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マインツ・岡崎慎司の成長と 46年前の五輪銅メダリストの“ひたむき”ゴール 渡辺 正(上)

 岡崎慎司という日本代表の、ここしばらくの得点力アップが注目されている。
 兵庫県神戸市の滝川第二高校出身、知人の黒田和生・元同高サッカー部監督の直弟子で、高校時代から気にかかるプレーヤーだったのだが、Jリーグの清水エスパルスを経てブンデスリーガ・シュツットガルトに移り、腕を上げてきた。
 昨年、マインツに移籍し、監督にも信頼されている様子がテレビ画面に現れているが、2試合で1点弱の割合でゴールを重ねている実績は、なにより岡崎が自らのプレーに自信を持ち、周囲も認めている表れだろう。1986年4月16日生まれだから、今年28歳、充実期に入った彼がブラジルのワールドカップでどんな働きをするか楽しみにしている。
 この岡崎のプレー、特に相手ボールを奪って攻撃につなげ、バックパスを横取りしてゴールを陥れる攻撃は、私には今から46年前のある選手の姿と重なってくる。


日本の貴重な2得点

 渡辺正――1968年のメキシコ・オリンピックで日本代表が銅メダルを獲得した(いまなお男子サッカーのオリンピックでは唯一のメダル)ときの一人で、大会でも日本のゴール「9」のうち2得点を記録したストライカーである。
 昨年8月24日にNHKがテレビ放送60周年記念番組としてメキシコ・オリンピック、サッカー3位決定戦の“新発見映像”を放映した。私たちの仲間が芦屋で「賀川浩と細谷一郎(元日本代表)とともにテレビを見る会」を催したところ、予想外の50人を超える盛況となり、あらためて古いサッカー人にも若い人にも“銅メダル”が威力を持つことを知ったのだった。
 この試合は、前半の釜本邦茂の2ゴールを、日本側が押し込まれながらも守り、2−0で勝つのだが、渡辺正は宮本輝紀とともにミッドフィルダーとなり、主として中盤での守りを担当し、相手の攻めの方向を予測し、こぼれ球を拾い、前線の杉山隆一、釜本邦茂たちにつなぐ仕事をした。ヤリのような攻撃にその本領を発揮する渡辺が、相手を追い、ボールに絡んで地味な役割を果たしたことを、この画面を通じて再認識したのだが……。
 メキシコ・オリンピックでの日本の9ゴールのうち、3位決定戦の2得点を含む7ゴールを決めて、得点王となった釜本の活躍については、この連載でも釜本自身について、あるいはメキシコ・オリンピックについてことあるごとに語ってきたが、私たちのワンタン(渡辺正の愛称)の2ゴールもまた、忘れることのできないものだった。
 残念ながらNHKのこの記録番組は対メキシコ戦だけで、他の試合――1次リーグの対ナイジェリア(3−1)、対ブラジル(1−1)、対スペイン(0−0)、準々決勝の対フランス(3−1)、準決勝の対ハンガリー(0−5)の5試合については映像がなかった。
 日本が第1戦で釜本のハットトリックでナイジェリアに勝った後のブラジル戦は、相手に1点を先制され、後半の終了近くに同点として、ようやく引き分けた際どいものだった。
 当時の記録によると「試合開始後9分、ブラジルは左CKから先制した。GK横山謙三がたたき損ね(傾いた西日が目に入った)、相手FWフレッティがヘディングを決めた。ブラジルはこの前年に来日したパルメイラスから日本側の情報を得ていて、この1点を守り切ろうとした。巧みな個人キープや狡猾な時間かせぎなどで、試合が終わりに近づいた。日本は82分に、右サイドのFW松本育夫に代えて渡辺を投入、その1分後に杉山からのクロスをファーポスト側で釜本がヘディングで折り返し、そこへ突進した渡辺が、滑り込むようにしてシュート、同点ゴールを決めた」とある。
 長沼健監督は後に私にこう語った。
 「時間はまだあると思っていた(主審は相手の時間かせぎにロスタイムをとるだろうと――)。あと15分というところで渡辺を投入した。1分後に渡辺がゴール右隅に決めた。1−1。あと5分とサインを出したとき、レフェリーはタイムアップの笛を吹いた。ロスタイムをとっていなかったらしい」
 デットマル・クラーマーは、こう言っている。「こういうときに渡辺を投入すると私も考えていた。これが彼の特長なんですよ」


(月刊グラン2014年5月号 No.242)

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