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本田圭佑 我が道をゆく「HONDA」

本田圭佑。Jリーグ世代を代表するサッカープレーヤーは、名古屋グランパスでの3年間を経て、海外に活躍の場を求めた。同時に日本代表の中心選手として存在感を高めた。来年のロシアワールドカップに向けて、その経験値は欠かせぬものだと思う。

「挫折」をバネに道を切り開く

 大阪府摂津市出身。ガンバ大阪ジュニアユースでプレーしていた本田を初めてみたのは、彼が名古屋グランパスに入団してからだった。
 試合を見た時に、左サイドでプレーしている背番号24が目に留まった。前線の長身FWヨンセンに向けて、何度も的確なパスを出しているのが面白く感じられた。グランパスの関係者に「左サイドに立ったままパスを出せるいい選手がいるじゃないか」と話したら、「立ったまま蹴れるだけですよ」と返ってきたので、「そこが素晴らしい」と答えたのを思い出す。と同時に、彼が大阪の出身と聞いて驚いたし、自分の不勉強を痛感した。
 それから何年かが経ち、「あの左サイドからボールを出していた選手はどうしている」と聞いたら、オランダへ行ったという。自分で選んだ道をまっすぐに歩む姿に改めて驚かされた。
 家長昭博(川崎フロンターレ)、安田理大(グランパス→韓国・釜山アイパーク)らとガンバのジュニアユースで同期だった本田は、当時はあまり目立つ存在ではなかったという。釜本FCからユース年代の育成を続け、当時はガンバの育成部長を務めていた上野山信行さんは、家長と本田のどちらをユースに昇格させようかと迷ったとも言われる。結局、本田はユースに昇格せず、石川の星稜高校に進んだ。ただ、昇格を果たせなかったことによって自分で道を切り開く彼の生き方が確立されたのだろう。星稜高校でも、その後に進むグランパスでも、自分の好きなようにプレーできたのもよかったのかもしれない。
 ヨーロッパに活躍の場を移してからも、オランダ、ロシアを経て、イタリアセリエAの名門ACミランで背番号10を背負うまでになった。2年前、日本サッカー界の発展に大きく貢献した故デッドマール・クラ―マー氏と話した際にも本田の話になった。「彼はまだイタリアにいるのか」と聞いてきたので、「まだミランでプレーしている」と話すと、「日本の選手がイタリアリーグでプレーしていること自体がすごいことだ」と話していた。欧州でのリーグ戦出場は200を超え、その足跡は大いに賞賛されるものだ。

「立ったまま」蹴られる素晴らしさ

 先ほど立ったままでボールを蹴られると書いたが、先日のワールドカップアジア最終予選対サウジアラビア代表の試合を見ていても、本田がボールを触ることでボールが落ち着く場面が何度も見られた。香川真司との比較をすると、2人の体格差もあるが、香川は自分がボールをもらうためには動かないと難しい。しかし、本田は立ち止まったままでもボールをもらえるのが強みだ。グランパスにいた時もそう感じていたが、体格的に芯がしっかりしていて、少々ぶつかられても立っていられるし、そのまま力のあるボールを蹴られる。
 日本では立ったままボールを蹴るというのは、あまりいい表現には使われない。しかし、力があるからできることで、身体の強さがなければボールを受けることができないし、走り回っているよりもボールを集めることができる。ヨーロッパでは当たり前のことだが、インターナショナルのレベルでできる日本人選手は少ない。そこは本田の大きな特徴だ。
 ガンバのジュニアユース時代はスピードという面で評価が低かったと聞く。日本人はスピードのある選手が好きだが、本田は決して速いとは言えない。しかし、動きながら蹴るのではなく、そのまま蹴って強いボールが出せるというのは、インパクトがうまく、脚が強い証拠。さらにいえば立ち脚がしっかりしていて、体全体がしっかりしているということでもある。日本では常に動き回ることが大事だと思われがちだが、立ったままでプレーできるのなら、それに越したことはない。運動量が少なく、軽快に走っているというイメージが少ないと思われがちな本田だが、実際にはボールを受けられる位置にいて受けているのだから何の問題もない。

メキシコで見せた「スタイル」

 日本ではサッカーは走り回るスポーツと思われがちだが、走り回らなくても立ったまま蹴って点になればそれでいい。いい場所にいてボールを触ることが大事だ。触ったら何でもできる。その時に一番いいと思ったことをしてみる。その点では頭が良くなければできない。嗅覚に加え、サッカーを知っていることが大切になる。ボールを持っている選手から見れば、本田に一度出して、次の有効な手を考える。本田はボールを受けて、次の展開を考える。選択肢が自然と多くなる。ボールをもらってすぐ次の展開につながるのがいいという声もあるが、90分間常にそうしているのではなく、時には全体の様子を見ながらプレーすればいい。それに、データを見れば本田は走行距離よりもスプリントの速さが目立つという。
 また、彼のゴールを奪うスタイルも、非常に興味深い。8月23日、新天地となったメキシコ・パチューカでのデビュー戦で見せたゴールの映像をみても、非常に計算されつくしたスタイルを見せていた。センターサークル付近で持ったところから自分のシュートしやすいところにボールを動かし、最後のところでシュートコースを空けている。ボールを受ける時は最初右寄りに動き、左へ流れてボールを受けた。最初から左に流れて受ければ受けやすいが、左に流れることで角度が小さくなる。だから、あえて右に寄ってから左に流れると、正面やや左寄りでシュートが打てる。優秀なシューターは自分がどこで受けたら、どこでシュートを打てるのかということを常に考えている。イタリアでのゴール映像を見ても同様だ。左利きだから左サイドにいるのではなく、右に寄って中に入っていけばいいコースにポジションを取っている。相手は分かっていても、右足でシュートされることも怖いので対応ができない。自分のシュートはどこへ抜けて、どこで蹴るというのが自然と身についているからだ
 常に我々を驚かせてくれる本田については、次号でも触れてみたい。

(月刊グラン2017年12月号 No.285)

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