賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >ウェイン・ルーニー(17)09−10シーズン、チームも個人も2位となったが熾烈な首位争い。さて、南アフリカは?

ウェイン・ルーニー(17)09−10シーズン、チームも個人も2位となったが熾烈な首位争い。さて、南アフリカは?


 サッカーの仲間のある会で、40年来の私の読者と名乗る紳士が、こんなことをおっしゃった。「今のサッカーマガジンの『我が心のゴールハンター』も読んでいますよ。ただし、私にはウェイン・ルーニーもいいが、マンチェスター・ユナイテッドなら、もっと古い選手の話も読みたいのです」。
 それに対して私は、こう申し上げた。「確かに、そういう方も少なくありません。ジョージ・ベストやデニス・ロー、ボビー・チャールトンの時代に懐かしさを感じる方もおられるようです。ただ、今ルーニーを取り上げているのは、岡崎慎司(24歳)や本田圭佑(23歳)と同年代のルーニー(24歳)が、どうしてプレミアリーグの名門中の名門のクラブのエースストライカーになったかを描くことで、日本の若いサッカー人にストライカーを身近に感じてほしいからなのです」。
「機会があれば、古いスターの話を書きますよ。場合によってはインターネット上でもね」とも申し上げたのだが……。


 日本代表23人が5月10日に発表され、前述の本田、岡崎も南アフリカに向かうことになった。選考に入らなかった選手たちにとっても、その選手のファンや支持者にとっても異論があるだろうし、協会関係者の中にも違う意見はあるだろうが、岡田武史監督が選手たちとともに築いてきたチームの土台の上に、何かを積み上げて本番に臨むのに最適任者を選んだのだろうから、まず監督、コーチ、選手たちがこれからの1ヶ月間、最高の準備をしてもらいたいと思うだけである。
 98年フランス大会に初めて日本代表がワールドカップに出場してから、今度が4回目だが、そのたび少しずつ、代表チームは改良されていると思っている。
 しかし、これまでと同じく選考されたメンバーを見ながら、不満と不安がないわけではない。それは、それぞれの選手が自分のポジションプレーをどれくらいの精度でできるのか、ということだ。
 それについては、ここで詳しく述べるスペースもないが、実はストライカーというのも、私はポジションプレーの一つだと考えている。チームと自分が作り出すシュートチャンスに、××選手なら、度の位置でこういうシュートを決めることができる。あるいは相手のCBを背にしてボールを受け、反転し、そのCBをかわしてシュートを決める(右足か、左足か、あるいは両方か)。
 ウェイン・ルーニーのような、若い選手のプレーについて、10数回にわたって練習してきたのは、彼の成長と、彼がどの技をいつごろ身につけてきたかを、試合の場面、得点のシーンを取り上げながら眺めてみようとしたからだった。

 2009−10シーズンは、先週のプレミアリーグ最終戦で、チェルシーが優勝、マンチェスター・Uは2位に終わった。勝点差は1。両チームの争いは最後まで続いて、最終試合もチェルシーは8−0でウィガン・アスレティックを破り、マンチェスター・Uは4−0でストーク・シティを撃破した。3位アーセナルとは勝点10差という、まさに2強の戦いだった。
 リーグの個人得点ランキングでも最終日に3ゴールしたディディエ・ドログバ(チェルシー)が29得点で首位、ルーニーは足の故障で戦列を離れたことで、自身の得点記録を伸ばせず、またチームの優勝争いにも影響したわけだが、5月9日のストーク戦でも自らの個人得点記録より、まずチームの勝利にこだわるプレーを演じ、チャンスメーカーとしても非凡の才能を持つことを改めて見せた。
 チームの3点目となった相手のオウンゴールは、彼がエリア内、左サイドで受けて内へ反転すると見せて相手マークを縦に外し、鋭いクロスをゴール前に送り、これを防ごうとしたダニー・ヒギンボトムがゴールへ蹴り込んでしまったもの。

 前号にも記したとおり、ルーニーのポジションプレーの一つに、「相手を背にしての反転、あるいはスクリーニング」があり、これによって、ルーニーは中盤に下がってきたときの受け方にも幅があって、攻撃の起点としてキープし、さらに精度の高いキックを使っての長短のパスを送ることができる。
 その見事な攻撃展開は、見ている者が思わず感嘆の声を挙げるほどだが、日本選手にも彼の「相手を背にしたプレー」を身につけてほしいと願っている。
 1974年ワールドカップ決勝で、オランダと西ドイツ、つまりヨハン・クライフとフランツ・ベッケンバウアーのチームが戦って、西ドイツが2−1で勝ったが、当時世界で最も新しい「トータル・フットボール」のオランダを破った大きな要因の一つは、西ドイツのストライカー、ゲルト・ミュラーの特色である相手DFを背にしたプレーと、反転シュートにあったと思っている。
 南アフリカで、イングランド代表、ルーニーのこのプレーがどのようにチームに役に立つか見たいものだ。


(週刊サッカーマガジン 2011年6月1日号)

↑ このページの先頭に戻る