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W杯特別編 ワールドカップ2018を振り返って

 ロシアで行われた2018ワールドカップは、フランスの20年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた。今回、残念ながら現地取材を断念したが、中継の映像を通して64試合を堪能した。今回から3回にわたって大会を振り返る。まずは、直前の監督交代に関わらず、ノックアウトステージ進出を果たした日本代表について。

幸運を初戦勝利に。香川、本田の存在感

 本大会2カ月前という異例の監督交代劇。メディアもファンも大会前から不安を隠さなかったが、日本代表は1次リーグを勝ち抜き、西野朗監督も責任を果たした。西野監督自身、強化委員長という立場で代表チームを見続け、最終的に自分の目で選手を選んだ。1996年アトランタ五輪監督としてブラジルを破り、Jリーグでも歴代最多の270勝を挙げるなど、勝ち運を持っている「名将」だ。
 開幕前の親善試合ではメディアの批判にも晒されたが、直前のパラグアイ戦で勝利したことでチームの一体感が強まったと感じた。代表チームとしては中枢メンバーの15、6人を軸に登録メンバー23人全員に至るまで選手と監督との濃密なコミュニケーションが必要となる。就任から時間がなかったとはいえ、強化委員長として選手を見続けていたことに大きな意味があったと考える。
 初戦のコロンビア戦は、立ち上がりで相手のハンドからPKを得て、しかも退場で1人少なくなったというプラス要素があったとはいえ、強豪を相手にしっかりとした試合運びをして勝点3を得たことに大きな価値があった。11人対10人になって、11人のチームが勝つという保証はない。開幕前は代表選出に対してメディアから疑問を投げかけられていた香川真司は、緊張感のあるPKをしっかりと決めた。ベテランというとまだ年齢的に語弊があるが、西野監督の中では頼りになる存在であると信じていたはずだ。
 決勝点をアシストした本田圭佑の存在も大きかった。プレースキックを含めた彼の特徴を遺憾なく発揮した。もちろんゴールを決めた大迫勇也は、その存在感を強烈に見せつけた。この試合を通じて、大迫ら攻撃陣はペナルティーエリアの付近から思い切ってシュートを打つということを心がけていたように感じた。シュートがなければ得点には繋がらないし、相手に脅威を与えられない。前線まで行きながらパスを回すチームが多くなってきた中で、積極性がとても頼もしく感じられた。
 失点の場面ではGK川島永嗣のプレーに批判が集まったのだが、私自身は大会を通じて監督の期待に応える十分な働きをしたと考えている。2戦目での失点につながったパンチングにしても、本来なら上に上げなければいけないものが相手の正面に行ってしまったのだが、ああいうミスは時には起きる。西野監督は最後まで川島を信頼し、起用し続けた。これが現実だ。
 GKは身体能力が問われるポジションで、Jリーグでも外国人選手の起用が増えている。ただ、日本人選手の中にも長身でなおかつ身体能力が高い選手が増えてきている。今回の大会を見てもGKは良くも悪くも花形ポジションであることが改めて証明された。川島も現在海外でプレーしているが、フィールドプレーヤーだけでなくGKが一人でも多く海外で活躍してくれることを願っている。

時間の使い方は「世界の常識」

 第2戦セネガル戦については、ぜいたくを言えば、あれだけ追い付く力があるのだから勝点3を奪ってほしかった。この試合でゴールを決め3大会連続でゴールとアシストという世界で6人目の記録を作った本田は、やはり役者が違うと感じた。日本人の中でとりわけ体の芯が強く、守りから攻撃への起点として時間を稼げる存在。今後の去就は気になるところだが、改めて稀有な存在感を証明したといえるだろう。
 引き分け以上でノックアウトステージ進出が決まる第3戦・ポーランド戦は、終盤の日本代表の戦い方に注目が集まった。0−1で迎えた82分、長谷部誠を投入してから、後方でボールをつなぎ続け、会場はブーイングに包まれた。試合後、私もコメントを求められたが、何ら問題はないと答えた。あの試合で監督の一番大事な仕事は、ラウンド16に進出すること。無理矢理攻めにいってボールを奪われ、ゴールを決められて得失点差で1次リーグ敗退となれば意味がなくなる。監督が様々な要素を見て決断し、世界では常識ともいえる時間の使い方をして先へ進むことができたのも日本の実力の証明だ。ヨーロッパでも同様のケースはいくらでもある。今回はフェアプレーポイントという初めてのルールが適用されて、冷や汗ものの進出だったが、ルールの中でしっかり2位以内を確保した。

幸運生かした16強。ベルギー戦で力の差

 FIFAランクですべて格上の3チームを相手にしての1次リーグ突破。実力的にも勝ち上がっていく力があったとともに、第1戦の幸運を生かす「運をつかむ」力もあったと思う。
 それだけにベルギー戦とのラウンド16の逆転負けはもったいなかった。試合を振り返ってみると、試合の最中からベルギーの個の力、圧力に気分的に追い込まれていたように感じた。2点を先制して状況的には優位になっていたのに、徐々に尻すぼみの内容になっていた。
 決勝点になったベルギーのカウンターは圧巻だった。起点からシュートを打つまでの約80メートルを10秒もかけていない。90分以上戦い、なお日本の選手が追いつけない走力で、ミスなくボールをつなげていく。あの場面にすべてが凝縮されている。日本のDFも危険察知能力が高ければ、まず先んじて何歩か後ろに下がっていれば止められたかもしれないが、相手を見ながら下がってしまった。これが本当の意味での実力ということだ。誰もがこの一瞬のために日頃から練習を積んでいる。体力がどのくらいあるのかということではなく、タイムアップ直前にあれだけのプレーができるか。こういう力がないとサッカーでは生きてこない。終了間際の5分間を見てもベルギーが準決勝まで勝ち上がる力があったということを感じた。
 「16強の壁」にまたも跳ね返された日本代表。健闘はしたものの、世界との壁を感じさせる幕切れでもあった。4年後に向けてしっかりと強化を続けてほしい。

(月刊グラン2018年9月号 No.294)

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