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1970年メキシコW杯「ペレとメキシコ」

 1970年のワールドカップ開催は、メキシコ国民にとって祭りのようだった。

 メイン・スタジアムの『アステカ』を会場とした1次リーグ1組で、メキシコはソ連と0−0で引分け(開幕戦)、同じ中米のエルサルバドルを4−0で破り、ベルギーを1−0で下した。トルーカへ移っての準々決勝ではイタリアと対戦。前半は1−1だったが、後半に3点を奪われ、1−4で敗れた。ただ、開幕戦から準々決勝までは、約4000万人のメキシコ国民にとって期待と不安、そして喜びの二週間だった。

 自分たちの代表チームが敗れた後も、メキシコ人には楽しみが残っていた。“王様”ペレ率いるブラジルがいた。彼らは1次リーグ3組でチェコスロバキアに4−1、イングランドに1−0、ルーマニアに3−1で勝って準々決勝に進出。ここでもペルーを4−2で下したわけだが、ペレ、トスタン、ジャイルジーニョなどの破壊力は凄まじかった。

 チーム全体が左へ回るようなローテーション攻撃はスピーディーで、なおかつ技巧的。見る者を驚かせる意外性も秘めていた。66年のイングランド・ワールドカップは、開催国の雰囲気そのままに剛毅不屈で、重厚なサッカーが支配したが、太陽の国メキシコでは、ブラジルの明るさと華やかさが人々の心を捕えた。

 ペレとブラジルがアステカに現われたのは、決勝の対イタリア戦(6月21日)。彼らは11万人の観衆とテレビ観戦した60か国の人々の前で、フットボール・フィエスタを演じた。ブラジルのアーチストたちが力を発揮できたのは、メキシコ特有のおおらかさと明るさだった…と、今も私は思っている。


(サッカーダイジェスト1991年11月「蹴球その国・人・歩」)

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