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本田圭佑(下) 広がるフィールド、目指す地は

 日本代表の欧州遠征には招集されなかったが、メキシコから届く本田圭佑のニュースを見ていると、新天地で着実に存在感を高めている。50メートル以上のドリブルで奪ったカップ戦でのゴールは圧巻だった。グラウンド全体を見渡せる高い能力を生かし、ピッチを越えて活躍のフィールドを広げている。

「有言実行」貫くビッグマウス

 名古屋で見た10代の本田は、助走をすることもなく左サイドの後ろ目から前線にインパクトのある強いボールを蹴っていた。そのころから、将来はヨーロッパでプレーしたいと公言するなど、「ビックマウス」だったが、その後の本田の歩みは、まさに「有言実行」だ。オランダ・VVVフェンロでの3シーズンを経てCSKAモスクワに行ったときも正直驚いた。あの時点でロシアという選択肢があるのかと。しかし、彼の頭の中には、すでにその先が見えていたのだろう。次の進路を見据えた計画的な判断だ。なぜなら、自分のレベルより少し低いところで選んでいる。あの時いきなりイタリアに行ったら、そう簡単に試合には出られなかったかもしれない。約10億円の移籍金が発生したと聞くが、ヨーロッパの主要リーグに比べれば安い。次のステップに出やすい場所という判断の中で様子を見て、最終的にはACミランの10番を勝ち取った。
 グランパスを出発点にした本田圭佑の旅は、オランダ、ロシア、イタリア、そしてメキシコ・パチューカで5カ国目になった。中国などさまざまな噂が飛び交う中、メキシコを新天地に選んだのも本田らしい。クラブワールドカップ出場チームということもあるだろうが、その国に行って試合に出て、大将になることが大事なこと。ミランではもう少しプレーしたかっただろうが、10番を背負いながら試合機会が減れば、イタリアではすぐに非難の対象になる。しかし、有力選手が集うミランで10番を背負ったということ自体が、本田にとっては貴重なキャリアだ。
 本田にとっては、どのチームで何年間プレーしたというキャリアの積み重ねが大事だ。そして、人や地域と関わることがうまく、サッカーだけでなく、さまざまなことを吸収して成長する。その能力に長けているのだろう。訪れた先々で強烈な印象を残している。その陰にはグランパス時代から語学の勉強を続けていたように努力の積み重ねもある。すべてが本田圭佑の生き方であり、彼自身だけでなく、日本サッカー界にとって大きな財産になる。
 彼の行動はすべて自分の意志で動いている。クラブ間の駆け引きなどさまざまな思惑の中で新天地が決まるサッカー界において、自分の意思で新天地を探していくのは非常に難しい。本田はその意味でも稀有な存在だ。
 25年前、本田が6歳の時に発足したJリーグによって生まれた日本のプロサッカー時代の先端を走っている。プロフェッショナルとはどのようなものか、日本サッカー界が走りながら模索していた中で、それを形にしている新しい世代のリーダーだ。1980年代にカズ(三浦知良)が単身ブラジルに渡り、90年代には中田英寿がイタリアへ渡った。さらに10年が経過して本田圭佑が出てきた。そして来年2018年のロシアワールドカップを前に、本田より10歳年下の井手口陽介(ガンバ)が本大会出場に貢献しているのだから、まさに歴史は流れているといえる。
 現在では代理人でもある兄とともに、数多くのサッカースクール運営に関わり、海外のクラブ経営にも参画している。選手という枠を超えて、いろいろなことができる。サッカー同様に、周囲が見えているということだろう。

「ここに本田あり」ロシアへの思い

 明けて2018年、本田も32歳になる。サッカー選手としてはさまざまな経験を積み、一番いい時期にさしかかっている。かつてプレーしたロシアで行われるワールドカップを前に、ハリルホジッチ監督は本田、香川真司(ドルトムント)、岡崎慎司(レスター)という代表の顔ともいえる選手を招集せず11月の欧州遠征に出かけた。本田自身「今回は落ちるかもしれない」と話していたようだが、腹の中では「自分が必要だ」と思っているに違いない。ただ、ここからはメキシコで試合に出たときはきちんと働きを見せていかないといけない。「ここに本田あり」という強い思いが、現在の高いパフォーマンスにつながっているのだろう。
 グラウンドの内外でリーダーシップが取れるというのが彼の特徴だ。日本代表で長年キャプテンを務める長谷部誠(フランクフルト)とは違った意味でのリーダーといえる。香川真司(ドルトムント)は一所懸命ピッチで汗をかくが、自分から強い意思表示をするタイプではない。その点、本田は人に指示が出せるタイプだ。日本の選手としてトップクラスの経験をした上で、自分だけがうまくなれるというより、周囲の選手や後輩に対しても影響を及ぼすことのできる選手だと思う。
 技術的には左利きながら、左右両方の足で正確にボールを扱えるし、周囲が見えている。本田自身、中心選手となったパチューカで様々な可能性を試していくこともできるだろう。ゲームを作ることが増えてくるかもしれない。シュート力、立ったままでボールを出せる体の強さ、ボールタッチのうまさを生かし、ゴール前に入ってくることは、相手にとっては大きな脅威だ。
 プレーだけでなく、行動、言動の一つ一つが今までの日本サッカー界にはなかった存在。彼の行く先は予想不可能だが、ピッチで見せる卓越した先を読む力で、我々には思いもつかないことを考えているのだろう。日本で一度プレーを見たいという願いもあるが、彼自身がそこに価値観を求めているのかが大前提で、運営するスクールやクラブにとってプラスになるかと言うことも選択の判断材料になるのかもしれない。これからも目の離せない存在だ。

(月刊グラン2018年1月号 No.286)

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