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【番外編】ACL初参加セレッソの前進と3強の敗退 問われる運動量と競り合いの意欲

 5月24日、大阪ダービーとなったACLノックアウトシステム1回戦は、セレッソ大阪がアウェーの万博競技場でガンバ大阪に勝った。ヤンマーディーゼル以来半世紀の歴史を持ちながら、18年前のJリーグ開幕の参入の遅れから、常にG大阪を追う形となっていたC大阪の関係者にとっては、格別の勝利だっただろう。うれし涙の会社幹部やレヴィー・クルピ監督がタイムアップ直後に誰かれなく抱き合うのを見ながら、改めてその喜びの大きさを感じたものだ。
 そのレヴィー監督の選手交代――長身のFW小松塁(191cm、79kg)を乾貴士(169、63)の代わりに、MF中後雅喜(178、73)を倉田秋(172、68)に代えて、後半の始めから登場させたことが、一気に戦勢を挽回し、C大阪のゲームにしたと言える。
 前半始めにC大阪がいつもどおりの短いパスをつなぎながら、遠くからではあるがシュートに持っていき、やや優勢という形だったのをG大阪側は試合途中から、ロングボールをトップに送ることで勢いを立て直し、パスもつながるようにして自らのペースに持ち込んだ。
 通常はフェアであっても、ピンチを招くボールの奪われ方をしたときには、さりげなく、ファウルで妨害する「老獪」さを持ち合わせている相手との前半を見て、レヴィー監督はためらうことなく、自分たちのチームの特徴の一つである乾と倉田をひっこめ、小松と中後を投入しようと決めたのだろう。
 体がしっかりして、止めて前を向けばボールを持てるピンパォンが残っているうえに、上背に勝り、体も強い小松が入ったことで、ロングボールを使えることになり、まずキム・ボギョンの大きな動きと、局面での頑張りが目立つようになり、ボールの奪い合いにも粘りが出始めた。Jの試合のあと、中2日の休養(C大阪は中3日)のG大阪の選手たちは、まず運動量が落ち、次いでミスも出るようになる。運動量が大きな部分を占める日本のサッカーにあっては、G大阪のようなレベルの高いチームでも「最低限」の走りがなければ、パスのうまさにも、ボールの奪取の確かさも発揮しにくくなる。
 どちらのチームの選手も、それぞれの局面で懸命にプレーしたけれど、この大きな流れは変わらず、後半はC大阪の優位が徐々に広がり、88分に決勝ゴールが生まれた。左から右へ揺さぶって、キム・ボギョンから右の高橋大輔にボールが出て、エリアでノーマークで受けた高橋が、右足のシュートを決めた。タイムアップの笛で4人のG大阪の選手がピッチに倒れ込んでしばらく動かなかったシーンは、この試合の一つの象徴でもあった。
 
 5月25日、ACLの同じ1回戦で昨年のJリーグ優勝チームの名古屋グランパスが水原三星に0-2で敗れ、また鹿島アントラーズがFCソウルに0-3で負けてしまった。どちらも会場は韓国で、アウェーの不利はあったが、完敗だった。
 リーグ開幕時から故障者が多かった名古屋にとっては、ACLとJリーグ両方を戦うのは難しいようだった。動きの量も互いの連携も良くなかった。復帰したMFダニルソンがピッチから退くまでの前半はそこそこ戦っていたが、その前半の23分に左からの高いクロスから、ヨム・ギフンにヘディングを決められて0-1となったのが痛かったのだろう。
 188cmの長身・新井辰也のニアサイド(ポールに近い側)へ入ってボールの落下点をとらえたヨム・ギフンのジャンプ・ヘディングのうまさが生んだゴールだった。先制して落ち着いて守りを固める水原に対して、1点の回復を図ろうとしながら、名古屋は動きの量も少なく、またパスミスも多くて光明を見いだせず、後半にはGK楢崎へのバックパスが弱く相手に絡まれて、2点目を奪われた。
 鹿島の完敗もまた、私にはショックだった。日本のどのチームよりも試合巧者と見られていたが、ソウルの方が格上に見えてしまうほどで、一人ひとりのボールの持ち方、パスを組み立てるボールのつなぎも上手だったし、何よりも勝とうとする意欲に満ち、動きの量でもソウルの方が上だった。
 終盤になって足のけいれんが続出したが、それだけソウル側が目いっぱいのプレーをしたのだろう。
 この5月24、25日のACLで日本の3強が敗退したのは、1月のアジアカップ優勝で上昇気分にあった日本サッカーに、改めてアジアで勝つことのむずかしさを示したと言えるだろう。
 この連載「日本とサッカー、90年」で私たちは今から75年前の初のオリンピック・ベルリン大会で、日本代表が強豪スウェーデンに自らの技術を結集し、相手を圧倒する運動量で勝ち、そのあとも組織力を高めるための個人力アップと運動量アップに努めたこと、その練度が不十分なときには成果が上がらなかったことを、改めて思い出すのである。
 ACLに勝ち残ったC大阪の次のステップへの努力に期待したい。


(サッカーマガジン 2011年6月14日号)

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