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【番外編】75年前の伝説の地ドイツで なでしこジャパンが新たな歴史をつくる

 澤穂希キャプテンをはじめとする「なでしこ」ジャパンの活躍は、日本中に大きな喜びを沸き起こしている。
 小柄な彼女たちがひたむきなランプレー、組織プレーで、ドイツやスウェーデンの大型選手の動きを封じて、ゴールを守り、攻撃に出てゴールを奪うテレビのシーンは、何度見ても見飽きることはない。
 今年からINAC(アイナック)神戸レオネッサでプレーする澤キャプテンとは、4月末に短時間ながら、おしゃべりする時間も持って、身近になったこともあり、深夜、早朝のテレビ観戦もまったく苦にならなかった。
 日本代表だけでなく、ドイツの各会場での試合を眺めると、各国代表や選手一人ひとりのプレーに、改めて女子サッカーの魅力の多彩さに驚く。ボールを扱う形の美しさ、走るフォームの力強さ、接触プレーのときの強い気迫などが随所に表れ、また個人能力をチームプレーとして生かすために、お国柄や、気質や身体能力に合わせて、それぞれチームが自らのカラーを演じていた。
 FIFA(国際サッカー連盟)の統計によると、世界の女性サッカー愛好者は2億6000万人とか――。
 1991年の第1回女子ワールドカップのときの予選参加は45カ国だったが、この大会では122カ国。
 いまや、サッカーは世界の女子スポーツ界の大勢力となった。その大きな節目の大会で、日本代表がアメリカ合衆国とファイナルでタイトルを争うのは、まことに歴史的な快挙とも言える。
 快挙を生むのは、サッカーでは一つのパス、一つのシュートであり、自分たちのゴールの前でのタックルであり、ヘディングの競り合いであることは言うまでもない。
 この「日本とサッカー、90年」の連載の中で、戦前のU-17とも言うべき、旧制中学生の試合の模様や得点シーンを記述しているのも、そうした得点技術や守りのプレーが積み重なっての歴史を見たいからでもある。

 対ドイツで、相手FWに体を寄せ、たとえ反転シュートを許しても、相手の良い体勢で打たせなかったことや、高いボールをヘディングする長身者と競り合うことで、相手の狙いどおりにさせなかったことの積み重ねが、無失点というスコアになり、足の止まり始めた相手DFの裏へ送った澤キャプテンのパスと丸山桂里奈の快走の合作が、狭い角度からのシュートの成功、決勝ゴールとなった。
 岩下真奈が右アウトサイドに当てたボールをダイレクトで前方に送った澤のパスは、引っかかり気味にカーブを描いて丸山にとっての良い位置へ落ちた。大会のブラジルとアメリカとの試合で、ブラジルのマルタが決めたシュートに、左足のインフロントにひっかけた技巧があって、テレビ桟敷の仲間たちを驚かせたが、日本のキャプテンのパスも巧まずして、タイミングもコースも、パーフェクトなものになった。
 準決勝ではその、キャプテンがバックパスを失敗して、これを奪われて、相手の先制ゴールにつながってしまう。
 こういうときの責任の感じ方は、当事者でなければ分からない大変なもののはずだが、彼女は冷静な態度で仲間を励まし、機会を待った。
 同点ゴールは大野忍のドリブルに始まり、右から中央へ、左へと斜めに浅く、相手DFラインの前を突っ切って左外の宮間あやに渡し、宮間がダイレクトで、高く浮いて、落ちるボールをゴール前へ送った。落下するボールに川澄奈穂美が走り込み、後方から突き飛ばされて姿勢を崩しながら、右足をボールに当てて押し込んだ。
 後半に生まれた2点目は、澤のヘディング。攻め込んで、戻ったボールを鮫島彩がペナルティーエリア外から強いシュートを送り、安藤梢が飛び込む。GKが防いだリバウンドを澤がヘディングした。自ら招いた失点を取り返そうとする気持ちと、「今」をつかむ勘の良さのゴールだった。
 3点目は宮間の長いパスに安藤が走り、エリア外へ飛び出したGKがはじき返したのを川澄がダイレクトのロングシュートで蹴り込んだ。この2ゴールには、ともに安藤の果敢な突進があった。
 それぞれのゴールには、その前段にしかけがあり、シューターの決断や技術やひらめきが重なるのだが、なでしこの一丸の努力が、4ゴールを生んでドイツとスウェーデンを倒したのだった。
 ちょうど四半世紀前、1936年に、私たちの先輩は、この地ドイツで行われたベルリン・オリンピックに初めて参加した。その1回戦で大敵スウェーデンを0-2から逆転し3-2の勝ちを収めてヨーロッパ人を驚かせた。そのときの戦いが、「北欧の巨人」を相手に、体格差と強引な攻撃に耐えながら、ひたすら走り抜いて、パスをつないで3ゴールを返したプレーだった。ランサッカー、組織サッカー、いわば日流の原型だった。
 日本サッカーに最も縁の深い土地での、素晴らしいファイナルを期待したい。


(サッカーマガジン 2011年8月2日号)

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