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新元号・令和を迎えてB

 この夏も多くの日本人選手が海外に活躍の場を求めた。中には久保建英(レアル・マドリード)のように海外クラブの下部組織で育ち、日本を経由して再び海外でプレーするという、昭和の時代では想像もできない選手も登場してきた。だからこそ、令和の時代を迎えたサッカー界は日ごろの努力を怠ってはいけない。

相次ぐ若手選手のヨーロッパ挑戦

 6月でFC東京を離れ、レアル・マドリードに移籍した久保は、10歳でバルセロナの下部組織に加入し、プレーを続けていた。バルセロナの外国人選手登録に伴う違反行為で公式戦出場が難しくなったことで日本に帰国、FC東京のアカデミーを経てトップ昇格、途中で横浜F・マリノスへの期限付き移籍もあったが、順調に成長を続け、ブラジルで開催されたコパ・アメリカにも日本代表として3試合すべてに出場。日本代表選手としてスペインに「逆輸出」したことで、これからも注目されていくのは間違いのない存在だ。
 このほかにも、鹿島アントラーズの20歳MF安部裕葵がバルセロナに移籍、すでにベルギーのシントトロイデンでプレーしていたDF冨安健洋がイタリア・セリエAのボローニャに「昇格」するなど、若手の有望株が次々とヨーロッパの名門クラブに移籍を続けている。 今は流出過多になっているJリーグだが、逆に日本のサッカーのマーケットが広がり、サッカーが面白い、給料も高いとなれば、南米だけでなく、ヨーロッパの若い有力選手が日本でチャレンジするようになるかもしれない。90年代には、のちに名門クラブを渡り歩きブラジル代表にも選ばれたアモローゾが、ヴェルディのサテライトでプレーしていたこともあったが、このような動きが活発になれば、本物といえるだろう。
 来年2020年には1964年以来56年ぶりに東京でオリンピックが開催される。この間の日本のスポーツで一番大きな変化といえば、サッカーが盛んになったことではないだろうか。それまで、高校野球に始まり戦前にプロが発足した野球人気が根強かった日本で、サッカーがプロとなり、野球と並んで多くの子どもたちがプレーするようになり、多くの観客がスタジアムに足を運ぶようになった。野球のように放っておいてもいいような状況になったのかどうかは意見が分かれるところだが、サッカーファミリーはこのスポーツをさらに盛んにしていくためにはどうすればいいのかと議論を続けていく努力を続けていかなければいけない。
 野球については、おそらく朝日新聞と高校野球連盟が継続し続ける間は、日本の野球はなくならないと私は考えている。サッカーに関しては、まだそこまで至っていない、基礎がまだ弱いという認識だ。令和の時代はサッカーが新たな社会現象として根付いていくことが求められる。ヨーロッパや南米ではサッカーがすでに社会現象となっている。日本では従来のメディアが野球を盛んにしてきたという同じ方法ではなく、子どものころからサッカーに親しみ、平成の時代に創設されたJリーグを通して、代表を強化し、世界で活躍する土壌をつくり上げる。サッカーならではの国際的な視点の中で、今の努力の手を緩めず、今進んでいることに水をかけるようなことがないようにしてほしい。

出てほしいスーパースターの存在

 国際的な視点でいえば、野球は日本にとって大事な国であるアメリカで多くの選手、最近でいえばイチローや松井秀喜が頑張って、イチローのように最多安打の記録をつくるスーパースターがいることで、日本における人気を保っている。一方のサッカーは、日本の大多数の人がヨーロッパで盛んだということを知っている。そのヨーロッパで日本人選手がスーパースターになることが求められる。単にレギュラーではなく、本当のスターが必要だ。その点では本田圭佑や香川真司のような選手も、ある程度まではいけたと思うが、文字通りスター中のスターにはなっていないのが、とてももったいない。彼らがヨーロッパでプレーすることがどれだけすごいことかは、サッカーをある程度知っている人は分かっているが、日本の社会全体の中ではまだまだ理解が低いのが現状だ。アメリカの野球でスターになることと、ヨーロッパにおけるサッカーでスターになるのでは、サッカーの方がはるかに難しいと思うが、その中に何人かが名を連ねてくれることを願うばかりだ。
 ここ数年、陸上100メートルで10秒を切る日本人選手が相次いだことで、これまでのマラソンとともに短距離種目が注目されることになった。有力選手が続々登場すればスポーツを見る目が変わる。サイズの大きいFW、小さくても何でもできる選手……いろんなタイプがいてもいい。個人的に売り出せる選手がヨーロッパのトップリーグで何人も活躍してほしい。サッカーは記録だけでは計れず印象度も大事なスポーツだが、いい選手がいれば、メディアは必ず数字の裏付けをしてくる。それはヨーロッパであっても変わらない。最近ではデータも多角的になっているので、さまざまなとらえ方が可能になっている。久保や安部、冨安のような10代、20代前半の選手たちを中心に、ヨーロッパから令和の日本サッカーを盛り上げてほしい。それが大正生まれである私の願いだ。

(月刊グラン2019年9月号 No.306)

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