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香川真司(中)

 7月15日に行われた浦和レッズとのJリーグワールドチャレンジ2017でボルシア・ドルトムントの一員として来日した香川真司。2020年までの契約延長も決まった。2010年に日本を離れてから来季が8シーズン目。28歳、ドルトムントだけでなく、代表選手としても、まさに「働き盛り」だ。

イングランドでの苦闘、成長に

 21歳でセレッソから巣立ち、ドイツ・ドルトムントでブンデスリーガ連覇に貢献、大きな成功を収めた。その活躍が認められ、イングランドのマンチェスター・ユナイテッドに移籍を果たす。ただ、真司にとって不運ともいえる出来事が起こった。マンチェスター2シーズン目に、真司の獲得を進めたアレックス・ファーガソン監督が退任してしまう。ファーガソン監督は、大まかな印象があるイングランドの中で全く違うサッカーを志向していた。そのスタイルに合うと考えてチームに呼んだ張本人がいなくなり、新体制で苦労することになった。
 もともとドイツ・ブンデスリーガとイングランド・プレミアリーグでは、ぶつかり方が違う。ドイツも当たりそのものは激しいけれど、イングランドの方が当たりが重たい感じがする。観客は肉弾戦ともいうべき1対1の競り合いを好むからだ。あと1〜2年ほどドイツでプレーしてからの移籍がベストだったとは思うが、彼には貴重な経験になったはず。
 苦労した真司を2年ぶりに迎えてくれたドイツ・ドルトムント。やはりこの国のピッチが合っていたということを再認識したのではないだろうか。ヘディングで点を取ったり、ペナルティーエリアの中に平気で入っていけるようになった。岡崎慎司(レスター)が得意にしているプレーだが、真司も勝てるタイミングで入っている。それはイングランドで個の力の高さを経験し、ぶつかり合って、どこまで持ちこたえられるかを模索した日々の経験が生きている。中に入っていくときの周囲の見え方、少しもつれたとしても、体が強くなったのでバランスが崩れても何とかしてしまう。

「右利き」左サイドで活路

 真司は右利きの選手だが、左サイドにポジションを取り、全体を俯瞰しながらパスを配球し、シュートを打つ。時には中に入って危険地帯でプレーをする。今は日本代表でもトップ下をやっているが、セレッソではもともと左サイドから始まった。そのことがその後の順調な成長につながった。
 本来のウイングプレーは左サイドならば、まっすぐ左サイドに走ってクロスを出していく。メキシコ五輪銅メダルメンバーの中心だった杉山隆一も右利きで左足は決して得意でなかったが、練習を重ねて左サイドを全速力で走りながら中央にいる選手の体の高さに合わせてクロスを出す。まさにウイングプレーの原則ができていた。現在の日本では、そういうプレーが少なくなり、ウイングはすぐに中央に流れ、サイドバックがそのスペースに上がってくるケースが増えている。幅広く使っているようで使っていない。ただ、今の流れの中で真司は成長してきた。
 真司はペナルティーエリアのすぐ外でボールを持った時は、逆サイドのエリアまでしっかり見えている。どこに出すかという判断が早い段階からかなりの高いレベルで出来ていた。現時点ではほぼ完ぺきにできている。もともと体が小さく、強く速く蹴ることが課題ではあったが、見えないように見えるが年々力はついている。
 最大の魅力は攻撃を組み立てる技術だ。味方に渡しておいて、前に出るタイミングはうまい。これが数多く点を取ってきた要因であるし、あの隙間をうまく入っていくなと感じる。自信をもって、ずかずかと入っていっても、技術があるからミスをしない。逆説的な言い方をすれば、もう少しタイミングを遅らせて入ったほうが得な場合もあるかもしれない。ゴール前はある意味大ざっぱなものだが、真司は上手すぎていろいろなことが出来すぎるので損をしているという感じがしないでもない。一呼吸遅らせて入ったり、誰かを先に入らせて、自分が後から入ったり、少しずるがしこくてもいい。
 日本でずらすプレーといえば遠藤保仁(ガンバ)がそうだ。彼のように全体を一呼吸ずらすタイミング、真司の場合は速いから半呼吸でも身に付ければ、また違った面がでてくるのではないか。

28歳 「立ち位置」を見極める時期

 真司も28歳になった。しんどいのに一生懸命に戻って守備をするなど、忠実にサッカーをしているが、チームや代表の中で得意な部分を生かし、「立ち位置」を見極める時期に来ていると感じる。現在の代表にとって本田、香川は「古株」となった。2人の成長がなかなか得点につながらないように見られ、まだるっこしい、若い選手に変えたらどうだという声もある。
 その声を跳ね返すためにも、ここだけは他の選手には真似ができない部分を見せていかなければいけない。もちろん手を抜かず、走り、動くことは大事ではある。守備では力を少しセーブしながら相手を追い込んでいたりするけれど、その部分をさらにもう少しセーブして、前に出ていくところで最大限の力が出るようにすることが得策ではないか。
 同時に自分のタイミングを周りに分からせることが大事になる。受けやすいタイミングでボールを出すことに関しては抜群の技術がある。しかし、もう一人の香川真司がいないので、自分のタイミングでなかなか出てこない。仲間にボールを出させるのも大事な技術だ。タイミングを伝えることで真司の上がりがもっと点につながってくる。
 サッカーが好きで、うまくなるためには何でもやってみる貪欲な姿勢はとても頼もしい。だからこそ長く活躍するためには今が大事になってくる。(この項続く)

(月刊グラン2017年9月号 No.282)

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