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ドリブルの使い方 <new!>


どんな効き目があるか

 すでにこれまで書いたことから、ドリブルに強いとどんな得があるかは見当がつくだろうと思うが、もう一度簡単にまとめてみよう。
 まずドリブルに強ければ敵陣に向かって前進することができる。パスという方法もあるがいつもパスができる状況とは限らない。パス・コースの塞がれた状況で無理にパスをつなごうとしたときの危険性に比べると、ドリブルに強い選手がとりあえず当面の敵を抜く方が攻撃法としてずっと堅実だ。
 そこでまず一人を抜く、守りは一人減る。そのとき放っておけば攻撃側はドリブルで侵入してくる。といってそれを防ごうと思えば、誰かのマークを捨ててもう一人投入しなければならない。すると攻撃側にはマークを外れたフリーの選手ができる。このジレンマに守備側を陥らせることは守備全体のバランスを崩す発端なのだ。サッカーは1対1の戦いの積み重ねとも見られるのだから、どこかで1対1に勝つことは、戦局を有利に導く上に大きな働きとなる。ドリブルは戦局を有利に導く発端となる重要な武器なのである。
 いまは攻守の切り替えが早くなって、ボールを奪っても敵は瞬く間にサッと味方をマークしてしまう。しかもマークはいっそう緊密になってゆく。そうした守備をパスで攻めようと思っても一つや二つのパスだけで破るのは容易なことでない。どうしてもパスの数を多くして次第に崩してゆかねばならない。だが緊密なマークのなかで有効なパスを5本も6本もつなぐことはいっそう難しい。しかも近頃のスピード化の要請からすれば、ダイレクト・パスでつなぐのは確率から見て非常に可能性は少ないとみてもよい。パスを使うにしても、その途中での1対1の場面でドリブルを使って抜き勝つ場面が入ってくると、非常に楽になるし、実際にはそうした場面が介在して有効なパス攻撃が成り立つことが多いのである。
 したがって1対1に強いドリブルをできる選手がおれば、それを使わない手はなかろう。またいなければ是非つくることだ。パス時代とはいえ1対1に勝てるドリブルは守備を崩すになお有力な武器である。
 またドリブルは、間を持たせたり、時間を稼ぐ手段としても貴重であるのはすでに述べた。例えばパス攻撃の途中で、すぐいまパスを出せば早すぎるときに、次のプレーを間に合わせるのに使うのがキープのドリブルで、これもまたドリブルが生きる大切なポイントの一つである。
 その他ドリブルは敵のペースで進んでいる試合で、ペースをこちらに奪う有効な手段でもある。自分のペースとは、自分が最もやりやすい調子で試合を進めることで、そのためには多くの場合、判断でもプレーでも先手を取ってボールをキープし、相手を後手に回してこちらのあとを追っかけさせる状況をつくればよいのである。敵がそうした状況で試合を進めていたら、その状況をこちらのものに移すのがいわゆるペースを奪うことで、そのきっかけをつくるのにまたドリブルは有効である。つまり奪ったボールをキープし、それを意のままに動かし敵にその後を追わせればいいのだが、いままで敵の後を追って苦しんでいた者が途端にパスを回して先手を維持するのは案外に難しいことで、むしろドリブルに強い選手がまず1対1で勝ち、その後、敵に追っかけさせる場面をつくって簡単に優位を示す方が手っ取り早いというか、心理的効果も少なくない。


ドリブルしていけない場所

 味方のゴールに近い守備地帯と中盤ではドリブルしてはいけないともいわれる。
 スピードという点から見て、パスという早い方法があるのにスローなドリブルを使うことはあるまい。時間の浪費でもある、というのが第一の理由。またそんなところで労力を消費していると、相手のゴールが近付いた肝心の終盤で疲れが出て得策でないというのが第2の理由。
 だから戦術の原則としては、守備地帯と中盤はパスで進み、終盤でドリブル(個人技)を使えというのは誤りではなかろう。
 味方ゴールに近い守備地帯で、不用意なドリブルの危険なことはよく分かる。また混み合っているところでは失敗しやすいし、味方の守備陣がボールを奪って一瞬ほっとしやすいときにまた攻められると混乱に陥りやすい。比較的広いフリー・スペースがあるタッチライン寄りか、タッチライン寄りに向かってならば危険率は少し低いが、混み合っている中央寄り、あるいはタッチ寄りから中央へのドリブルはことに危険だ。そのような危険地帯はできるだけパスで早く脱出しろと考えるのは当然であろう。
 しかし以上はあくまで戦術的原則であって、まだ味方がパスを受けにくい状況なのに無理にパスして結果はやはり敵ボールになるよりも、パスできるまで一応ドリブルでキープしてつなぐことも決して悪くない。いやそうしなければならない場合も起こるのは確かである。


