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不調ロナウドの出場 ドゥサイイーの退場 異変いっぱいのフランス優勝
決勝は98年大会の象徴
それにしても3―0とは…と思う。
フランス98はスペクタクルで、エキサイティングな試合が多かったが、そうした大会を象徴するかのように、ファイナルはまことに意外性に富み、大きな波が何回となく双方にあって、しかも、開催国が最後にあのブラジルに3点差をつけて勝ち、初優勝するとは…。
7月13日、マルセイユへ向かうTGVの2号車、61番の席で、わたしは前日の快勝を思い出していた。
午後9時キックオフの試合が終わり、セレモニーがあって、そのあと談話などを拾って、スタジアムから外へ出たら午前2時を回っていた。
プレス用のシャトルバスに乗って、回り道をして、ホテルへ帰ったのが午前4時30分。ベットでうとうとする間もなく、7時に起きて朝食をすませ、大急ぎでスーベニールを買いあさって、パリ・リヨン駅発午後1時18分のTGV819列車に乗ったのだった。帰国の前にもう一度マルセイユに用事があったからだが、バカンスが始まったとみえて、ファーストクラスの禁煙車は満席、英語の会話もそこここで聞こえていた。
列車の一人旅は、試合を振り返り、メモをつけるのには一番いい。
ロナウド、欠場から直前の変更
試合の最初の驚きは、ロナウドが最初に配布されたラインアップには載っておらず、代わりにエジムンドの名があったこと。今度の決勝の前に「フランスは開催国で実力もあり、勝ってもおかしくはないが、ブラジルは優勝に値するチーム」などと思いもし、人にもそう言っていた。ただし、ロナウドのケガがどれくらいかが問題…という条件付きではあったが……。
50パーセントしか働けなくても、やはり相手への威圧感ということもあって、ザガロは迷ったのだろう。と、そのときは思ったが、あとで聞くと、ザガロはラインアップから外していたのを、開始45分前にチームドクターが出場OKを出したために変更したという。
試合が始まるとフランスが攻め、ブラジルが守る形がしばらく続く。その間、ロナウドは、ほとんどパスを受けないし、ドリブル突破もない。いつもの10パーセントぐらいしか働けない様だ。
それでもロナウドはエリア左から一度、GKバルテズに難しいボールを送り、バルテズが辛うじて防いだ。
ジダンのヘディング
先制ゴールはジダンのヘディング、それも完璧なもの。右CKを蹴った金髪のプティの左足から送られたボールは、ニアポストの相手DFを越え、飛び込んできたジダンの頭にピタリと合った。
185センチのジダンのヘディングもブラジル側は警戒していたハズだが、ルブフやドゥサイイーなどの長身組がファーポスト側にいるのを警戒して、後方から走り込んでくるジダンをマークできず、彼と競り合ったのは、8センチも低いレオナルドだった。1―0。
2点目もジダン、ロスタイムが3分あるという表示が出てから1分か1分半過ぎていた。ギバルシュのシュートが防がれた後の左CKのチャンスがあり、ジョルカエフの低いライナーに合わせてジダンが飛び込んだ。強くたたかれたボールはゴールカバーのロベルト・カルロスの両足の間を通ってしまった。
ロベルト・カルロスのロングスロー
ザガロ監督は後半、動きの鈍いロナウドはそのままに、レオナルドの代わりにデニウソンを投入、彼のドリブルとロベルト・カルロスによって左からの攻めの強化を狙った。
ロベルト・カルロスはFKやクロスだけでなく、スローインでも遠くまで投げてチャンスを作る。そのロベルト・カルロスのクロスから、ロナウドがシュート。この日、彼がゴールへ向かって蹴った2本目は、至近距離からだったが、GKの正面。ときどきポカの出そうなバルテズは、こういうときにしっかり止めるから不思議…と見ていると、ロングスローに飛び出してたたきそこね、ベベットがシュート、それをゴール前ではね返したのはドゥサイイーだった。
今年のフランスの守備の安定の大きな要素であるドゥサイイーの守りはほれぼれするほどだが、そのドゥサイイーが68分に2枚目のイエローで退場処分。10人となってしまう。ブラジルがエジムンド(セザール・サンパイオと交代)を入れると、ジャケ監督はビエイラをジョルカエフと代えた。
ブラジルの攻撃はなお続くが、ロナウドが働けないことは変わりなく、決定的なチャンスはバーに当てたデニウソンのシュートだけ。
フランスもデュガリーがノーマークシュートを外したが、攻めあぐむブラジルを尻目に、ロスタイムに入って3点目をもぎ取った。
デュガリーがドリブルする横を元気なビエイラが駆け抜け、ダイレクトで中央を走り上がったプティヘラストパスを出した。プティのシュートは飛び出したタファレルを抜いてゆっくりゴールに転がり込んだ。
ロナウドについての疑問は残るにしても、フランスは狙い通りの勝ちっぷり。退場などの異変への対応もまことに見事だった。
ブラジルのテクニックも、精密機械ではなく、感情の起伏によってミスも出る。
そこがまたスポーツの、サッカーの面白さ。ワールドカップのドラマかもしれない。
列車の中で、今度の大会を帰国してから反すうし、仲間たちと語り合う楽しさを思うと、ひとり口元もほころんでくるのだった。
(サッカーマガジン 1998年8/5号より)