、実に多いのである。
 ドリブルに限らず、ボールをミスなく扱ってもプレーのタイミングが悪いもののもとはといえば、そのほとんどは前かがみの姿勢に発している。


肩の力を抜け

 さらに状態の前かがみを起こす原因を探ると、背筋腹筋の弱いこととか、ヒザが弱くて尻が後ろに落ちるとか平素背中を丸めてクセになったとか……色々あるが、気をつければ直しやすいのに、案外多いのは肩に力が入って、いわゆるいかり肩の場合である。  肩に力が入ると単なる前かがみにとどまらず、肘まで力が入って横に張り、ますます姿勢は硬直し悪くなる。そうなると前述のように周囲がすぐ見られないだけでなく、重心が上がりバランスが悪くなって方向転換にいらぬ力を浪費し前のめりに陥りやすい。緊張しすぎるとやはり肩に力が入る。リラックスとはつまりこの力を抜くことだが、走るときに腕を横に振るのも肩に力が入った者に多い。
 また尻が後ろに落ちるとバランスを取るために上体を前へ倒さねばならなくなる。そうしてこの種の前かがみ姿勢は周囲を見るために特に上体全体を起こさねばならないから時間もかかる。尻が落ちる原因はヒザが上体の重みを楽に支え切れないときに多く、ヒザを強くすれば直りやすい。ドリブルだけでなく、このように尻の落ちる姿勢はタックルでも足が伸びない。


written by 大谷四郎
(サッカーマガジン 1978年4月10日号)

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