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日本代表監督の交代劇(後篇)

 2018ロシアワールドカップは、発売時点で3位決定戦と決勝を残すのみとなった。スペイン代表監督が開幕直前に交代するなど、番狂わせの相次いだ試合内容以外にも驚かされることが多かった。前号に続き、日本代表監督について記していきたい。

初の外国人監督、ハンス・オフト

 前号では、世界のサッカー界の中でも卓越した組織力を持つドイツサッカー協会の支援を受け、デットマール・クラマーという若く優秀な指導者によって育てられた長沼健監督(元日本サッカー協会会長)、岡野俊一郎コーチ(元日本協会会長)、平木隆三コーチ(名古屋グランパス初代監督)のトリオが日本代表チームを指導し、メキシコオリンピックでの銅メダル獲得に導いたと紹介した。クラマーは、単に代表チームの強化や選手選考、試合への取り組み方などにとどまらず、下部組織の育成や、後にJリーグへとつながっていく全国リーグ創設の提言まで、6大会連続でワールドカップに出場するまでに成長した日本サッカーの礎をつくった。彼が「日本サッカーの父」と呼ばれることに、誰も異論は唱えないだろう。
 メキシコ五輪の銅メダル獲得後は岡野、長沼が一度ずつ監督をつとめたほか、二宮寛(三菱重工元監督)、下村幸男(東洋工業、藤和不動産で監督)、渡辺正(八幡製鉄元監督)、川淵三郎(Jリーグ初代チェアマン、元日本協会会長)と続き、1981年から85年までは森孝慈(浦和、福岡で監督)、86年から87年までは石井義信(フジタ工業元監督)が務めた。この間、森の時にはメキシコワールドカップまであと一歩というところまで近づいたが、韓国の厚い壁に跳ね返された。
 1992年、横山謙三(浦和元監督)の後任として初の外国人監督として就任したのが、オランダ人のハンス・オフトだった。Jリーグ開幕を控えた日本サッカー界の高揚に合わせるように、「ディシプリン(規律)」「アイコンタクト」という用語は新鮮な響きがあり、多くのサッカーファンに広がった。
 オフトは1982年にヤマハ発動機(現ジュビロ磐田)の短期コーチを務め、その後84年から88年まではマツダ(現サンフレッチェ広島)でコーチ、監督を務めていた。日本での指導実績を持つ外国人監督を招聘するという点では、協会も考えた人選だったと思う。オフト自身にとっても、日本代表をワールドカップに導くことで、指導者としての実績につなげたいという思いもあっただろう。監督就任した年に広島で行われたアジアカップで優勝に導き、初のワールドカップ出場に向けて、まさに国民的関心事となったアジア最終予選では、「ドーハの悲劇」と語り継がれる衝撃的な結末で、1994アメリカワールドカップの出場権には届かなかった。
 ヨーロッパ、南米の強国にとっては当たり前のワールドカップ出場が、当時の日本にとっては超えられない壁だった。ただ、この年のアジア最終予選を見ても、これだけ予選からこれだけ注目される競技はない。サッカーは他競技と比べても大変なものだということが理解してもらえるようになった。長沼監督の時代には、試合が終わると長沼の車に同乗してスタジアムを後にしていたこともある。非常にのどかな時代だった。

W杯唯一の日本人監督、岡田武史

 国民的関心事となったワールドカップ出場を目指す日本代表監督を日本人がつとめることは、かなりハードルが高いものになっている。オフトの後はブラジルの名選手だったファルカンが続いたが、ほどなく加茂周が就任。しかし、加茂はフランスワールドカップの予選途中で解任され、コーチの岡田武史が後を受け継ぎ、初のワールドカップ出場に導いた。岡田は2010年南アフリカ大会でも監督を務めた。岡田は唯一2度のワールドカップで指揮を執っている。
 今回のハリルホジッチ監督の交代劇でも岡田が呼ばれるのではないかとも思ったが、オーナーを務めるFC今治の仕事などもあったのだろう。これまでと同じ流れになるのを嫌ったのかもしれない。
 世界の代表監督を見てきたが、それぞれ置かれた立場によって、代表監督に求められることも異なる。ただ、一番大事なのはチームをうまく働かせること。テクニックや戦術的な部分はもちろん大事だが、大半の選手にとってははじめてのワールドカップ、そういう選手が現場で実力を発揮し、チームとして戦うためのマネジメントが求められる。それぞれのチームとは違う役割を求めることもある選手に説明し、ピッチで能力を発揮させることも必要だ。
 日本代表チームとしてのスタイルをどのように確立していくのか。一番重要なのは走り回れる力、動きの量とコンビネーションプレーのうまさによって、点を取って、失点をより抑えるということだろう。手数はなかなかかけられない。試合で言えば、まさにコロンビア戦のような2−1くらいの狙いではないか。逆に、ヨーロッパの上位チームは予選突破をすでに計算し、本大会での試合が大事だと思っている。ただ、安心していると、今大会のイタリアやオランダのように足をすくわれることもある。そこがサッカーの面白いところでもある。


(月刊グラン2018年8月号 No.293)

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