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最終回【番外編】闘莉王の復帰と適役・阿部の成功で元気を取り戻した代表に期待 〜イングランド戦から〜


 イングランド戦は、屈強な相手との1対1の競り合いで気迫を見せ、先制ゴールを挙げ、後半にオウンゴールで2点を奪われはしたが、ワールドカップの優勝候補を相手に良い試合をした。
 キリンチャレンジカップの対セルビア(●0−3)対韓国(●0−2)と完敗して、評判の下がっていた日本代表は、選手たちも少し自信を取り戻し、サポーターもやや元気づいたというところだろう。
 中村俊輔というキープレーヤーを欠いて強敵と戦うにあたって、岡田武史監督はこれまでの選手の配置を変えた。田中マルクス闘莉王が故障明けで、中澤佑二と2人でCB(センターバック)を組み、その前に守備的MFとして(近頃はアンカーというらしい)阿部勇樹を置いたのが成功の一つだった。
 阿部は、イビチャ・オシムが初めてジェフにやってきた頃、すでに若くして長い正確なキックのできるプレーヤーとして注目されていた。近頃はDFのどのポジションでもこなすという賢明さ、飲み込みの早さのために、浦和でも代表でも、“大事な穴埋め役”という仕事が多く、コーナーキック(CK)でファーポストへコントロールキックを蹴ることができるという、日本人の中では少ない長蹴力を生かす役柄についていないのだが、私には不満でもあり、不思議でもあった。
 今回は、本番間際になって“適役”でプレーしたことになる。

 前半のゴールは、遠藤保仁の右CKを闘莉王がダイレクトシュートで決めたもの。得意のヘディングではなく、グラウンダーの速いボールを右足でシュートした。長身のDFの多い相手との最初のCKに、このボールを蹴った遠藤の着眼(もちろん、事前のチーム練習でも反復しているはずだが……)と、闘莉王の意欲とゴールを奪う技術がうまく組み合った成果だが、CKを得る攻めがまたよかったといえる。
 これは相手の攻め込みを防いで、ハーフウェーライン手前で本田圭佑に渡るところから始まり、間合いを詰められた本田から長谷部誠へバックパス、長谷部が小さくターンした後、後方の中澤に渡した。中澤はハーフウェーラインより少し前方の岡崎慎司の足下へ送り、戻った岡崎が相手DFを背にしたまま、ボールを後方へ流し、それを阿部がダイレクトで前方へ送った。左サイドへ開いていた大久保嘉人がスタートを起こし、ゴール正面へ走り上がっていた。大久保を追走したグレン・ジョンソンが、このボールをヘディングして右CKに逃げたのだった。

 この一連の、中澤−岡崎−阿部−大久保のパスは、縦パス、バックパス、縦パスのシンプルなものだったが、昔ながらの「チョップ、チョップ、シュー(短・短・長)」のリズミカルな長短のコースと、それに合わせるランプレーだった。阿部のキック力を生かした高いパスは、大久保の上に落下する前にジョンソンがジャンプヘッドでCKにしたのだが、相手の守備ラインへ走り込む攻めのタイミングが良いために、相手側には脅威に映ったのだろう。
 攻撃のテンポが良く、動きがリズミカルだったから、CKの手順もスムーズだった(CK、FKの練習の成果――)。遠藤のキックの直前に阿部が中央からニアへ動きだし、これを相手側が一人追走し、その後のスペースへ曲がってくるボールに闘莉王が見事に合わせてゴールを決めた。ボールへアプローチするときの彼の動き、半円を描くような、膨らむコース取りと、相手より一瞬早くシュートに入ったところは、闘莉王の持つ攻撃力が発揮されたといえるだろう。

 岡崎が相手CBと競り、奪って敢行した右のボレーシュート、あるいは反転しての左足シュートなどは惜しいけれど正確とはいえず、長友佑都がせっかく長走しながらクロスを失敗したこともあった。本番では、こうしたわずかなチャンスでゴールを奪えるかどうかが、勝敗の分かれ目となる。

 それにしても、このページでの連載で紹介したイングランドのウェイン・ルーニーの充実ぶりは、いささかうらやましくもあった。ストライカーとしてのポジションプレーの重要な一つであるシュートの種類の豊かさの一端を見せ(その一つを川島永嗣がファインセーブした)。そのキックのうまさが、オープンスペースへの長いパスや右足アウトサイドを使っての左サイドへのスルーパスなどに表れていた。ルーニーに接して日本代表の若手は良い刺激を受けたはずだ。
 次はどんな組み合わせがあるのか。森本貴幸は? 本田圭佑は? 俊輔の調子も少し良くなっているとか――。元気づいた代表とともにワールドカップを楽しみたい。


【了】

(週刊サッカーマガジン 2011年6月22日号)

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