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「攻撃的」「守備的」とは (後編)
前回に続きサッカーの本質について考えを巡らせる。守備をする際、相手がボールを持って攻めてくるので常に相手より1人多いというのが理想だ。相手が1人なら2人、2人なら3人。その数にGKが加わっていても形にはなるが、相手の技術や戦術が高ければ、DFが攻撃より1人多いことが求められる。長年多くの専門家がDFシステムを研究してきたが、戦術論とは数合わせのようなものだ。常に相手より1人多い状態にしたいわけだが、たとえ数が足りなくても個人のボールの奪い合いで勝てばいい。サッカーの面白みはそこにあり、その攻防が90分間続くからプロの試合に観客が集まる。
突出したFWが3人いれば、4人で守っても厳しいこともある。ボールを持つのがうまく、簡単に奪えない選手がいても、狭い地域に引き込み、人数をかけて守ることでボールを奪える。その時々の選手にもよるが、サッカーはその繰り返しである。すべての場面で相手より人数をかけて最後まで走り切るのは不可能であり、どこかで同数や数的不利になる。そこをうまく食い止めることで、逆に数的有利を得て攻め込める。
バルセロナは常に高いレベルでこの繰り返しが機能し、ドイツのブンデスリーガも多くのチームがそのレベルを目指している。バルサのような豊富な資金力がなく高いレベルの選手を集められなければ、動きの量や速さで相手をしのごうとする。
チームも個人も成長していく中で指揮官の考え方に変化も出てくる。前回も紹介したように指揮官には攻撃、守備、どちらかに頭の働きがシャープだという「癖」はある。攻め切ろうとしても、後ろがしっかりしていないと不安だという監督がいる。後ろは2人くらい残っていれば1人で攻め込んできても大丈夫だし、時にはGKがいるからDF1人でもいいだろうという監督もいる。サッカーはボードゲームではなく、人がプレーしているのだから、その考え方や駆け引きも面白い。
他の競技を見ていると、ラグビーのように手を使う競技は一度手で止めるが、スティックを使うアイスホッケーでは、来たパックを止めずにダイレクトで返すことでスピードが出る。ダイレクトパスはサッカーの特徴の一つでもあり、ゴール前へダイレクトでポンポンとつないでいけば驚くようなプレーが飛び出す。スティックには足首がなく変化の面白みは少ないが、サッカーは足首を使い、来たボールをそのまま蹴るだけでなく、ちょっと引いて蹴ってみたり、蹴ると見せかけて引くこともできる。個人のボール扱いの技術によってパスの面白さやタイミングが変わってくる。タイミングを教えていけばどんどんレベルが上がり、攻撃的、守備的とはひとくくりで話せないようなレベルになる。多くのサッカーがそうなってほしい。
(月刊グラン2020年3月号 No.312)