中盤のドリブル

 それが中盤となると、ドリブルしなければならない場合が現実にもっと多く生まれる。前方へのパスで前進したくても、味方はみんなぴったりマークされてパスできないときだ。ミッドフィルダーなどは、よく経験するに違いないが、ドリブルで進めばよい。むしろ絶好のドリブル・チャンスだ。中盤は比較的フリーでボールをもらいやすいところだからドリブルしやすい。もちろんボールをもらってすぐ敵にからまれることもあるだろう。だが敵にからまれたからといって、安全なパス・コースもないのにパスで逃げようとしてはいけない。フリーであろうと、敵にからまれようと、パス・コースのないときはドリブルで打開しなければならない。またそれができるようにならないといけない。
 そうして自分をマークする敵を置き去りにしてドリブルで進むことができたら、先刻述べたように、敵が新手を繰り出すべきか否かのジレンマに陥り、守備の崩れを誘う発端となるのだ。もしさらに1人、2人と抜いてドリブルできる有能な選手がいたら、逆に中盤はドリブルの使いどころともなり、それで完全に有利な終盤もつくれる。


相手に突っかかれ、味方は横に走れ

 だがマークを捨てて新たにこのドリブルに挑戦してくる敵がいなかったら――もちろんそのときはフリーでパスを受けられる味方はまだいない――そのときはどうすればよいのか。
 挑戦してこないのだからどんどんドリブルで進めばよいのだ。しかし、すぐ敵はこなくても前方がすっかり開けてはいない。前線の味方やそれをマークする敵がいて、彼らが何んとなく行く手を阻む壁となる。次第にその壁に近づく。そのときフリーな道をドリブルしたいと思うとほとんどそんな都合の良い空き地は無いので困ってしまう。そのとき前方の味方も実は困っていることが多い。ドリブルで味方が押し上げてくる、スペースが狭くなる。縦パスが欲しいところだが、飛び出すとオフサイドにかかりやすいし、マークの敵が最も警戒しているところなどで難しい。何事も“前へ前へ”と育ってきた選手ほど困るだろう。
 しかし、その場合、ドリブルする者自身の解決法は、前方の味方をマークする敵に向かって突っかかるようにドリブルしてゆくことである。
 そうすると、敵は同時に2人を相手にしなければならなくなる。ドリブルを止めようとすればマークを捨てねばならない。すると、そこへパスを渡される。マークに執着するとドリブルの相手は自分を抜いてゆく。せっかくいままでそういう状況になることを避けてきたのに、敵はいよいよどちらを選ぶかを決めねばならない土壇場に追い込まれる。
 ただし、そこでその敵にマークされていた味方が前へ出られないからと動かないでいると、慣れた敵には2人とも守られることも起こる。だから、そのときもう一つ大切なことは、その敵にマークされていた味方が横へ走ることなのだ。そうすると敵は決定的に困る。
 その味方に引かれて敵がついていけば、ドリブルの前方はがらりと開けて楽に駆け抜けられ、そのままシュートに持ち込める場合も少なくなかろう。また敵がドリブルに挑戦してくれば、パス・コースの角度が広がり敵に引っかかりにくくなる安全にその味方へパスができる。
 こうしたやり方は、口でいえば簡単で理屈も分かりやすいだろうが、実際にはドリブルする側に1対1の自信がないと案外敵に突っかかるドリブルはしにくいものである。ことにいつも敵を避けて敵のいないフリーなところばかりのドリブルをしてきた者にはやりにくい。細かいタッチで足元からボールを離さないドリブルのできない者にもやりにくい。また、とかく動けといえば前へ動くことだと思いがちな者にはこうした横への動きも難しかろう。
 このように敵に突っかける(ときにはマークされている味方に突っかけてもよい)ことと、味方が横へ動く(攻めの動きは前ばかりとは限らない)ことは、前方を塞がれた際の打開策として、他の場面、ごく小さな局面でも大いに利用したい戦術的プレーである。近頃よく見るフルバックのタッチ沿いのオーバーラップといわれるのも前方のウイングが中へ走り敵フルバックを連れていったあとをドリブルで進むのだから同じ性質のものである。


written by 大谷四郎
(サッカーマガジン 1978年5月25日号)

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