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大会の花、ストライカー群、日本は特色を出したけれど…



フランス人の感銘



「日本の選手たちの最後まで戦う姿勢、ひたむきな勝利への意欲はとてもさわやかに感じました。技術も思っていたよりも高く、クリエーティブなサッカーができるチームだと思いました」
“有難うございます。わたしは日本の若者が自分たちのチームカラーを、ワールドカップの場で見せてくれたのを喜んでいるのです”
「そうですネ。日本人の勤勉さがよく表れていました。もちろん勝てなかったのだから力の差はあるのでしょうが、それは、まだ、こうした大会での経験が少ないからでしょう。これから経験を積めば、もっと強くなれるでしょう」

 会話の相手はサッカー専門家でなく、あるパーティーで会ったフランス紳士、夫人が某国の領事という国際結婚(ここではごく普通のことらしい)のダンナさまである。

 アルゼンチンにも、クロアチアにも0―1の“惜敗”だった。対アルゼンチンは初戦の硬さが見られたが、クロアチア戦では暑い中で、動きの量もスピードも十分だったから、多くの観戦者に強い印象を与える試合となった。

 すでに伝えられているように、
「日本のプレーによってレベルの高い試合になった。シュケルの体重が3・8キロも落ちるほど過酷な90分間だった」とブラジェビッチ監督が試合後に語ったのは必ずしも外交辞令ばかりではなかったろう。ゴールを奪ったときのクロアチア側の喜びの大きさは、彼らの苦しみの深さを表していた。



実力どおりの試合ぶり



 強敵との2試合を終わって、わたしが感じたのは、岡田監督とイレブンが自分たちのスタイルと持っている力を十分に出してくれたことだ。

 第2戦のあとで岡田監督は「シュケルのような優れたプレーヤーに対して1対1の個人の力ではかなわないため、組織力、相手1人に対して2人が立ち向かうという戦いを考え、選手たちはよくやったが、勝つことはできなかった」と語った。

 相手1人に対してこちらは2人必要となれば、運動量は相手より多くなる。そこでテレビ観戦の人たちにも日本のラン・プレーが目立った。

 その辛い仕事をほぼ狙いどおり果たしながら、結局、勝てなかった。あるいは同点にして引き分けにできなかった。…ということも、またフランスの人に感銘を与えたひたむきさと同じように、事実なのである。


 世界のトップを争う場にやってきた日本代表が、自分の力をさらけ出したこと、良いものも、悪いものもすべて見せたことで、相手と自分たちとの比較が生まれ、そこから、次になにを加えるか、なにを改良するのかを知ることができる。

 そしてまた日本の出場のおかげで大量のメディア、何万のサポーター、サッカー指導者たちが、実際に自分の目で日本の健闘を確かめながら、相手との違いを知ったことは大きい。



シュケルのシュート



 こちらへ来て、メディアの多くが知ったのは、評判の高いストライカーはやはり、評判どおり働くということだった。

 バティ、シュケルのシュートは、結局、日本の致命傷になった。

 とくにシュケルは、日本のメディアが期待した「クロアチア人のイラ立ち」の何歩か手前まで近づいたときのゴールだった。暑さに疲れて、ミッドフィールドでの動きが鈍り、サポートしたい仲間に対して、あるいは自分のシュートミスに対してシュケルは心中穏やかでなかったハズなのに、日本のミスパスからアサノビッチが左へ持ち上がったとき、右へ開いて、自分の最も得意な左足の前にスペースを開けたところはさすがといえた。そしてアサノビッチも、ゴール正面のDFを越え、シュケルの足元へ落とす(落ちるのでなく)パスを送ったのだった。

 スロービデオで見ると、シュケルのシュートは中西の足の間を通ったから、GK川口にはボールの出どころが見えにくく、むずかしいシュートだったといえる。相手のリーチの内であっても、その外へはずそうとせずに、シュートしたところにストライカーとしてのシュケルの積み重ねた経験を見た(こういうタイミングのときは、ゴールキーパーには見えにくいものだ)。

 こんどの大会はチケットの問題やフーリガン騒動などがあって、運営の面では満点とはいえないが、ピッチの上は活気があって面白いのは、多くのチームに優れたストライカーがいるためといえる。ブラジルのロナウドの突破力やシュートの正確さ、チリの2人のタフなコンビ、ノルウェーの巨人、ドイツのクリンスマン、ビアホフの長身…それぞれのお国ぶり、民族色豊かな個性的なストライカーの活躍が見られる。

 と書いてくれば、では日本の城や中山との比較は、となるが、この頃ではそこまで触れない。

 これまでのワールドカップの旅をはじめ30年にわたって書いてきたテーマと同じく根深いものがあるからだ。そうしたストライカー群の活躍やその背景…をこれからの連載でも眺めてゆくことになる。最終戦の代表の頑張りを祈りつつ旅はつづく。

(サッカーマガジン 1998年7/15号より)

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