賀川サッカーライブラリー Home > Stories > >力強さから技巧へ変化した スウェーデンに衝撃を受ける

力強さから技巧へ変化した スウェーデンに衝撃を受ける

 2014年FIFAワールドカップ・ブラジルのアジア3次予選、対タジキスタン(10月11日、長居)は8-0の大勝となった。日本代表はメンバーがそろい、スタートから気持ちの入ったランプレーを展開して、多くのサポーターを満足させ、大差で勝利した。また、194センチの大型FWハーフナー・マイクが2ゴールを決め、日本代表歴史上で超大型FWがワールドカップ予選で得点するという、新しい記録と記憶を残すことになった。
 平均して欧米人に比べて背の低い日本人の代表では、これまでも大型FWはそれほど多くなかった。
 1968年メキシコ・オリンピックの得点王となり、3位・銅メダル獲得の力となった釜本邦茂は当時の日本では珍しい大型プレーヤーだった。ヘディングも、右足、左足のシュートにも長じた彼は身長182センチ、同時代の西ドイツ代表(W杯優勝)のGKゼップ・マイヤーが182センチだったから、外国人プレーヤーの中に入っても長身の部類だったと言える。
 現在は各国のGKが188-190センチが普通で、また、190センチクラスのFWも各国には少なくないが、日本では待望の声は高まっていても、なかなか育たなかった。
 マイクはディド・ハーフナーというオランダ人のGK兼コーチの息子として日本で育ち、93年には彼が16歳の時、家族ともども日本に帰化し、プロ・サッカー選手となった。長身を生かしてJ1甲府のFWでプレーするようになり、その実績を見たザッケローニ監督が、今度の3次予選から代表に加えて、第1、第2戦で、FWの李忠成の交代として出場させ、第3戦はスターティング・メンバーで送り込んだ。2得点とともに、長身を生かしたヘディングという監督の狙い通りで、今後の日本の攻撃に新しいバリエーションが増えることになるはずだ。
 本来なら番外編で取り上げてみたいところだが、このマイクの話をはじめ第3戦については、別の機会や私のウェブサイトに語ることにして、連載のテーマに戻り、60年前のスウェーデン選手から受けた衝撃について――。

 1951年11月に来日したスウェーデンのクラブチーム、ヘルシングボリは、そのボールテクニックのうまさで、まず日本側を驚かせた。この15年前の1936年のベルリン・オリンピックで、スウェーデンを破って「奇跡」とまで言われたが、それでも「スウェーデンの力強いプレーに苦しんだが、技術的にはこちらの方が上だと思えるところもあった」と言うのが、当時の感覚であった。しかし、51年は体格も上のスウェーデンが技術的にも日本より一段上だった。
 彼らの靴を見ると、戦前から日本に伝わったイングランド式のブーツ型(底の深い)ではなく、靴の先には堅い甲皮を入れずに柔らかいのが特徴だった。1967年に私はブラジルの日系3世ネルソン吉村が来日したとき、ヤンマーの練習グラウンドで、彼がつま先が柔らかく、皮の薄いサッカー靴をポケットから取り出したのに驚いたが、1951年のヘルシングボリの選手たちの靴も全体に軽くてしなやかで、日本人では常識だった「フットボール・シューズは硬いもの」という概念とは違っていた。
 これは1950年のワールドカップ・ブラジル大会に出場したスウェーデン代表チームが、ブラジルでは柔らかく、足にぴったりの靴を履くことで、足の感覚をそのままにプレーする――と知り、スウェーデンでも柔らかい靴に変わったと言う。
 日本では「ブーツ」全盛時代の戦前から、川本泰三さんが靴屋さんに注文を付け、先の柔らかい靴を使用していたことは知られているが、力のサッカーとして知られていたスウェーデンが、技巧重視への転換の一つに靴の変化があったようだ。
 日本代表の選手として、2試合を戦った川本さんは、「ベルリンで対戦したスウェーデン代表は非常に力強く強引だったが、うまみは見られなかった。今度のチームは、大きなキックと大きな動きは姿を消し、代わって巧妙な足技とFWの各選手がグルグルとポジションを変えてマークを外す――、そして浮き球と低いボールを自在に使うショートパスが各選手を結びつける――という攻め方を常識としている。最後の決め方も、良いシュートの格好ができるまで、ボールを回し、あてずっぽうのシュートはしない。GKの守りが進歩したからだと、コーチは言っていた。守備は昔と同じ3FB制だが、移動するボールに応じて自分たちの位置を変えてスキを見せないところはたいしたものだ」と語っている。
 私自身は西宮の全日本戦で、21歳のベングトソン選手が、ゴールライン近くで見せた「間(ま)」の取り方に大きな衝撃を受けた。日本では25〜26歳でようやく感得するものを、若くして身につけていることに、ヨーロッパのレベル(彼らはイングランドのプロ、エバートンとも互角の試合をしている)の高さを知った。
 そのポジションチェンジの多い攻撃が、自分で考えだしたやり方と同型なのは面白かったが…。


(サッカーマガジン 2011年11月1日号)

↑ このページの先頭に戻る