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2試合ともよく防ぐも無得点という記録が…

中西の好守、前半0―0



 ユースの試合で日本が韓国に敗れるのをテレビで見た。ボールキープの率や、攻め込みなどは、こちらの方が多かったハズだが、それで得点が1点しか取れないのは、全く代表チームと同じで、第2列からのシュートが不正確で、また、右、左のクロスがニアサイドの相手DFにはね返されることが多いからだった。

 正確なキックのできる選手が少ないのは世界的な傾向だが、日本のように“つなぎ”を重視するところは世界の標準以上にキックの精度を上げなければなるまい。

 さて、クープ・ドゥ・モンドの旅は、前号で日本―クロアチア戦の前半0―0で進んだ30分すぎ、日本のチャンスのあとにピンチが生まれたところ。シュケルが右からのパスに対して、いったん中西から“消え”ておいて、ダッシュしてノーマークになったのを川口が落ち着いて防いだところまでだった。

 このころから暑さのために両チームともに動きが落ちた。38分には秋田のバックパスをシュケルにさらわれヒヤリとしたが、中西が“足の速さ”と見事なスライディングで防いだ。中西の左足の足首がきちんとボールを捕らえたから、エリア内でシュケルが倒れてもレフェリーは笛を吹かなかった。

 45分すぎて0―0、強チームを相手の日本の健闘にハーフタイムの記者席は期待感が漂う。

 クロアチアのキックオフで始まった後半も、白に赤の市松模様のクロアチアが守りを厚くする形は変わらず、日本は中盤ではよくボールを取る。しかし、ゴール近くに3〜5人いる相手の守りを崩せず、城のオーバーヘッドキックも決まらない。

 61分に岡田監督は中山に代えて岡野を投入した。岡野は右サイドで1回、左サイドで1 回、そのスピードを生かしてゴールライン近くまでは行った。しかし、右サイドからはクロスがやや大きく、左サイドからは後方に戻し相馬のシュートはバーを越えた。

 クロアチアは20分のシュケルのシュートがバーに当たって、日本サポーターを驚かせる。川口がやや前に出ていたのを見て、左足のボレーで、頭を越したのだった。

 96年欧州選手権でデンマークのGKシュマイケルの頭越しに決めた「会心のゴール」の再現はできなかったが、常に相手DF、相手GKの位置を把握しているシュケルらしいプレーだった。

 いいシュートは仲間を奮い立たせる。日本が疲れから動きが少なくなってきたのに対し、クロアチアは第3列も時折上がりを見せる。そして77分、ついにシュケルのゴールが生まれた。



シュケルの技巧



 ハーフライン近くでの中田からの山口へのバックパスが弱く、これをアサノビッチが奪い、マリッチとワンツーのあと、日本のDFラインの裏へ流し込もうとした。井原がスライディングで防いだが、再びアサノビッチが拾って、縦にドリブルし、エリアに入って、右へクロスを送る。

 ボールは中央の敵、味方を越えてファーポスト側に落ち、そこにシュケルがいた。

 シュケルは心憎くも中西のタックル・レンジの外でボールを取り、左足でシュートした。ボールは足を出して防ごうとした中西の足の間を通り、GK川口の左手をかすめて転がり込んだ。1―0。

 アサノビッチがボールを奪ってから一気に突っ掛けてくる速さと、的確なクロス、GK川口に取りにくく味方のストライカーの足元に落とすテクニックの正確さ。そして、相手のタックルの届かぬ場所へ、移動していたシュケルの駆け引きと、フィニッシュの確かさが、暑く苦しい中で、見事につながった。

 日本は名良橋に代えて森島(79分)を投入し、さらに84分に呂比須(名波と交代)を送り込んで同点ゴールを狙う。

 84分、右の中田からのクロスを呂比須が長身のソルドの前でダイビングヘッド。ボールはポストの左へ出る。86分には森島が走って、左タッチ際でボールを取り、後方の中田へ。中田からゴール正面の岡野へ…だが、わずかにパスが逸れた。

 もっとも、バックの数を少なくしただけに、相手のFWにボールが渡ると危ない場面がくる。シュケルへ出た高い球を競り合って秋田がホールディングし、エリアすぐ外のFKのピンチがあった。シュートは壁に当たってゴールラインを割ったが、判定はゴールキック。

 2分のロスタイムも終わって第1戦同様に0―1。2試合ともよく防いだが、無得点という記録が残った。

 ナントの駅でパリへ戻る列車を待っている間に、若いサポーターと話す。サッカー・マガジンでよく読んでいるとのことだったが、その会話の中で元気になった言葉があった。
「クロアチアにも失望しました。ロングパスやドリブルだけでしたから」それに対して、私はこう言う。
“サッカーは得点するのが第1で、彼らはこの試合はこのやり方で勝とうとしたのでしょう。コンパクトなサッカーや、きれいなパスワークといっても、それはあくまでも点を奪い、失点を少なくするのが目的です。ロングパスを正確に味方に渡せる選手がいて、また、それを受けて得点できる選手がいれば、それでもいいのですよ”と。

(サッカーマガジン 1998年11/18号より)

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