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岡崎慎司(下) 相手の脅威となる点取り屋

 6月からロシアワールドカップが開催されるが、このところ代表から遠ざかっている岡崎慎司は日本代表として名を連ねるのだろうか。日本のFWとして最多となる国際Aマッチ111試合に出場したストライカーが3度目の本大会出場を果たせるのか、気になるところだ。

「点取り屋」釜本に重ね合わせる

 日本代表50得点に到達したのは釜本邦茂、三浦知良、岡崎慎司の3人のみ。ただタイプは二つにはっきり分かれる。釜本は後に飛び込んでゴールを奪うようになるものの、基本的にはカズとともに自分でボールを持ってゴールを奪いに行くタイプ。対する岡崎は出てきたボールへ走りこんで点を取る。ただ、3人に共通するのは、得点を取るだけでなく、点を取っていない場面でも数多くのチャンスに絡んでいるという相手にとっては脅威の存在であることだ。
 点の取れる選手は気持ちが乗っている時はゴールを量産できる。これは点取り屋の特徴だ。味方がその選手の得意とする場所にボールを出せるような状況ができたときには面白いように点が取れるものだ。岡崎が目標としている中山雅史が、1998年にJリーグで4試合連続ハットトリックを決め、ギネスブックに名を連ねた。当時はまさにそのような状態だったのだろう。
 私が長年見てきた釜本はヤンマーのストライカーとして日本サッカーリーグで7度得点王になっている。当時の選手の中ではレベルが抜けている印象を持たれているが、そんな簡単なことだけでは得点王にはなれない。ただ、ゾーンに入ったときはしっかり点が取れている。釜本が晩年のころ、三菱の森孝慈監督が京都で行われた試合後に「また釜本にやられた。あいつはすごい選手だ」と苦笑して話していたことがある。釜本のゴールは相手のダメージも大きかった。点取り屋というのは、相手に泣き言を言わせるくらいの雰囲気も必要だ。
 釜本のゴール写真を改めて見ていると、すべてボールから目を離していない。1968年5月、日本代表が国立競技場にアーセナルを迎えた親善試合で、渡辺正のクロスにニアで飛び込んでヘディングシュートを決めた連続写真を見ても、地面に着地してからでもボールの行方を追い続けていた。日本で一番ヘディングシュートが上手かったのは釜本だと今でも思っているが、岡崎はそれと並ぶ存在になっている。岡崎特有のダイビングヘッドは日本代表の貴重な得点源になっている。
 飛び込むことで相手の脅威になり、さらに別のチャンスを生む。成長著しい日本代表は、アジアはもちろん欧州勢を相手にしても中盤である程度ボールを持てるようになっている。持てることに満足しているのが少し気になるが、あとはゴール前での駆け引きが大事になっている。点を取ることのできる場所での駆け引き、飛び込むことのできる選手の存在は大事になる。
 セットプレーにおいてもヘディングの能力が高い選手がいるのは大きな武器だ。能力の高いキッカーが高さ、場所をコントロールし、そこに入ってくることを示し合わせ、しっかりあわせれば点になる。CKやFKでも1点は1点。日本の場合11人全員が背の高さで優位に立つことは少ないのだから、流れの中にヘディングで勝てるポイントは少ない。蹴り終わるまでは相手が近づいてこないセットプレーでは安心して蹴ることができる。受ける側は誰が飛び出すのか、飛び込んでいく選手の協力関係で相手のマークを外すことができる。
 日本は野球を見慣れている人が多いので、ボールが停止した状態から始まる攻撃は見て理解しやすい。その意味ではCKやFKをもっと大事に考えてもいいと思う。ヨーロッパでもセットプレーの得点は増えていて、全体の3割を超えるというデータもある。岡崎の価値を生かせるプレーとなるはずだ。

「そこに岡崎がいる」W杯へアピールを

 代表チームの作り方の変化、岡崎より体が大きく、後ろを向いてボール止める選手が多く出てきたことで、代表での岡崎の出番が減っている。監督の要望に応え、新しいタイプのセンターフォワードをやれと言われても困るだろうが、すり抜け、走りこんでゴールを決める存在は捨てがたいし、大事な戦力だと思う。苦手な左足でシュートを積極的に打つなど、いろんな技を増やし成長したいという思いは伝わってくる。だが、ここぞという時に飛び込んでくるのは彼の真骨頂だ。わずかな機会であっても、しっかりアピールしてほしい。
 日本でわずか3人しかいない代表50得点。もっと評価をされていい選手だと思う。いわゆる上手な選手が増え、中盤でキープする時間が増えているだけに、そこに絡める選手が目立つようになっている。以前は85分寝ていても5分で勝負を決めるという選手もいたが、今は全員でボールを奪いにいくサッカー。岡崎は運動量もあり積極的にボールを奪うに行く選手だが、奪った後にどのようなつなぎ方をして飛び出していくのかという得手の部分を見せないと、存在価値はなくなってしまう。ゴール前に出てくる仕事の重要さで見せないといけないし、点にはつながらなくても、相手に脅威を与えることで代表チームの得点力は自然と上がってくるはずだ。ただ、FWはゴールの数で評価される。点を取ることで「岡崎がいる」と改めて認識してくれるからだ。
 182センチの釜本のように、シュート、ドリブル、ヘディングすべてに優れるスタイルは、日本のセンターフォワード像として長く確立されていた。新しい選手が台頭しても「これは釜本とは違う」と分類された。多くの選手にとって釜本は迷惑な存在だったかもしれない。しかし、174センチの岡崎が小柄な体を大きく見せるヘディングでゴールを量産した。岡崎、香川というゴール前に飛び出す点取り屋が実績を残した功績は大きい。
今思えば釜本は何十年に一人の存在だった。私が誇れる功績の一つは、小学校時代にソフトボールのホームラン王だった釜本に野球をやらせずサッカーに導いたことだと思っている。その釜本のような天性のうまさではなく、育っていく過程でゴール前に飛び込んでいくタイミングを磨き、工夫を重ねて存在感を高めてきた岡崎慎司。これからも「孫弟子」のプレーを注目していきたい。


(月刊グラン2018年3月号 No.288)

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