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ツールーズの初舞台前半に惜しい失点

積極的に攻めたが…



…1点取られてしまいましたネ。
“あの時間帯は、たてつづけにファウルを取られ、パスを奪われていたからネ。これで、引き分けるためには1ゴールを返さなければならないから苦しくなった”
…もっと点差が開くでしょうか。
“さあ、どうかな。しあし、きょうは比較的涼しいから、日本には有難い天気といえるでしょう”

 マルセイユに住む友人たちの話では、ツールーズは、南の背後にピレネーの山地を持ち、ガロンヌ河が貫流する盆地であるだけに、夏にはとても暑い日があり、それが湿気を伴うために堪えがたいものだという。

 エクスレバンのようにスイスに近い涼しい、いい気候のところにいる日本チームが、もし、そんな日に試合をするとなったら大変だ…と心配をしていた。大会がはじまってしばらく、フランス全体が涼しいというより、ナイトゲームのときはセーターがほしい日もあったほど、午後2時30分キックオフのこの日の試合も“酷暑”とはほど遠かったのが、なによりだった。

 その20度前後の気温を味方にし、スタンドを埋めた日の丸とブルーの大声援をバックに、日本代表は前半の45分間を果敢に戦った。

 バティスチュータとクラウディオ・ロペスという2人のFWと、これにパスを送り、自らもシュートする小柄なオルテガらの攻撃陣を、どのようにして防ぐか、がこの試合のひとつのポイントだった。試合が進むにつれて、オルテガだけでなくて、11番をつけ、髪を剃り上げたベロンもベテランのシメネオも攻撃にからむと、やっかいな相手であることもわかった。

 最初にシュートしたのは日本で、左サイドで相手ボールを奪ったあと中田が中央の山口へパスし、山口がシュートした。バウンドのボールを止めないでボレーで蹴ったのが、正確にヒットできず、右外へはずれた。

 得点にはならなくても、最初に一発、相手をヒヤリとさせる鋭いのを打っておけば、脅(おどし)として次に、役立つのだが……。



アルゼンチンはまず守りの安定



 中盤で細かくつないで、攻めこもうとする日本に対して、アルゼンチンはボールを取ると、まず、日本のDFラインの背後を狙う。長いパスは成功はしないが、その分、DFは前へ出ているから、守りは安定している。アルゼンチン・リーグなどでも、近ごろはコンパクトにやっているように見えたが、パサレラ監督は、まず守りの安定を第一にしたのだろう。

 短いパスをつないで、組み立てる日本のやり方は、パスミスがあって相手に奪われると一気にピンチになるのがこわい。そしてまた、MFがパスをつないでも、相手のDFはゴール前の大切なところは守っている。中山と城が相手を背にした状態から前へむきなおることができないこともあって、危険地帯への攻めこみがほとんどできない。



押し込まれて生まれるミス



 25分ごろから、日本にファウルがたてつづけに生まれる。相手への接近が遅れたのか、相手の動きが早くなったのか、いずれにしても、当方が受け身になり、そのつど、エリアの近くで壁をつくり、危機感をつのらせることになる。そしてとうとう1点を奪われる。試合後にビデオを見なおしたその経過は…。

 27分に秋田のバティに対する反則でFK、オルテガ→ベロン→ロペスと渡った球を、ロペスが左足アウトサイドで、DFラインの背後へふわりと浮かせるパスを出した。バティを前にして秋田が、軽く蹴りかえし、前方の相馬に渡す。相馬はこれを前方へパスをしたが、左足のボレーで蹴ったボールは、前進していたボランチのアルメイダに直接、渡ってしまう。

 彼からパスを受けたオルテガが中へドリブルし、左のシメオネにパスしておいてオルテガは反転してエリア内へ突進。それに合わせてシメオネが早いパスを送る。強い球をオルテガは触らず、名波の足に当たる。後退してきたところで飛んできたボールを名波は処理できずに、ボールはゴールの方へころがった。そこにバティがいた。

 飛び出してくる川口をさけるように、右足でキック、足首のスナップをきかせただけの鋭く小さなスイングは、あのバティ・シュートの豪快さとは別の、正確なコントロールシュートとなってゴール左ポストぎわに吸いこまれた。

 どんなゴールでも、ゴールはゴール。初戦の硬さのあったアルゼンチンは、自信をとりもどし、勢いづく。

 日本も中田のドリブル、両サイドの攻めあがりで、1点を返そうとする。これは第三者が見ても面白い方だろうと思う。

 ただし、日本の攻めは相手の最終ラインの手前で、パスミスがあったり、ドリブルを失敗したりする。

 そしてそこからのカウンターを、日本のディフェンスが懸命に防ぐ。相手がボールを持つ、いわゆるドリブルをするおかげで、この前半だけでも日本のDFは、その対応が、ぐんぐん上達するのではないかと思うほど、1対1で頑張る。

 という経過で45分間はアッという間に過ぎてしまった。
…後半はメンバーを代えるのでしょうか?

 つぶやくように語りかけるT君の声を聞きながら、私は、誰がゴール前で落ち着いて蹴れるのだろうか、と考えていた。

(サッカーマガジン 1998年8/26号より)

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