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「助っ人」たちの半世紀(下)

 90年代に多くの外国人スター選手が続々とJリーグのピッチに登場し、日本のサッカーファンは熱い視線を注いだ。一時期は途絶えていた流れがここにきて復活。ビッグネームの相次ぐ来日に、メディアの関心も高まりを見せている。

ポドルスキ、イニエスタ…神戸の本気度

 90年代途中から世界の移籍金市場が高騰し、世界中をあっと言わせるような選手の来日が減った。その中で2010年ワールドカップ得点王・フォルランのセレッソ大阪への加入は大きなインパクトを与え、ホームゲームはもちろん、アウェーゲームも多くのファンで埋まった。
 そして2017年、ヴィッセル神戸はドイツ代表のルーカス・ポドルスキを年俸6億円(以下の金額はいずれも推定)で獲得。ことし2018年に入ると名古屋グランパスは、ブラジル代表として2014年ワールドカップにも出場、2017年ブラジル全国選手権のMVPと得点王の二冠に輝いた「旬」のストライカー、ジョーが加入した。グランパスが支払ったと言われている移籍金は10億円を超え、Jリーグでは史上最高額と報じられた。
 そして5月には、再びヴィッセルに注目が集まる。スペイン代表としてワールドカップ、ヨーロッパ選手権で頂点に立った司令塔アンドレス・イニエスタの獲得を発表した。ヴィッセルの親会社である楽天がユニホームスポンサーを務めるスペインリーグの強豪バルセロナからの移籍。年俸は30億円を超える。J1でも年間収入が30億円に満たないクラブの存在を考えれば、いかに高額かが理解できる。
 イニエスタ獲得の経緯を見ていると、個人的な上手さだけでなく、チーム全体に目配りできる選手を獲得しようという意図を感じる。1990年代まではレベルの高い選手を獲得しても、受け入れる側の体制が弱く、もったいないと思うことが少なくなかった。しかし、今は強化担当者のほか、監督・コーチやコーチの卵に至るまで国内外のサッカーを勉強し精通している。神戸はイニエスタを獲得しただけでなく、戦略家としても知られるリージョ監督の就任など、チームづくり全体を考えて獲得を進めている。イニエスタは、プレーだけでなくクラブにもさまざまな意見を言っているはずだ。極端な言い方をすればイニエスタやポドルスキの経験に任せ、やり方をすべて真似てもいいのではとさえ感じる。ヴィッセルは、元スペイン代表で2010年南アフリカワールドカップ得点王をフォルランたちと分け合ったFWビジャの獲得も発表した。クラブの本気度が伝わってくる。

「得点王」ジョーの衝撃

 順番が前後したが、Jリーグのプレーに順応した夏から爆発的にゴールを量産し、得点王を獲得したジョーは期待通りの活躍でレベルの高さを証明した。192センチの長身で身体能力も高い。身長だけで相手にとっては脅威になるし、足もともかなりうまい。ゴール前に待ち構えているわけではなく、FWとして必要な相手を外すための動きも献身的にできている。J1残留を果たしたことで、2年目の来季はさらに力を発揮するはずだ。このほか、サガン鳥栖にはイングランドでも活躍したスペイン代表FWフェルナンド・トーレスがプレー。J1の外国人枠が5人増える来季に向けて、注目プレーヤーの来日も噂されている。
 10チームでスタートしたJ1は現在18チームに拡大、J2、J3まで含めれば54クラブを数える。DAZNによる映像配信は2シーズン目を迎えたが、同時にトップリーグのJ1の毎週9試合を新聞やテレビなどがくわしく報道し、地域でどのくらいの関心を集めているかが問われている。平均2万人近い観客をサッカーというビッグスポーツに参加している気持ちにさせることが重要だ。サッカー先進国と呼ばれる地域は発展途上の時期を経て、地域のクラブが安定した絶対的な人気を誇り、その集合体であるリーグが潤っている。日本はJリーグが急速な発展を遂げたとはいえ、メディアを含めた関心はプロ野球との差を感じる。試合翌日、前日の試合を多くの人が話題にするような空気を日本全体に作ることを日本協会、Jリーグが真剣に考えないといけない。そのためには世界的なスター選手を招くことも必要なことだ。

日本サッカーを盛り上げるために

 私が生まれ育った神戸は古くから日本サッカーにおける先進地域だった。Jリーグ参入に後れを取り、二番手といえる選手を集めてスタートし低迷を繰り返した。ポドルスキ、イニエスタらの獲得で来季以降は上位をうかがえるクラブになったものの、長続きしないと神戸の街では話題にならない。神戸のような人口100万規模の都市のクラブが強くなることで、サッカーがどのくらい市民の関心を高め、街全体をどのように活気づけるかというところまでを考えてほしい。試合翌日、街中で阪神タイガースよりもヴィッセルの話が出てくるようにならないと。世界と勝負するためにはそこを基準に置いてほしい。これは神戸だけでなく200万都市・名古屋にも同じことがいえるだろう。Jリーグが発足した25年前、ビッグスポーツを目指した当初の理想を思い出してほしい。
 昔に比べればサッカーに対する理解度は格段に高まった。しかし、日本代表選手の名前は言えるけれど、大半が日本でプレーしていない。今回、イニエスタやジョーを呼ぶだけでなく。彼らのことを海外のメディアがどのように報道しているか。世界共通のビッグスポーツとして見せていくことも大事なこと。それがサッカーの持つグローバルな力だと思う。

 初の「助っ人」選手、故ネルソン吉村が来日して今年で52年が経つ。尻ポケットにつっこんだ、折りたたまれたサッカーシューズを履き、華麗なボールリフティングを披露してから半世紀。次々とやってきた外国人選手を見て新鮮な驚きを積み重ね、今度はJリーグを世界に発信するチャンスでもある。来日した誰もが「日本のサッカーはこんなにスピーディーなのか」と驚くスタイルを伝えることにもつながる。その礎には多くの「助っ人」がいたことを忘れてはならない。

(月刊グラン2019年2月号 No.299)

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