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【番外編】22歳、香川真司の成長に目を見張り ゴール前の落ち着きと決定力に喝采

 応援するチームが3-0で勝てばとても楽しい。ひいきの選手がその中で2点取ればさらにうれしい。
 8月10日、札幌でのキリンチャレンジカップ2011、日本代表対韓国代表は、まさにそうだった。
 日本代表が3-0で勝ち、香川真司が2ゴールした。
 セレッソ大阪のJ2の頃から香川は気になるプレーヤーだった。
 神戸出身で中学の時に仙台のクラブにいた香川少年を見いだし、セレッソへ入団させた小菊昭雄コーチが神戸FCの出身で、いわば私には孫のようなもの。ドリブルが上手で、近頃のプレーヤーには珍しく円弧を描いてキープできる(つまりスクリーニングできる)ところ、そこからスワーブして抜いて出るのが魅力だった。右利きで、左も蹴っていた(上手ではなかったが)から成長が楽しみだった。
 どちらかと言えば、ドリブルし、パスを出し、味方に良い場面をつくって「どうだ、ボクのパスを見たか?」というタイプだったが、岡田武史監督のときに代表候補に呼ばれ、2008年のキリンカップで初めて平成生まれの代表となったあたりから、得点することにも目を向けるようになった。
 同じチームに同学年の乾貴士がいて、その直線的な突破と違っているところも面白かったが、体が丈夫で労をいとわぬ香川はどんどん上達し、右足のパスは長、短ともに正確になり、得意の角度の右シュートも上達した。
 彼はドルトムントへ移る前、長居での最後の試合でそれまで見せなかったペナルティーエリア左角からの右足カーブシュートを、ゴール右ポストぎりぎりに決めた。こういう時期にも自分が練習し開発した技術を試合でやってのける非凡さを感じた。

 さて、韓国戦。1点目は日本の右サイドからの攻めで、@遠藤からのパスを、A李忠成がヒールで後ろへ、B香川がそれを相手の前で受けて右足シュートをゴール左下スミに決めた。この得点経過の中で注目すべきは、まず@の前に遠藤が奪われたボールを奪い返したあと、すぐパスを出さないで、彼特有の一呼吸静止したこと。そのとき、日本側が一人右前に動き(長谷部誠だったか)、それによってスペースが広がったことだろう。その動きのあったほうへパスを出すのではなく、エリア中央部へパスを送ったところが遠藤――。
 早くて器用な李がAの場面でヒールのパスで意表をつき、それが香川にわたって、ここからが香川の仕事となる。このときの香川のプレーをビデオのリピートで見ると、右足で止め、それを左に当てて右に動かし、そのボールが相手に当たって小さく浮いて落下したのを右足で叩いている。
 自分ですりぬけて出るのではなく相手側選手との位置関係から小さなステップでボールを自分の右足の前においてシュートしようと判断したのだろう。右側の相手選手の足が、香川の右足と同じように出ているのがビデオに映っているから、一瞬の差だったのかも…。
 この右足、左足の小さなタッチでボールを動かして相手をかわす、あるいは自分のキックの型に持ってゆくのはミシェル・プラティニがよくドリブル中に使った手で、日本でもカズ、三浦知良も用いていた。それにしても、ゴール前で相手に囲まれた感じの中での落ち着きと判断、それにともなうプレーの正確さには感嘆の他はない。
 チームの2点目は、この日の左サイドバック、駒野友一がドリブルで仕掛けてシュートし、相手のGKが防いだリバウンドを右サイドに詰めていた清武弘嗣(岡崎との交代)が左サイドキックで中央にいた本田圭佑にパス。本田が左足サイドキックでゴール左下スミへ決めたもの。
 立ったままの姿勢で、正確にかなり強いボールを蹴れる本田の利き足のキック力と、それを承知していた清武、そしてその前の駒野の合作のビューティフルゴールだった。その駒野へのパスは確か香川からだった。
 チームの3点目、つまり香川の2点目は、香川の右オープンスペースへのパスと、そこからのクロスを自らがダッシュして決めたもの。香川のパスは相手に当たって清武へ渡ったように見えたが、このパスのときの彼のキックは自分の体の前にあるボールをまっすぐに蹴るというセレッソ時代にはあまり見かけないキックだった。パスを出したあとのダッシュのスピードとうまさについては驚くほどだ。清武からのパスが少し足下に深く入ってきたのにも、うまく合わせている。
 ゴールを奪うためには仲間の協力がなければならないことは、言うまでもないが、優れたドリブラーであった香川が、10日の試合でみせたゴール前での冷静な決定力は、若いプレーヤーや指導者にも参考になるはずだ。
 ライバルに久しぶりに3-0で勝ったからといって、楽観できるほど世界のサッカーは甘くないが、組織力、運動力を徐々に高めている日本サッカーで決定力が向上すれば、さらにサッカーが楽しいことを知った8月10日だった。


(サッカーマガジン 2011年8月30日号)

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