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W杯特別編 ワールドカップ2018を振り返って

 ロシアワールドカップの振り返りも今回が最後となる。活躍を期待された選手やチームの思わぬ不振。今大会から採用された新しいシステムなどについて思いを巡らせてみたい。

ネイマール、メッシの不完全燃焼

 準決勝に進出した4チームがヨーロッパ勢で固められ、ネイマール擁するブラジル、メッシを擁するアルゼンチンという南米の両雄はいずれも精彩を欠いた。私がネイマールについて、かねてから歴代のブラジル代表のチームリーダーが持っていたカリスマ性が果たしてあったのかと感じていた危惧が現実になった。王様ペレはキャプテンではなかったが、ずば抜けた個人の力があり、何かあればペレの顔を見て安心する求心力があった。もしくはドゥンガ(元磐田)のような頑張る選手がキャプテンとなり精神的な支柱になってきた。その点で、若くして海外に出てプレーしているネイマールがリーダーとして振る舞えるのかと疑問に思っていた。
 メッシについては、アルゼンチン代表としてはメッシを中心としたチームを作るという思いを持っていたのかもしれないが、すべてを任せきれず中途半端に終わった。結論を言えばチームとして機能していなかった。メッシは懸命にボールを持ち、さばいてはいたが、時折ボールを奪われる時に激しいブーイングを受けるのは少し可哀想な気がした。世界にはアルゼンチンの国名を知っている人よりメッシの名前を知っている人の方が多いはずだ。それほどまでの選手に、もっとボールを触らせるのか、あるいは触らせないで最後のところを委ねるかというところがあいまいだった。
 すでに20年近くバルセロナに住み、母国に帰るのは代表の時だけというメッシは、すべてを抱え込んで結局、損をしてしまった。周りに縁の下の力持ちと言える存在がいればと思ったが、アルゼンチンの選手はどうしても「俺が、俺が」となってしまうのだろうか。同じように注目されたポルトガルのクリスチアーノ・ロナウドは、FWとして前線にいるだけで相手に脅威を与え、点を取ることだけに集中できていた。メッシに比べればやりやすかったのかもしれない。

初採用のVAR。今後の議論に注目

 今大会から主審の判定をサポートし助言するVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が採用された。決勝戦でもクロアチア選手のゴール前での微妙なハンドについて主審がVARを使って検証、判定を覆してフランスにPKを与えたことで勝敗の行方に大きな影響を与えた。
 試合会場ではなく、高速度通信を活用し、モスクワで映像を見ているVARレフェリーがハーフライン後方に置かれた画面を見る主審に助言を行った。採用された結果を見て、判定を正確に見ることとともに、その都度試合を止めて映像に頼っていいのかなど、各国の記者が大いに議論を戦わせることだろう。FIFA主催大会、ドイツのブンデスリーガ、イタリアのセリエAではすでに導入されているが、日本では今後Jリーグで採用するのか、例えば天皇杯決勝だけ採用するのか。そのためにはあらゆる方向からの映像とそれを一覧できる設備が改めて必要となる。
 マラドーナの神の手は、もう起こらないのだろう。サッカーも今や世界中のあらゆる試合がギャンブルの対象になっていて、ワールドカップのような大舞台になると、判定によって世界中のお金の動きまで変わってしまう。レフェリーも完璧な自信がなければ映像を見たくなるのも不思議ではない。
 全体的な試合内容については前回大会に比べてゴール数が微減、堅守速攻型のチームが勝ち上がり、ストライカー受難の大会と評された。守備に人数をかけるというのは大会を勝ち上っていくための大きな要素ではある。不思議なもので、あれだけうまい選手がそろっていても点を取るよりも取られないことの方が楽だということ。ただ、スペイン戦でハットトリックを決めたクリスチアーノ・ロナウドのように、レベルの高い選手がゴールを決めることで、サッカーはより華やかになり、面白くなる。このところ、海外のサッカーを見ても、ボールを保持する力が高すぎるため、ペナルティーエリア近くまでボールを持ちながらシュートを打っていないと感じていた。しかし、今大会はペナルティーエリアの外からでも意識的にシュートを打つ選手が多いように感じた。

48チームは多すぎる

 ロシア大会は12会場がすべてサッカー専用スタジアムで行われた。素晴らしいスタジアムが、ほとんどの試合で満員となり、運営的には高い評価を得ている。ロシアは大国であり、オリンピックでは米国に対抗できる唯一の国家だが、そこにレベルの高いサッカー専用競技場が多数できたことはロシアに限らず世界のサッカー界にとってもプラスになる。もともと旧ソ連時代から国家ぐるみでサッカーの盛んだった地域だ。誇り高い国民にとっても、今回のロシア代表の大健闘は満足できるものだろう。中国をはじめアジアとの付き合いも深いので、かつての日本とサッカーで交流があったように、アジアにもいい影響を与えてほしい。
 4年後の2022年、日韓共催以来20年ぶりにアジアで開催されるカタール大会は、11月21日から12月18日までの開催となる。一部の大陸連盟からは2026年大会からの採用が決まっている48チームへの出場数拡大の前倒しを求める声が上がっているという。48チームになると、アジアからは8チームが選ばれる。1994年アメリカ大会が2枠だったことを考えれば急激な拡大だ。中国をはじめワールドカップへの出場に届かない人口大国も多く、アジアのサッカーファンを意識しているのかもしれない。ただ、48チームのワールドカップには違和感があり、今の32チームで十分過ぎると考えている。世界の頂点を決める大会として、今後も高い理想を持ち続けてほしい。

(月刊グラン2018年11月号 No.296)

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