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【番外編】近づくワールドカップ本番。走ることも、パス攻撃も、点を取ること、防ぐことが第一 〜85歳サッカー人のはるか昔の素人経験から〜


 2007年3月にスタートし、3年余り続いた「我が心のゴールハンター」――お楽しみいただけたでしょうか。
 往年の名選手、ゴールゲッターだけでなく、現在活躍中のウェイン・ルーニー(イングランド、マンチェスター・ユナイテッド)までもと、いささか欲張った人選になり、そのため、一人ひとりの書き込み量が大きくなり、紹介したストライカーの数は予定より少なくなってしまいました。
 それでも古今東西の優れたFW、大舞台で実績を残したストライカーを10人以上、書き続けてみると、それぞれの技術、ゴール奪取の能力に、各自の独特の個性があると同時に、共通するところも多いことを改めて知ることができて、私にはまことに楽しい執筆でした。
 この連載を始めるときに、私は旧制神戸一中(現・神戸高校)の先輩であった大谷四郎さんについて述べました。ジャーナリストとして、また指導者として、優れた実績を残しただけでなく、中学、旧制高校(一高)、東大と、選手生活はセンターフォワード(CF)でゴールゲッター。点を取る、独特の感覚と美しいフォームのシューターでした。

 その大谷さんを始め、数多い優れた日本人ストライカーを私の成長期に身近に見られたことが、サッカーを楽しみ、のちにサッカーを書いてゆく上で大きな財産となったハズです。ベルリン・オリンピック(1936年)の日本代表、川本泰三(故人、第1回殿堂入り)、川本さんより少し若く、戦前の慶大の黄金時代を築いた二宮洋一(故人、第2回殿堂入り)といった先輩がいました。昭和という時代に生まれた最高のストライカー、釜本邦茂(第1回殿堂入り)は記者になってからのつきあいだが、山城高校時代から早大、ヤンマー、日本代表、そして今に至るまで、長い年月のサッカー仲間です。

 私がサッカーを本格的に始めた旧制神戸一中は、戦前にというより、大正末期に、すでに今日の日本代表のように「相手より、余計に動いて、パスをつなぎ、得点する」というやり方で、体格の大きな、しかも年齢が2歳上の師範学校に対抗し、勝つようになっていました。
 足の速い、体の強い相手のドリブル攻撃やロングパスに続く突進を抑え守るために、組織的に複数で守ることも強調していました。
 そして、当時のサッカー界で「神戸一中のショートパス戦法」と呼ばれるほどになっていたこの学校チームが、全国大会で勝つためには優れたウイングとストライカーが重要と言われてきました。

 実は私が最上級生(5年生)のときも、ウイングとMFには人材が揃っていたのに、CFの適任が3年生で心細いということで、チームの練習を統括するマネジャーだった私が大会の間際になってレギュラーのCFになったのです。岩谷俊夫(故人、第2回殿堂入り)という非凡の能力を持つ(旧制中学ですでにプレーメーカーだった)選手が私を説得したのですが、それは私がゴールキーパーの練習台として一日に何十本もシュート(GKは3人いた)を蹴っているのを見ていたからです。お膳立てはするから、ともかくシュートしてくれればいいということで、初めて公式戦に出たのですが、いわゆる「心臓が強い」方だったのでしょう。日頃蹴っていた通りにシュートを蹴ってゴールを奪い(上背がないのでヘディングシュートはほとんどなし)、明治神宮大会という全国大会決勝で、朝鮮地方代表の普成中学と2−2の引き分け、ともに1位となったのです。決勝でも、準決勝での対青山師範(3−0)でも私は得点しています。

 当時の朝日新聞の天藤明記者(故人)が神戸一中のパスワークは超中学級と評してくれたのですが、このとき、つくづく感じたのは、ゴールへ向ってここで蹴ればゴールのここへボールが飛ぶ――という型をGKの練習に付き合っているうちに、自然に身に付けていたということ。そして、常にゴールに向かって蹴っていたので、ペナルティエリア周辺は自分の居場所のように落ち着いていたということです。
 第二次世界大戦によって、学生時代もサッカーの練習を中断し、大人への脱皮を図る重要な時期にサッカーを十分にできなかった戦中派の私には、自らのサッカーを吹聴する資格はありませんが、少年期への甘美な追憶が、ストライカーへの興味を今も強く保っているのでしょう。
 その興味は、南アフリカ大会でどのようなストライカーが活躍するだろうかの予測につながるのです。
 この大会、日本の攻撃が実を結ぶかどうか、難しい理論はさておき、走り込んでのシュートでも、ドリブルシュートでも、反転シュートでも、飛び込みヘディングでも、その選手がそれまでその場所で、どれだけ実際にそのプレーをしてきたかが物をいうでしょう。


(週刊サッカーマガジン 2011年6月8日号)

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