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ウェイン・ルーニー(16)09−10シーズン、新しい勲章PFAプレーヤー・オブ・ザ・イヤーを受けた


 ワールドカップ南アフリカ大会が近付き、新聞でもテレビでもニュースや企画番組が増えてきた。どれも興味があるが、面白かった一つは、岡田武史監督がヨーロッパの日本人選手視察に行ったとき、アーセン・ベンゲル監督に、カメルーンのポール・ルグエン監督について「理想主義者ではなく、現実主義者だろう」と言われたと聞いた――。「××主義」云々は、いかにも岡田監督とベンゲルの問答らしいが、フランス中部の大都市リヨンのクラブで成果を挙げたルグエン監督は、フランス在住の私の友人によると、「チームを団結させるのが上手で、選手からの信頼も厚かった」そうで、したがって「彼が率いるカメルーンは、グループステージで他のどのチームよりも日本にとって難しい相手になるだろう」と言う。
 サムエル・エトオという素晴らしいストライカーもいて、誰もが認めるアフリカ人特有の体の能力の高さを武器とするチーム。もちろん、体の能力といっても100メートルを7秒で走るわけではない。同じ人間同士が、一定の大きさの中で、一定の時間内で戦うのだから、互角の戦いもできるし、勝機をつかむ可能性もある。その第1戦で代表選手たちがどのように頑張り、どのようなプレーを見せるかと考えるのは、まことに楽しいこと。
 そういう夢を今まで持たせてくれている代表イレブンに感謝しつつ、開幕を待つことにしよう。


 さて、ウェイン・ルーニーは、ケガでしばらく戦列を離れたのち、37節の対サンダーランド(1−0)に出場した。動きの量はややセーブしていたように見えた。自らのシュートも3本だけだったが、チャンスのつくり方に非凡な技と判断を見せた。この日はディミタル・ベルバトフが不思議なほど、チャンスをことごとく逃してしまって、結果は1−0の辛勝となったが、本来なら2点目、3点目が入っても不思議はなかった。それでもチームは首位チェルシーとの勝点差1を保って、リーグ4連覇の望みを最後までつなぐことになった。
 チャンピオンズリーグで敗退、締め切り時点でプレミアリーグのタイトルも危うくなっていたマンチェスター・ユナイテッドとルーニーだが、彼にはPFAのプレーヤー・オブ・ザ・イヤー(PFA PLAYER OF THE YEAR 2010)の栄誉が新しく加わった。
 イングランドのシーズン最優秀選手表彰には「FOOTBALLER OF THE YEAR(フットボーラー・オブ・ザ・イヤー)」という、フットボールライターズ・アソシエーションによるものが古くからあるが、この記者投票のものとは別に、プロフェッショナル・フットボーラー・アソシエーション(PFA)所属の、プロ選手の投票による表彰――。ルーニーは今回、多くの仲間から活躍を認められたことになる。

 そのルーニーの能力と技を、彼の少年期、エバートンでのプレミアリーグへのデビューと2年間、そしてマンチェスター・Uへの移籍と、このビッグクラブでの6シーズン目までの歩みを眺めてきた。そして、日本の平山相太と同年齢、岡崎慎司、本田圭佑よりも1歳年長という若いルーニーの技の多彩さを紹介してきた。そうした技の本格的な解析は専門のコーチたちにお任せするとしても、日本の現在の得点不足解消のヒントになるものがいくつもあるように見える。
 その一つがシュートであるのはいうまでもないが、今回は蹴る話の前に、彼のボールの受け方、相手を背にしてのポストプレーやスクリーニングと反転について――。
 もともと、相手DFを背にしてプレーするのは、W型FWの時代からCF(センターフォワード)――いわばストライカーの宿命で、FWの大事なポジションプレーの一つだった。
 ストライカーが相手を背にしたプレーに長じていれば、MFたちの「当てる」パスも増えるし、そこからの変化も期待できる。そして、一番背後から密着されるポジションで、この動きができるプレーヤーを見れば、中盤のプレーヤーもそれをヒントにして、この動きをつかむことができるようになる。それは昔から多くの先輩たちが経験してきたことだ。
 現代のトップクラスの試合を見ると、かつてCFの特徴であった相手を背にしたプレーを、MFたちが既にこなしている。だから強いチームほどバックパスが少ないし、あっても余裕を持ってプレーしているから、有効なものになっている。イタリアのセリエAでは、DFたちのうまいスクリーニングを見ることができる。
 現代の全員攻撃・全員守備という動きの量の多いサッカーを掲げる日本チームが、その中でスクリーニング、相手を背にしたプレーが上達しないのは不思議だが、最も必要とするストライカーにこの技術の低さがあるのではないかと私は考えている。
 だからルーニーの「相手を背にしたプレー」は、私たちに良いヒントとなるだろう。


(週刊サッカーマガジン 2011年5月25日号)

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