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【番外編】環境激変の中でのなでしこ予選突破 本田抜きでのサムライ・ブルーの進化

 なでしこジャパンのロンドン五輪予選、サムライ・ブルーのブラジルW杯予選が重なって、9月は緊張感のある日々が続き、それぞれに収穫があって楽しい秋となった。
 何よりうれしかったのは、女子日本代表がワールドカップで初優勝して、そのあとの生活環境が激変して、練習も充分でなかったはずなのに、6チームのリーグ戦の4戦を終わって、勝ち点10を取ったことだ。
 北朝鮮に勝てば、1試合を残してオリンピック出場が決まる試合のタイムアップ直前に同点にされたのだから、ロンドン行きを自力で決めようとしたイレブンにとっては、残念だっただろうが、試合全体の流れから見れば、妥当な結果だった。そして、その引き分けのおかげで、同日の中国-オーストラリアの試合の結果で代表権を得られたのだから…。
 1974年ワールドカップ(当時は男子だけ)に優勝した西ドイツ代表に6人を送り込んでいたバイエルン・ミュンヘンが、その次の74-75シーズンには、主力となる代表選手がゲルト・ミュラーをはじめとしてコンディションがガタ落ちして、ブンデスリーガでの成績も全く振るわなかったことがある。
 そういう例を見ている私にはアウェーとも言える中国での予選大会で、ともかく代表権を取ったのだから、なでしこはやはりすごいと思う。
 もちろん問題もないではない。ほぼ似たスタイルで、1対1に強い朝鮮半島のチームに大苦戦したことだ。
 パスを多用するいまのスタイルの中で、さらに個人力アップを心がけなければなるまい。それは、ロンドンでの本番につながるはずである。

 ザッケローニの男子日本代表は、北朝鮮とのホームゲームを1-0で勝ち、ウズベキスタンとのアウェー(1-1)を引き分けた。
 本来なら、2戦2勝してほしいところだが、本田圭佑という攻撃の大黒柱を欠いていたのだから、1勝1分けはまずまずと言える。
 タシケントでの試合でザック監督が阿部勇樹を起用して、トップ下に長谷部誠を配したのにはいささか驚いた。阿部をディフェンシブハーフに置いたやり方は2010ワールドカップで岡田武史監督が、中村俊輔というそれまでの中心選手が調子を崩したところから考えだし、守りを大切にしてグループステージを切り抜けたのだが、今回はいささか準備期間がなく、後半は第1戦の後半と同じ形にした。清武弘嗣という若いMFが北朝鮮戦でこのチームに合うことが明らかになっていたのだが、監督はもうひとつ別の手をテストしたかったのだろう。
 この試合は体の強いウズベキスタンがスタートから積極的で、日本側の隙間をドリブルで走りあがってゴールを脅かし、ジェパロフのシュートで先制した。左からのクロスが高く上がり、落下点でバカエフがヘッドで後方へ落としたのをジェパロフがボレーでシュートした。GK川島永嗣はこの日も難しいピンチを防いだが、このシュートはブラインドになったか、タイミングが難しかったのか、ニアサイドい入ってしまった。
 清武を右に置き、トップ下に香川真司を、右にいた岡崎慎司を左に回し、長谷部誠が遠藤保仁とともにボランチの位置に入ると、ボールが回り始める。今の日本代表の進化は素晴らしいのだが、やはり組み合わせによって、チームワークが微妙に変わることを改めて知ることになる。
 同点ゴールは、63分に相手の左サイドのFKから始まった。こちらの守勢からのカウンターが、きっかけとなった。強いFKを吉田麻也が右足に当ててはじき返し、これを香川が中央でワンバウンドをヘッドで落とす。守りに入っていた李忠成が拾い長谷部にわたしたとき、すでに飛び出していた遠藤が左のオープンスペースを走っていた。
 そこへ「阿吽」の呼吸とも言うべき長いパスが通って、守から攻に一気に変わる。ここで遠藤はスローダウンしてDFを前に、短いキープからのちに中央へフォローしてきた長谷部にわたす。その長谷部はドリブルして右の内田へ。内田のクロスはファーへ飛んだが、李より前に相手DFがヘディングした。そこには岡崎がいて、第2次攻撃が始まる。
 岡崎は@後方の遠藤にパスをだし、A遠藤は再び長谷部へ、B長谷部はシンプルに右外の内田へ、C内田はペナルティーエリア右角あたりから、クロスを送る。Dそれに合わせようとした李のスタートにDFが一人つられて(プッシングで李を倒した)中央部まで動いたあとへ、岡崎がマークのDFの内側へ、ダイビング――。見事なヘディングで、ネットへ叩き込んだ。
 相手FKをはじき返して、遠藤の飛び出しに始まる厚みのあるサイドからの攻撃によるこの同点ゴールは、いまの代表の実力を見せたと言える。
 ハーフナー・マイクという190センチを超える長身FWを北朝鮮戦と同様に、後半、李と交代させたのは、監督にとっての選択肢の一つだろう。大舞台でプレーすることで、彼自身のヘディングや足のシュート技術の伸びを期待したい。
 清武の鋭さが、このチームで生きることも明らかになった。この経験で彼がJでどのようなプレーを見せてくれるか、楽しみの一つとなる。


(サッカーマガジン 2011年9月27日号)

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