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W杯特別編 ワールドカップ2018を振り返って

 前回はノックアウトステージに進出した日本代表の戦いを振り返ったが、今回と次回の2回にわたって、大会全般について総括していきたい。まずは決勝戦に残った2チームについて。

「20年周期」頂点に立ったフランス

 19歳の若さでフランス代表の10番をつけたキリアン・エムパベが、クロアチアとの決勝戦でダメ押しとなる4点目を決めた。1958年大会のペレ以来60年ぶりとなった10代選手の決勝戦でのゴール。大会を象徴するスターの誕生にふさわしいシーンだった。
 178センチと大柄ではないが、足が速く、チームの中で周りに使い、使われながら自分がどう活きていくのかという役割を短い時間で見出した。数多くの有力選手の中から選抜されたフランス代表は、一人ひとりがうまくて強く、判断力も傑出していた。無理やりに攻めるだけでなく、時にはゆっくりと時間を使って攻撃を組み立ててもいた。
 自国開催の1998年以来20年ぶりの頂点。フランス代表のワールドカップにおける歴史を振り返ると58年大会、今も最多得点記録に残る13得点を挙げたジュスト・フォンテーヌの活躍などで3位に入ってからは予選敗退を繰り返した。1978年、そのフランスに現れたスターが「皇帝」プラティニ。彼を中心にしたパス主体の新しいサッカーには目を見張った。続く82年大会ではアラン・ジレスらも加わり4位。86年には3位とステップアップした。プラティニの登場から20年後に開催地として優勝。さらに20年を経てつかんだ2度目の優勝という周期も興味深い。
 従来に比べて黒人選手が増え、攻撃の選手を中心に大型化した印象がある。それでも隣国ドイツのように運動量にものを言わせた几帳面なサッカーではなく、フランス人の感覚に合ったエスプリの効いたサッカースタイルは貫かれている。個人の発想、自由を尊重するところにフランス人らしさがあらわれている。もともとサッカー熱の高い国だが、そういう「らしさ」がなかったら、サッカーを愛さない国民性なのかもしれないが。

「小国」クロアチアの健闘

 勝ち上がってきた延長戦やPK戦、さらに試合間隔が短かったこともあり、決勝戦ではフランスの層の厚さに負けたという印象だが、人口400万人のクロアチアの健闘は今大会最大の驚きでもあった。
 旧ユーゴスラビアから1991年に独立したクロアチアは、旧ユーゴの系統でボール扱いのうまさが光った。ワールドカップを初めて現地取材した1974年、グループリーグでユーゴスラビアとブラジルの試合(0−0)で、ユーゴの選手の技術に驚かされた。正直言ってブラジルの選手よりも個人技が高かったという印象を覚えている。その伝統はロシア大会でも受け継がれていた。
 同時に、日本でもサッカーの基礎技術について考えることの大切さを感じた。ボールを止めて蹴る、それをつないで相手を交わしてシュートする。または相手のドリブルを止める。個人のボール扱いと対敵動作の集合。その能力を高めていく土壌があるからこそ、クロアチアのような小さな国が大国フランスを相手にワールドカップの決勝で戦うことができた。それがサッカーの面白さでもある。1億を超える人口を抱える日本でも、サッカーがこれだけ盛んになった。少年期から基礎技術を高めてほしい。あれだけ体の強い選手が細かなボール扱いができるのを見ると、いくらやっても足りるということはない。
 FIFAの技術代表を務めた元オランダ代表のマルコ・ファンバステンは「守備が組織化されて攻撃のスペースが狭く、メッシやネイマールのようなストライカーにとって難しい大会になった」と語っていた。サッカーでは守備が最も発達しやすく、DFのボール扱いが上手くなっているので、奪ってからのミスが少なくなっている。一度ボールを取られるとボールを奪えない状態が続くので、打開するため計画的に追い込んでいく。決勝戦ではそのような場面が目立っていた。相手をペースに引き込みながらの、まさに逆の取り合い。この部分において、ワールドカップに比べるとJリーグは速さ、強さにおいてレベルが低いとも感じた。
セットプレーの重要性

 3位決定戦で敗れたイングランドが、12ゴールのうち9点をセットプレーで奪った。また、決勝の前半3得点がすべてセットプレーによるものだった。大会を通じてセットプレーによる得点の印象が強く、データを見ても全169得点のうち、セットプレーからは43%にあたる73得点と、前回大会から大幅に増えた。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)導入の影響もあるのだろう。
 セットプレーはボールが停止した状態から始まり、蹴り終わるまで誰にも邪魔されないため、方向や高低などを自在に操ることができる。それでも、ペナルティーエリアの外からのFKで、バーの上を大きく越えるキックもある。日本サッカーも日本人特有の几帳面さを生かして、こういう部分を大切にしてほしい。極端なことを言えばFKをバーに当てて、そのボールに誰かが突っ込むということまで考えるような精度がほしい。キックが正確ならば何でも出来る。
 停止球から始まるセットプレーは野球好きの多い日本人にも分かりやすい。この見せ場を生かせば、サッカーが面白いと思う人も増えるはず。セットプレーを大事にしないのは損だと思う。イングランドは(バスケットの)NBAの守り方や崩し方を参考にしたというが、バスケットはリングやその後方のボードを生かしたリバウンドでの勝負もある。バーに当たるだけでなく、相手に当たるシュートもある。当て方を考えたり、当たったボールを誰が詰めるのかと考えてみれば面白い。敵だと思う通りに当たってくれないから、味方に当てる方法もある。そんなことを改めて考えさせられた。

 数々の番狂わせや驚きを与えてくれたロシアでの戦い。次号でも振り返っていきたい。

(月刊グラン2018年10月号 No.295)

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