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日本のゴールキーパー(下)

 3月26日、神戸・ノエビアスタジアムで行われた日本代表vsボリビア代表の試合を取材した。日本のGKはアメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた身長197センチのシュミット・ダニエルだった。新時代の日本のGKについて記したい。

「皇帝」との信頼関係で成長したマイヤー

 5年ぶりの代表戦取材。94歳の「サッカー日本代表戦の最年長取材者」ということで、森保一・日本代表からも花束をいただいた。4年ぶりとなった代表戦取材は、とても有意義な時間であり、これからも1試合でも多く、スタンドの記者席からサッカーを見つめていきたい。
 話をGKに戻そう。私が初めてワールドカップ本大会を取材したのは1974年の西ドイツ大会。地元西ドイツの守護神として決勝戦まで7試合すべてに出場したGKゼップ・マイヤーは優勝に不可欠な存在だった。
 それまでは時折ポカともいえるミスを犯すことが多かったマイヤーだったが、前へ出る勇敢さとともに、チーム内で抜群の存在感を持つ「皇帝」フランツ・ベッケンバウアーの信頼を得たことで急成長。地元でのワールドカップでも試合ごとに力をつけていった。飛び出すタイミングは絶妙で、なおかつベッケンバウアーやディフェンスラインとのコンビネーションによって、クロスやシュートコースなどが限定されていたことも功を奏した。まさに以心伝心ともいうべき信頼関係を構築したことが、チームにとって大きな力になっていた。
 最近では2018年ロシアワールドカップを制したフランス代表GKユーゴ・ロリス(トットナム)のうまさが光った。身長188センチ。準決勝のベルギー戦でアンデルヴェイレルトのシュートを素晴らしい反応で防いだプレーは特筆される。キャプテンとしてチームをまとめる精神力も兼ね備えた、まさに守護神の風格を持つGKといえる。
 昨年限りで引退した楢ア正剛も2002年の日韓ワールドカップなど多くの場数を踏み、相手の前線の詰め方をDFラインにコーチングしてきたはずだ。DFラインも楢アがゴールマウスの前にいることの信頼感を持つことで、チーム力は確実に上がる。いいチームには必ずいいGKがいるということは間違いのないことだ。

GKは「攻撃の起点」。育成を急げ

 また、風間八宏監督が指揮を執り3年目を迎えるグランパスを見ていると、GKは守りの要というより、攻撃陣の一人という位置づけをしているように感じる。GKを起点に、時には正確なロングパスやロングスローを駆使し、チームの攻撃にスイッチを入れることができる。GKが持った時の中盤や前線の動き方で相手を惑わすことができれば、さらに得点チャンスが生まれることにつながるはずだ。
 昔話だが、1940年(昭和15年)、私が旧制神戸一中(現神戸高校)5年生の時、当時の明治神宮大会近畿予選で決めた先制ゴールをいまだに忘れることはできない。GKからのロングパスを右サイドで受けたチームメートのパスを見て、「いける」と思った私が裏に抜けてノーマークで決めた。現代サッカーにおいては、受ける選手が上手くなってきていて、サッカーはより攻撃的になっている。GKがボールを持った時が攻撃のスタート、相手が追い付けないような技術とスピードがあれば、相当な武器になるだろう。
 Jリーグ開幕以前の日本代表は、アジア相手にも苦戦することが多く、見た目にGKが弱々しく感じられた。今では、逆にアジア相手ならば圧倒的優位に立ててしまうため、GKが活躍する場面が見られなくなった。私はこのような時代背景が、海外に比べてGKの人気が低い理由ではないかと思っている。そのような日本でも古豪の東洋工業(サンフレッチェ広島の前身)が上手いGKを次々と輩出してきた。GKコーチという専門職はいなかったが、素質よりも伝統的な練習でGKを育成し続けた印象が強い。
 今、日本サッカー協会ではアカデミー年代からGKを専門に育成するプロジェクトを展開している。体格的にハンディがあると言われ続けてきた日本においても、長身で身体能力の高い選手が増えてきている。冒頭に述べたシュミット・ダニエルのような存在もいる。独特な足の動き、シュートに対する感覚、指や腕の強さなど、いいGKになるためにはフィールドプレーヤーとは異なる要素は数多い。子どもの頃から敏捷性やGKとしての専門技術を身につけることで、日本のGKの層は確実に厚くなっていくだろう。
 昨年引退した川口能活が日本代表のアンダーカテゴリーでGKコーチとなり、楢アもグランパスのアカデミーで選手たちにアドバイスを送っていると聞く。Jリーグ草創期から20年以上にわたり、クラブや日本代表のゴールキーパーとして積み重ねてきた経験値を、次の世代に伝えていってほしい。楢アクラスのGKが7人も8人も日本代表の椅子を争うことで、日本のGKは確実にレベルを上げていくはずだ。一人でも多くのスターGKが生まれ、日本代表のピンチを救ってくれることを願っている。

(月刊グラン2019年6月号 No.303)

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